8月11日、アルゼンチンで大統領選挙の予備選挙が実施され、野党候補のフェルナンデス元首相が現職マクリ大統領を抑えて首位となりました。

アルゼンチン大統領選挙予備選結果が市場に与えた影響

選挙管理委員会の公式発表によると、フェルナンデス氏の得票率は30.5%と、マクリ氏の15%を15.5%上回っています。フェルナンデス候補の得票率は、直近の世論調査で想定されていた2~8%のリードを大きく上回っており、マクリ氏の再選が危ぶまれる状況です。国際通貨基金(IMF)の金融支援を受けながら緊縮財政政策を推進してきたマクリ大統領に対して、世論はついてこなかったと言えるでしょう。

一方で、左派ポピュリストと目されるフェルナンデス候補が大統領になった場合、アルゼンチンの財政状況はさらに厳しい状況に追い込まれるとの市場の懸念は、一気に強まりました。

8月16日には、大手格付け会社2社が、アルゼンチンの長期債務 (信用) 格付けの引き下げを発表しました。フィッチ社は、マクロ経済環境の悪化が「ソブリンデフォルトや何らかの債務再編の可能性を高めている」として、アルゼンチンの長期発行体格付けを「B」から3段階引き下げ「CCC」としています。またS&P社は、アルゼンチンの「脆弱(ぜいじゃく)な財政状況」に懸念を表明し、格付けを「B」から「B-」に引き下げて、今後の見通しも「ネガティブ」としました。

このニュースに最も大きく影響されたのが、当然ながらアルゼンチン国債です。予備選挙直前の8月9日に額面1ドル当たり104セントで取引されていた変動利付国債は、一時過去最安値の同71セントまで急落。指標金利に連動する利回りは一時年率にして75%に急騰しました。また通貨ペソの年初来の下落率は37%にまで拡大しました。この予備選の結果を受け、市場では、1米ドル=65アルゼンチンペソと約30%ほど急落し、債券や株価も大きく下落しました。

市場では、一部の米系大手運用会社が、投資適格債券ではないアルゼンチン国債を大量に保有していたことも噂されており、今後、投資家がアルゼンチンへの投資に一段と慎重にならざるを得ないとの懸念も強まっています。

世界でも有数の経済大国だったアルゼンチン

アルゼンチンは、1860年から1930年にかけて力強い経済成長を果たし、第一次大戦時期までは世界でも有数の経済大国の一角を占めていました。

アルゼンチンは広大かつ肥沃なパンパと呼ばれる土地に恵まれ、農業にとっては好条件が揃っている国でした。移民入植と外資導入により農業振興が進み、鉄道網の拡大と農業技術の移転・改良もあって、小麦やトウモロコシなどの穀物輸出が増加。また、冷凍船の開発により食用肉の輸出が伸びたこともあって、アルゼンチンは世界有数の食糧輸出国となり、農業で大きな発展を遂げました。ちなみに、現在でも世界第5位の食料輸出国で農作物の供給国です。

5000%のハイパーインフレを経験したアルゼンチン

しかし、世界恐慌後は1930年にクーデターが勃発して軍事政権が誕生するなど、政情が不安定化しました。そして、第二次大戦後にはペロン政権が誕生し、農業から工業への産業構造の転換を進める改革政策が採られました。しかし、この政策は失敗に終わり、軍事クーデターなども発生しました。

そして、二度に及ぶオイルショックも逆風となって、アルゼンチン経済は行き詰りました。1976年には一時5000%を超えるハイパーインフレーションも経験しています。なお、1982年には英国との間でフォークランド諸島を巡る戦争が行われましたが、この争いに敗戦し、軍事政権は崩壊しました。

ドルぺッグ制を導入したアルゼンチン経済