本記事の3つのポイント

  • サプライチェーンの混乱を招いたファーウェイへの禁輸措置だが、その後G20での米中首脳会談により規制緩和の方向へ
  • 大きな落ち込みが危惧されたファーウェイのスマホ出荷について、19年は2.2億~2.3億台に落ち着くとの見方
  • 米国商務省はファーウェイをエンティティーリストから除外することはなく、緩和する方向性は示されたが、実際は曖昧な状態のまま。禁輸措置の猶予期間が切れる9月18日前後に今後の方向性が見えてくる

 

 米国政府による中国企業への制裁は、2018年に通信機器とスマートフォン製造のZTE(中興通訊)に始まり、次に新興DRAMメーカーのジンホワ(JHICC、晋華集成電路)に拡大。19年5月には5G通信機器設備で世界トップのファーウェイにまで及んだ。スマホも製造するファーウェイは19年、スマホ出荷で世界1位を目指していたが、米国の制裁によりその可能性は途絶えた。米グーグルのアンドロイドOSと英アームのCPUコアの供給が停止する可能性があり、生産や開発計画の見直しに迫られている。ファーウェイのスマホ出荷予測について最新情報をまとめた。

ファーウェイ・ショップ(上海市の商業施設内にて撮影)

5/10トランプショック

 18年に始まった米中貿易交渉は、同年末のウルグアイG20サミットの際の米中トップ会談により、90日の休戦協定が結ばれた。貿易不均衡の解消や中国の構造改革(知的財産権の保護や不正補助金の中止、技術移転の強制の中止)などで中国が米国の要求に応じる方向で調整が進められた。4月に共同でまとめる合意文書案の完成が近づき、両国が懸案事項としていた対立項目が残った。

 この判断のために「チャイナ7」と呼ばれる共産党の中央政治局常務委員の7人による多数決が行われた。そのままの提出を主張したのは、李克強(首相)と汪洋(全国政協首席)、趙楽際(中央規律委員会書記)の3人。これに対して共産党大番頭の栗戦書(党組書記)と、習近平思想を作った王滬寧(中央書記処書記)、上海トップを務めた韓正(副総理)が反対し、最後の1票を習近平首席が「反対」に投じたといわれている。中国は国としての原理原則を曲げないという最終決定を下した。

 赤ペンだらけの合意文書を受け取ったトランプ大統領は激怒し、課税制裁の第4弾(3000億ドル相当分への追加課税)とファーウェイへの禁輸措置を発表した。こうして米中閣僚会議は5月10日から断絶。ファーウェイのサプライヤー企業は部品供給が続けられるのかわからない視界不良の状態に追いやられてしまった。

6/29の大阪G20

 第4弾追加課税やファーウェイへの禁輸措置で中国に交渉カードを切った米国に対し、中国はレアアースの対米輸出禁止や米国産大豆の輸入見直し、中国版ブラックリスト(政府調達での米国製品の排除)などで報復カードをチラつかせた。6月には国家発展改革員会や商務部が、中国に進出している大手エレクトロニクス企業(デルやマイクロソフト、サムスンなど)を北京に集めて会合を開催。禁輸制裁はサプライチェーンの混乱を招き、米国に協力する企業は何らかの影響を受けると警告(何かは不明?)したといわれる。米国政府へのロビー活動で対中禁輸制裁を断念させるよう暗に要請したともいわれる。

 5〜6月は米中関係の緊張状態が1カ月以上も続いたが、6月末の大阪G20サミットで米中トップ会談の開催が決定。この会談により両国は報復合戦を止めて、また休戦状態に戻る大人の対応をした。

ファーウェイのスマホ出荷2.5億台?

 ファーウェイは18年、約2億台のスマホを出荷して2位のアップルと僅差で並んだ。19年1〜3月期の出荷台数は前年同期比で39%増。このペースが1年続けば、2.8億〜3億台も夢ではなくなった。

 しかし、5月16日のファーウェイ・ショックにより、スマホ販売が大きく落ち込んだ。欧州市場での落ち込みは、最初の2週間で半減するほどの勢いだった。グーグルのアンドロイドOSの供給が中止し、ファーウェイスマホにはGmailとグーグル検索、フェイスブックのアプリがインストールできなくなると報じられた。ファーウェイのスマホは独ライカと共同開発した高性能カメラが人気の理由となっているが、せっかくキレイに撮影した写真もフェイスブックに投稿できないのでは、ファーウェイのスマホを買う意味がなくなってしまう。

 しかし、元からGmailとグーグル検索、フェイスブックが使えない中国市場では、「この痛手がないことから、ファーウェイスマホの販売が落ちるどころか、逆に増えている」(上海のスマホ販売店員)。中国のスマホ市場は約4億台の規模がある。ファーウェイは中国市場でのシェアを50%に拡大し、海外で5000万台を売れば、2.5億台の出荷も可能と見積もっている。しかし、中国スマホ企業も激しく抵抗するだろうから、2.5億台という数字は少しハードルが高いように思う。2.2億〜2.3億台くらいに落ちつくものとみられる。

 ファーウェイ・ショックの当初は、ファーウェイの出荷落ち込み分で中国スマホのOPPOやvivo、シャオミーがシェアを伸ばすと予測されていた。しかし、欧州市場での落ち込み分はサムスンに漁夫の利が渡り、中国スマホはあまり恩恵を受けていない。また、ファーウェイが国内市場の販売拡大を強めていることから、OPPOとvivo、シャオミーは逆に虎の子の中国市場でファーウェイにシェアを奪われる心配が浮上している。その結果、「中国スマホ3社は部品発注を全く増やしていない」(日系の電子部品メーカー)。

ファーウェイのハイエンドスマホ「P30」

2兆円の半導体を消費

 18年の世界の半導体市場は約51兆円。そのうち、ファーウェイは2.2兆円(世界の半導体の4.4%)の半導体を自社製品に搭載した。半導体消費ランキングでは、サムスンとアップルに次ぐ世界3位。また、ファーウェイは台湾企業から1.7兆円、日本からは6700億円の部品を調達している。ファーウェイは世界中のデバイス企業にとって大のお得意様なのだ。

 トランプ大統領はファーウェイへの禁輸制裁を緩和すると発表したが、米国商務省はファーウェイをエンティティーリスト(EL、国家安全保障や外交政策上の懸念がある企業リスト)から除外することはなく、緩和する方向性は示されたが、実際は曖昧な状態のままになっている。結局は、国家安全保障に脅威を与えないものに限り、供給再開を一部許可する個別判断ということになっている。商務省はファーウェイへの禁輸措置の猶予期間を90日に設定していたので、これが期限切れとなる9月18日前後にファーウェイの運命が明白になるだろう。

電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

まとめにかえて

 業界を大きく混乱させたファーウェイへの禁輸措置ですが、G20でのトップ階段により最悪のシナリオは回避できたように見えます。しかし、記事にもあるとおり実際はリストから外れておらず、供給については個別判断という中途半端な状態となっています。実際、サプライチェーンから聞こえてくる話は、G20以降部品取り組みのペースが回復しているというポジティブな話ですが、猶予期間が切れる9月18日前後にもう一波乱ある可能性も捨て切れません。

電子デバイス産業新聞