読者が100万円をお持ちだったとしましょう。特に使い道はなく、今のところ定期預金にしています。そして、定期預金では利息がほとんどつかないので、そろそろ定期預金以外で運用したいな、と考えているとしましょう。でもここからが問題。いったい、何で運用すればいいのでしょう。

そもそも分散投資とは

あれこれ投資してみたいとはいうものの、運用商品の内容が分からないまま、勘で投資対象を決めるのはかなりのギャンブルです。投資と言うと、だいたい高利回り商品に目が行きがちですので、「年8%の確定利回りで、10万円からのマンション投資!」などと宣伝されると、「エ、ホント?」とついつい手が出てしまいそうになるアレです。

そこで、投資を始める前に知っておいてほしいのが、“分散投資”です。読んで字のごとく“分けて投資する”ということですね。じつは分散投資自体、みなさんが自然に取り組んでいます。図表1は、日本の家計全体の金融資産内訳です。家計全体では現預金から債券まで、広く分散して運用されているんですね。

図表1:家計の金融資産内訳(2018年12月末)

注:日本銀行調査統計局 2018年第4四半期の資金循環(速報)より筆者作成。各金融資産の内訳金額(兆円・左軸)と各資産の割合(%・右軸)。


もっとも、これは金融資産のみの内訳を表したもので、不動産(たとえば自宅)やその他資産は入っていませんので、厳密な意味での資産全体の分散内訳ではありません。

ということで、仮に読者の金融資産の合計が100万円だとすると、現預金に54万円、保険に29万円、株式に10万円、投資信託に4万円、債券に1万円、その他の金融資産に3万円と、それぞれの資産に分けて運用していることになります。

ざっくり言えば、これが分散投資における「投資先の分散」や「投資商品の分散」になります。

こうして分けておくことで、たとえ10万円分の株式が紙くずになったとしても、全体では90万円残ってリスク分散もできているというわけですね。めでたし、めでたし。

意外に重要な「時間分散」

さて冒頭で、100万円の投資可能資金があるとしてという仮定を置きましたが、使い道が決まっていない100万円を定期預金に置きっぱなしという方はたくさんいらっしゃると思います。

普段は年0.01%の預金金利でも全く気にならないのですが、いったん投資マインドが醸成されると、この預金金利の低さが気になり始めます。何と言っても、1年預けて利息が100円(税引き後79円)にしかなりませんから。

仮に、年5%くらいで回れば5万円(税引き後3万9842円)稼げるのですから、「何か他にマシなものはないか」となるのは人間心理として当然でしょう。

となると、この100万円で“どの金融商品を買うか”という考えが先行する一方、“どのように買うか”という視点が抜け落ちます。

“どの金融商品を買うか”は株式、投資信託、債券、FX等々どれにしようかな、ですね。これはイメージしやすいのですが、“どのように買うか”は株式に何割、投資信託に何割、FXはやるかやらないか等々の意思決定です。この意思決定は実は面倒くさい上に、正解がないのが厄介なところです。

もっとも、このハードルを乗り越えるとやれやれ一段落ということで、これ以降は投資マインド全開。株式だ、投資信託だFXだと全部一気に買いたくなります。

ちょっと待った!

“どのように買うか”で一つ忘れていることがあります。それはもう一つの“どのように”で、“どのようなタイミングで”買うかということです。

株式、投資信託、債券、FXなどの金融商品は常に価格が変動するリスク商品です。価格が低いところで購入できればそれに越したことはありませんが、いつの価格が低いかは誰も分かりません。

投資マインドがはやるのは分からないではありませんが、一気買いしたその日が相場のピークで、その後は下落してしまったとすると、相場が戻ってくるまでかなり悶々とした日を送ることになると思います。

こういうことを避けるためにも、100万円を投資するのであれば、100万円全部を一時に投ずるのではなく、たとえば毎月8万3000円ずつ、1年間かけてタイミングを分けて分散投資したほうが心理的にもかなり楽です(ただし、せっかちな方には向いていないやり方です)。

ということで、投資と聞くとテンバガー(10倍株)などに投資して、ホームランをかっ飛ばして大儲けしたい気持ちになるものですが、実際の野球ではヒットや盗塁、送りバントやタイミングをずらしたダブルスチールといった細かい戦略を組み合わせて試合に勝つものです。

従って、資産運用における投資の基本戦略は、

「金額分散 + 投資対象分散 + 時間分散」

の分散投資が基本なのです。せっかちな人もご参考に。

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太田 創(一般社団法人日本つみたて投資協会 代表理事)