スタートアップといえばアメリカ西海岸が思い浮かぶと思います。実際、日本のベンチャー関係者はシリコンバレーをお手本にして米国との関係一辺倒でやってきたように感じます。

しかし、昨年来、メディアでよく取り上げられているのはヨーロッパです。今回は、欧州債務危機後の厳しい雇用状況を乗り越えてスタートアップ環境が劇的に整備されてきたポルトガルに注目したいと思います。

個人的には、今月、ポルトガルのエンジェル投資家団体「REDangels」のパートナー兼エンジェル投資家に就任しましたので、これまでの過程で体感したポルトガルのスタートアップ環境についてお伝えします。

250年間の長期衰退が続いたポルトガル

ポルトガルでは1755年にリスボン大地震があり、リスボン市が壊滅しました。ヴァスコ・ダ・ガマの世界一周で有名なポルトガルは大航海時代に世界の海を征した国家ですが、大地震が国家の経済力を弱めました。主な産業といっても水産業やコルク製造業くらいしか思い浮かびません。

最近では、2009年10月にギリシャ財政赤字の粉飾が発覚し、それに端を発した欧州債務危機がありました。財政の持続性に対する懸念でポルトガルを含む南欧諸国の国債利回りが上昇(価格は下落)し、一部の国は資金繰り難に陥り、2010年5月以降、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、キプロスが欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)から金融支援を受けています。

一時は、ポルトガル政府が100億ユーロの国債償還を控え、欧州市場で「ポルトガルの6月危機説」が流れたりもしました。長期衰退国家が発行した国債が「ジャンク債並み」の烙印を押されて、ポルトガル国債10年物の利回りも14%付近まで上昇しました。

長期的な経済停滞、債務危機の下、国民にとっては、賃金・年金カット、リストラ、厳しい雇用状況など大変な試練となりました。欧州債務危機後、失業率は最高17.3%(2013年第1四半期)に達し、高学歴の若者達も失業に追い込まれたのです。

スタートアップ支援プログラムの整備で息を吹き返した国民経済

厳しい雇用環境下、若者の選択肢は、国外移住、失業、あるいは起業、でした。結果的に、自らの雇用は自らで生み出す、自分で何か始めるという起業文化が徐々に根付いていったようです。