本記事の3つのポイント

  • 大型パネル向け部材は中国企業の新工場建設などにより、好調に推移。部材メーカーは積極的な増産投資を敢行
  • 65インチサイズの普及により、偏光板などフィルムメーカーは生産ラインで広幅プロセスの導入を進めている
  • 「面積商売」の色合いが強いテレビ向け部材ビジネスだが、量子ドットなど新技術に対応した取り組みも活発化している

 

18年のテレビ用部材は好調に推移

 2018年の大型パネル(テレビ)向け部材需要は、好調に推移した。偏光板メーカーや関連部材メーカーは夏ごろから工場のフル稼働が続いており、そろそろ一服感が表れるのではないかと懸念されつつも、まだまだ右肩上がりの状況だという。

 表では、FPD製造装置・部材関連メーカーの増産投資発表をまとめた。中国で整備される液晶10.5Gの新工場向けとみられる、部材関連の増強投資が著しい。パネル各社が有機ELおよび10.5G液晶パネルの新工場を整備していることを受け、関連する装置・部材も拡大する生産面積に応じたニーズに対応すべく、供給体制を整えようとしている。

 2018年半ば~19年にかけ、FPD製造装置・部材関連メーカーの増産体制や新施設は順次稼働する計画だ。また、中国での10.5G工場の量産稼働ラッシュは21年まで続く見通しで、直近では、BOEが18年第2四半期から量産開始(合肥市、9万枚/月)している。次に、ライバルのCSOTが19年第1四半期から量産に入り(深圳市、6万枚/月)、19年第4四半期には同じくCSOT(深圳市、6万枚/月)、鴻海精密工業(広州市、4万5000枚/月)、BOE(武漢市、12万枚/月)が量産開始を予定している。

 20年に入ってからは、第1四半期にBOEが酸化物TFTの工場(合肥市、3万枚/月)を、第2四半期に鴻海精密が量産を開始(広州市、4万5000枚/月)し、21年第1四半期にはCSOTが酸化物TFTの工場(12万枚/月)での量産を開始する計画だ。

 異例なのはLGディスプレー(LGD)で、韓国で10.5G規模の有機EL工場(坡州市)の建設を計画している。同社が手がけるW-OLED(ホワイトオーレッド)テレビ用で、21年第3四半期以降の稼働を予定している。

 同一工場で第1期、第2期工事と分かれているため、全数量分が立ち上がらず計画が延期になることは考えられるが、中国では政府の資金が投入されているため、「量産の歩留まりや品質はともかくとして、何としてでも計画どおりに立ち上げるだろう」(材料メーカー)と言われている。部材メーカーにとっては、21年までは好調な受注が見込めそうだ。

大型工場の稼働で65インチが低価格化か

 17年は、スマートフォン(スマホ)に有機ELディスプレーが本格的に採用されたため、主にフレキシブル有機ELディスプレー関連の話題で盛り上がった。だが、起爆剤となったアップルのiPhone Xの販売が当初の期待ほど伸びなかったことで、18年は有機EL関連の需要がトーンダウンした。また、フレキシブル有機EL最大手のサムスンディスプレーが有機EL投資を大幅に減額するなど、投資自体にも一服感が漂っている。さらに19年初頭には、アップルのiPhone減産が伝えられたり、中国経済の後退を主要因とした業績の下方修正が発表されたりするなどして、日米の株式市場が大荒れとなった。

 しかし、FPD部材は面積商売であるため、部材需要を牽引するのはスマホ用の中小型パネルではなく、テレビ用の大型パネルだ。テレビ用パネルは現在、液晶8.5Gラインで製造されるのが主流で、取れ効率が良い55インチが価格下落とともに急速に普及してきた。だが、10.5Gでは65インチの取れ効率がよく、今後は65インチの低価格化と普及が進むと考えられている。

大型テレビ対応で広幅フィルム整備

 また、10.5Gは65インチパネルの8枚取りができる大きさだ。6G工場では65インチの2枚取りができるが、これの約4倍の大きさになる。このため、フィルムメーカーは既存の最大川幅2300mmへの対応から、いわゆる広幅フィルムと言われる2500mm製品への対応をはじめ、主に偏光板周りの部材で、ポバールフィルム、それを挟むTACやCOPフィルム、表面処理フィルムなどを手がけるメーカーが次々に広幅への生産対応を発表した。

 まず、17年11月に偏光板トップメーカーの日東電工が、中国の杭州錦江集団有限公司およびその関連会社と技術提携契約を締結し、技術支援を行うと発表した。中国における液晶テレビ向けの大型偏光板の拡大に対応するためで、これにより、錦江集団グループの世界最大級の偏光板前工程設備導入の支援を行うとしている。

 世界トップクラスの偏光板メーカーである日東電工のこの決定により、中国での大型液晶工場立ち上げが一気に現実味を帯びたことで、それまで何となく半信半疑だったその他のフィルムメーカーも投資を決定していった。

 18年2月にはクラレが100億円を投じて光学用ポバールフィルムの生産設備の増設を行うと発表した。大型偏光フィルムの生産効率向上に貢献する設備で、倉敷事業所(岡山県)に3200万㎡/年の広幅フィルム対応ラインを新設する。19年末に稼働予定だ。

 6月には大日本印刷が、三原工場(広島県)に約65億円を投じ、2500mm幅に対応可能なコーティング装置を導入すると発表した。光学機能性フィルム製造としては世界初で、反射防止、視野角拡大フィルムなどを手がける。これにより、65インチディスプレー向けの光学機能性フィルムを効率良く製造することができるという。19年10月の稼働を予定している。

 偏光板の保護や位相差機能を付加するTACフィルムは、トップベンダーの富士フイルムが、すでに13年初頭に広幅対応設備を導入済みだ。18年10月には、COPフィルムを手がける日本ゼオンが敦賀製造所(福井県)で大型テレビ向け位相差フィルムの製造ラインを新規増設すると発表した。2500㎜幅クラスの位相差フィルムを5000万㎡/年生産する計画で、量産開始は20年4月の計画だ。

新技術への開発投資も注目

 液晶テレビのサイズ変化に対抗するため、世界で唯一、テレビ用有機ELパネルを製造しているLGDは、「液晶よりも10インチ大きい」というサイズのプレミア感を維持するため、10.5G有機ELラインを韓国(坡州市)に整備する計画を持つ。まずはバックプレーンとなる酸化物TFTの量産技術を10.5Gで確立する必要があるため、10.5Gで有機ELパネルを製造するのは21年以降を計画している。

 同社では、中国(広州市)で8.5Gの有機EL工場を計画しており、テレビで展開するW-OLEDパネルの増強を図る考えだ。さらに、大型パネルの量産化に寄与するとされる印刷式有機ELの量産について、材料メーカーの住友化学と共同で研究開発を進めている。住友化学の高分子材料を用いて、インクジェット装置で有機ELパネルを量産化するか否かについては、19年半ばまでに設備投資決定を行う予定で、この広州8.5Gか、坡州10.5Gのどちらかに整備するという。

 装置・部材各社の投資計画を見ると、カラーフィルター材料やガラス基板といった「面積商売」に関連した案件だけでなく、新技術や次世代につながりそうなテーマも散見される。量子ドット材料やポリイミドフィルム、メタルマスクなどだ。

 量子ドットは、すでに液晶テレビの色再現性を高める材料として採用されているが、現在主流の量子ドットフィルムに加え、これをカラーフィルターに用いるケースや、有機ELと組み合わせた「QD-OLED」、さらには次世代ディスプレー技術として期待されるマイクロLEDディスプレー用の色変換材料などとしても利用が見込まれている。

 また、高い耐熱性を生かし、フレキシブル有機ELの基板材料となるポリイミドのワニスやフィルム、高透明ポリイミドフィルムや、これに対抗すべく開発が進められている新しいフィルムなどの動きも活発化してきており、新材料への投資の動きには今後も注目していく必要があるだろう。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 澤登美英子

まとめにかえて

アップルのiPhoneい有機ELパネルが採用されるとの観測が浮上した16年当時を振り返ると、FPD部材メーカーは中小型有機ELへのリソース投下を重点的に進めていましたが、搭載機種の販売が想定してほど伸びないなか、部材メーカーの視線は再び大型テレビ向けに注がれている印象です。目下、大型向けは中国企業が新工場建設を相次いで行っており、需要が好調に推移していますが、今後の工場建設が一服した際、供給過剰という事態に直面する可能性も十分にありそうです。

電子デバイス産業新聞