TOPIXの方が日経平均株価より優れているのに、世の中では日経平均株価が使われている理由を、久留米大学商学部の塚崎公義教授が解説します。

TOPIXは日経平均より優れた指標

日本の株式市場の動きを全体として見る場合、TOPIXか日経平均を見るのが普通ですが、両者を比較するとTOPIXの方が優れています。

日経平均株価の基本は、主要225社の株価を単純に平均したものです。したがって、値がさ株(株価の高い銘柄)の動きが大きく反映されてしまうという問題があります。

たとえば、トヨタ自動車とファーストリテイリングを比べると、前者の方が発行済株式数がはるかに大きく、株式時価総額もはるかに大きく、したがって前者の値動きの方がはるかに重要なのですが、前者の株価が1割上がり、後者の株価が1割下がると日経平均株価は下がってしまう、といったことが起きてしまうわけです。

ちなみに、過去との比較をする必要があるため、「株式分割によって株価が下がった銘柄がある場合には、単純に平均した値を水増しして、分割前と日経平均株価が変化しないように調整する」という作業が行われています。

225銘柄の中で2万円を超えているのは少数ですが、日経平均株価が2万円を超えているのは、こうした調整が行われているからなのですね。

一方で、TOPIXは、東証1部に上場する全銘柄の時価総額の変化を指数化したものですから、トヨタ自動車の株価が1割上がり、ファーストリテイリングの株価が1割下がった場合には、TOPIXは上昇します。

また、225銘柄に含まれない多くの銘柄の値動きも反映されるので、その点でも日経平均より優れていると言えるでしょう。

そこで、機関投資家などは、日経平均よりTOPIXを重視しているようですが、一般の人々の会話にTOPIXが登場することは稀で、日経平均ばかり登場しているのが現実でしょう。なぜ、そんなことが起きるのでしょうか。

皆が使うものを使う方が便利だから

新入社員が経済を勉強し始めたとします。TOPIXの値動きを頭に入れて出社しても、上司も先輩も取引先も日経平均の話ばかりしていたら、TOPIXの値動きについて語るチャンスがないかもしれませんし、語っても誰も興味を示してくれないかもしれません。

一方、日経平均の値動きを頭に入れておカば、会話に参加することができ、「新人なのに、よく勉強している」などと褒められるかもしれません。

そうなると、新入社員は翌日からも日経平均を頭に入れて出勤するようになります。そして、翌年の新入社員に向かって「TOPIXより日経平均を見なさい」と教育するようになるのです。

こうしてすべてのサラリーマンが日経平均を見るようになり、マスコミもTOPIXより日経平均について記すようになり、ますます多くの投資家が日経平均の話をするようになっていくわけですね。

国際会議が英語なのは、過去がそうだったから(笑)

国際会議は、英語で行われます。日本人もドイツ人も中国人も、英語を使うわけです。これは、英語が日本語やドイツ語や中国語より優れた言語だからではありません。

過去の国際会議が英語で行われたため、参加しようとする人は「会議で発言するために、英語を勉強しよう」と考えて英語を勉強します。そこで、英語を話せる人が世界中に存在するようになっており、今年の国際会議も英語で行われることを彼らが望むのです。

全員で話し合って「来年から国際会議は日本語で行おう」と決めることは、理屈上は可能ですが、日本人以外の全員に日本語を勉強してもらう必要があるので、実際には通らないでしょう。なんと言っても、今年の参加者の多くは英語が話せるので、来年も英語で行いたいと思っていますから。

皆が使うものは、いっそう多くの人が使う

筆者は、Facebookが趣味です。Facebookを開くと、多くの友人の投稿が読めますし、筆者の投稿も多くの友人に読んでもらえて、楽しいです。

そうなると、筆者は友人にも「Facebookを始めると楽しいよ」と勧めることになり、一層多くの人がFacebookを楽しむようになるでしょう。そうなれば、筆者自身の楽しみも増しますし、新しく始めた友人も十分楽しめるはずです。

こうしてFacebookは、一度多くの利用者を集めることができれば、あとは比較的簡単に利用者を増やしていくことができるわけです。

たとえばFacebookのような会社が一斉にサービスを始めたとしましょう。最初の数カ月で多くの利用者を集めることができた会社がその後も発展し、そうでない会社は撤退するという可能性が高そうです。

一番技術的に優れた会社が勝つとは限りません。最初の数カ月に利用者を増やせた会社が勝つ場合も多いのです。そこで、最初の数カ月に猛烈な利用者獲得競争が行われる、といったことも珍しくないわけですね。

本稿は以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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塚崎 公義