CMOSイメージセンサー(CIS)分野の活況が続いている。スマートフォン1台あたりに搭載されるカメラの個数が増加する「多眼化」の傾向が続き、台数ベースで飽和状態のスマホ分野でも需要が伸びている。さらに撮像素子としての感度を向上・維持させるため、チップサイズ(光学サイズ)の大判化も進む。2020年はトリプルカメラの先を行く、クアッドカメラ(ToF除く)も市場に投入される見通しで、しばらくは「多眼化」「大判化」が市場拡大を牽引する構図が続く。

中~低位機種でも多眼モデル

 20年のスマホ市場は5Gの商用化がカンフル剤となって、17~18年と続いたマイナス成長から一転、台数ベースで持ち直す見通しだ。前年比で4~5%増の約15億台が見込まれるが、成長率という観点では当然のことながら以前ほどの力強さはない。5G普及によって、一部デバイスには新たな事業機会が巡っているものの、基本的には部品需要もこれに連動したものとなっている。

 一方で、CIS分野はこのトレンドに巻き込まれていない。アップルが16年の「iPhone 7 Plus」でデュアルカメラを採用したことを契機に、中国ファーウェイのトリプルカメラ戦略がこの流れをさらに加速させた。現在はスマホ主要メーカーの多くが上位機種だけでなく、中~低位機種にも多眼モデルを投入している。

 20年もこの流れは継続し、上位機種はトリプル、一部機種ではクアッド(広角、超広角、深度、接写)が主体となってくる見通しだ。20年台数見通し(約15億台)のうち、デュアル以上の比率は72%(前年52%)、トリプル以上の比率は29%まで高まる見通しだ。

 企業別では、アップルが19年に下位機種にも多眼カメラを採用して、全体の構成比を押し上げているほか、ファーウェイに至っては全機種がデュアル以上の構成となっている。ファーウェイ以外の中華圏スマホメーカーも20年はトリプルカメラ搭載機種を続々とリリースする予定で、CISの需要を大きく喚起する。

6400万画素品も登場

 ウエハー消費の観点からみれば、多眼化と同様に、大判化のインパクトも大きい。他の半導体と異なり、CISは光を取り込むデバイスであるため、微細化(画素セルピッチの縮小)を行うと、感度の低下を招く恐れがある。そのため、高画素化が進展すると、画素セルピッチが同等ならダイサイズは多くなってしまう。

 19~20年にかけては広角カメラに4800万画素品を搭載するケースが増えており、シャオミーでは6400万画素搭載の機種も投入を始めている。4800万、6400万画素ともに画素セルピッチは0.8μm(65nm相当)を採用。光学サイズは2.3分の1インチ~1.7分の1インチと肥大化している。

ソニーに続き、韓国勢も積極投資

 需要拡大を受け、CIS供給各社も生産能力の増強を急ピッチで進めている。ソニーは3カ年中期計画の最終年度となる20年度末までに月産13万枚体制(19年9月末時点で10.8万枚)とする予定だった計画を改め、既存工場の生産効率を一層高めることで13.8万枚まで引き上げる。

 さらに、18~20年度に総額6000億円を予定していた設備投資について、1000億円を追加投資して長崎テックに増設棟の新設を決めた。増設棟の規模や稼働時期は非公表だが、21年度早々に稼働させるとみられる。これに伴う投資の前倒しで、(合計の7000億円から)投資をさらに数百億円増額する可能性があると説明している。

 業界2位のサムスン電子も、非メモリー事業拡大の一翼を担う製品として、CISの積極投資を続けている。18年に華城地区でDRAM生産を行っていた第11ラインをCIS向けに転換(S4ラインに名称変更)。生産能力を月産5.5万枚まで高めた。現在、同じくDRAMのレガシーラインであった第13ラインの転換投資に着手しており(月産1.3万枚分)、20年1~3月期には生産能力として寄与する見通し。

 同じくSKハイニックスもDRAMからCISへの転換投資を進めており、M10ラインを改修しCIS向け300mmラインとしてリフレッシュさせる投資を進めている。

金額、数量ともにソニーがトップ

 調査会社のテクノ・システム・リサーチ(TSR)によれば、2018年のCMOSイメージセンサー出荷数量は前年比18%増の約62億個となった。スマートフォンの出荷台数が減少しているなかで異例ともいえる伸びを見せたのは、多眼化による影響が大きいと思われる。

 各社別のシェアでは、金額・数量ともにソニーがトップを堅持。金額ベースでは高画素領域のセンサーを手がけていることもあり、5割近いシェアを保有する。非メモリー事業の拡大を掲げる韓国サムスン電子が業界2位で、数量・金額ともに2割を超えるシェアを持つ。数量ベースでオムニビジョンテクノロジーズに次ぐ規模の中国ギャラクシーコアは、130万画素や200万画素など低画素品を中心に事業を展開しているため、金額ベースでは順位を落とすかたちとなっている。

 オムニビジョンやオンセミは車載用に傾注しており、オンセミが同分野で首位に立つ。上位2社が市場の過半を占めるなか、成長市場を巡ってソニーやSTマイクロエレクトロニクスも製品投入を強化している。

20年は供給タイトに、200万画素など低画素品でも不足感

 予想を上回るペースで需要が拡大していることもあり、CIS供給各社は積極的な設備投資を展開。生産能力の増強を急ピッチで進めているが、「20年は供給が非常にタイトになる」(TSRの三輪秀明アナリスト)として、不足感が強くなる可能性も出てきた。

 さらに、多眼化に伴い、200万画素などの低画素センサーを用いる深度用、接写用で不足感が強まる懸念もある。CIS各社としてはより高付加価値、かつ収益性が見込める分野で事業を優先的に行うため、低採算の200万画素品については敬遠されやすくなってしまう。

 加えて、200万画素品は原則200mmラインで行うため、そもそも業界全体でキャパシティーが足りていないとの見方もできる。4800万や6400万画素といった先端製品はもちろんだが、多眼化に欠かせない200万画素品の確保が、スマホならびにカメラモジュールメーカーにとっては20年の事業運営を左右するポイントとなりそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳