本記事の3つのポイント

  • 韓国のサムスン電子が19年10月に創業50周年の節目を迎えた。半導体メモリー、フラットパネル、スマートフォンなどエレクトロニクス業界の各分野でトップを走る
  • 次の50年を見据え、新事業の発掘・開拓のほか、様々な社会的問題の解決に向けた姿勢も見せている
  • 輸出管理問題で揺れる日韓関係を考慮し、今後は日本企業に頼らない半導体材料の国産化などにも注力していく

 

 韓国エレクトロニクス産業が不毛の時期であった1969年に創立したサムスン電子。2019年10月、創業50周年という節目を迎えた。韓国の代表企業であるサムスン電子は、企業の世界売上高ランキングで10位前後の規模にまで成長し、メモリー半導体とフラットパネルディスプレー(FPD)、スマートフォンなどといった先端産業分野では圧倒的な強さを誇っている。

世界トップクラスのIT総合メーカーに飛躍

 1969年当時、36人でスタートしたサムスン電子の従業員は、18年末時点で10万人を超えた。売上高は1969年に3700万ウォンであったが、18年通年では243.7兆ウォン(約22.8兆円)に膨れ上がった。

 同社が奇跡的な発展を遂げたターニングポイントは、93年に現在入院中の李健熙(イ・ゴニ)会長が打ち出した「新経営宣言」であろう。「妻子以外のすべてを変えろ」という名言として知られる新経営宣言は、それまでのサムスン電子の旧態を捨てて、ビジネスの質を画期的に高めることを意味していた。以降、同社は半導体をはじめ、携帯電話やテレビ、FPDなど多様な事業分野で世界No.1に浮上した。

 これによって、サムスン電子の位置づけもグローバルトップ企業にふさわしい成長を持続してきた。米ブランド・コンサルティング会社のインターブランドが発表したグローバル企業ブランド価値で、同社は99年には31億ドルでランキングに入れなかったが、19年は611億ドルを記録して第6位にランクインした。

DRAMは27年連続で業界トップ堅持

 サムスン電子は半導体・IT・FPD分野で世界最高の競争力を持つ。また、世界No.1に浮上した品目も多く確保している。その代表格がメモリー半導体である。DRAMは92年以降、18年まで27年連続してトップを堅持。NANDフラッシュも17年連続で業界トップを守っている。また、ソリッドステートドライブ(SSD)も13年連続1位だ。毎年継続的な技術開発によって、製品の質的・量的・競争力で世界最強を誇っている。

 非メモリー分野のシステムLSI分野においても、ディスプレードライバーIC(DDIC)は17年連続業界トップ、スマートカード用ICも13年連続業界トップをキープしている。同社はシステム半導体分野に対して、2030年まで133兆ウォン(約12.4兆円)を投じ、さらなる技術競争力を強める。またスマホについては、11年以降、8年連続して市場シェアトップの地位にいる。さらに、中小型有機ELパネル分野は12年連続でトップを疾走している。

折り曲げ自由自在のフォルダブルスマホ

「ニューサムスン50年」を着々と推進

 過去50年間でグローバル企業に飛躍したサムスン電子。今後の課題は次の50年を準備することであろう。事業戦略として、果敢な投資と積極的な成長動力の発掘に注力している。19年にシステム半導体に133兆ウォン、FPD分野に13兆ウォンという大規模投資を計画したことが代表的な例である。また、スタートアップやベンチャー企業などと積極的に協業することも、新しい成長動力を発掘するための戦略の一環といえよう。

華城地区に建設中の新工場「EUV Line」

 また、創立50周年を迎えたサムスン電子は、様々な社会的問題を解決しながら、次の50年に備えている。未来に備えた新規投資と新事業の発掘で「ニューサムスン50年」を着々と推進中だ。

 李在鎔(イ・ジェヨン)代表取締役副会長の体制になって以降、同社は自主的に循環投資の鎖(サムスングループ系列のうち、李氏一族が筆頭株主の会社がサムスン電子を支配するなどの韓国式の財閥企業の構造)を一部は解消している。今まで大手財閥企業の循環投資構造は、オーナー一族のわずかな持ち分で、事実上グループを支配しているという批判を受けてきた。サムスングループは、18年にサムスンSDI、サムスン電機、サムスン火災が保有するサムスン物産の持ち分全量を売却し、循環投資の鎖を完全に解消したと主張している。

 また、長期間にわたって争ってきたサムスン電子半導体従業員ら「白血病被害者」に対する補償争議も一応、被害者家族との和解に合意している。同社は18年11月、「白血病問題解決の調整委員会」の仲裁案を受け入れた。サムスン電子はそれ以降、産業安全保健発展基金500億ウォン(約46.7億円)を韓国産業安全保健公団に寄託した。サムスン電子内部の安全保健システムを強化するなど、労働者の安全と健康を守る事業場の環境改善活動を行っている。

非常経営体制で危機克服に奔走

 サムスン電子は、非主力事業を果敢に整理し、未来新成長事業には大規模投資を決定するなど、果敢な経営を貫いている。企業の成長過程で生じた事業多角化を整理し、主力業種中心の「選択と集中」を力強く推進している。

 14年には防衛関連や化学といった非主力事業を売却した。ハンファグループにサムスンテクウィンとサムスンタレス、サムスン総合化学、サムスントータルなど4社を売却した。また、15年11月にはロッテグループにサムスン精密化学、BP化学、エスケミカルなども売却した。

 韓国経済界ではサムスン電子について、今までは成長を維持できたものの、解決すべき課題も少なくないと指摘している。メモリー半導体を筆頭に、スマホや生活家電、FPDなどは世界最高水準を堅持しているが、メモリー半導体の不況に伴う業績低迷と米中貿易戦争の長期化、日本による半導体・FPD向けコア材料の輸出規制の厳格化などで不確実性も高まっている。

 同社はこのような内外の不安材料が重なったことで、これを「危機的状況」と判断し、19年7月から非常経営体制に突入している。李副会長は昼夜を問わず、半導体・FPD・家電分野の社長や系列会社の経営陣を招集し、戦略会議を開催している。また、平澤(半導体工場)、牙山(FPD)工場などの主要事業場を訪れて、危機克服のための対策作りに奔走している。

 李副会長は先代の経営者のように迅速かつ果敢な投資で危機克服を図っている。現状で100兆ウォンともいわれる「埋蔵金」で人工知能(AI)やバイオなどの未来事業、システム半導体や次世代FPDなどに超大型投資を決定し、これらを着実に推進しようとしている。

 50年先のサムスン電子は、現在の事業戦略に盛り込んだ「世界に通用する先端半導体技術の開発」「日本製に頼らない半導体向けコア材料の内在化」などが実現できているのだろうか。

電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

まとめにかえて

 韓国経済を背負って立つ立場にあるサムスン電子。国内景気が今ひとつのなか、積極的な投資を敢行するスタンスは今も昔も変わりません。足元の半導体市況はまだ回復途上ではありますが、すでにNAND投資の再開を行っているほか、今後は台湾TSMCと競合するファンドリー(半導体受託製造)分野でも大型投資を敢行することで、その差を詰めていきたい考えです。良くも悪くもサムスン電子に振り回される半導体設備投資の動向。今後も同社の動きに俄然注目が集まります。

電子デバイス産業新聞