新学期が近くなり、気候も暖かくなってきて、新たにスポーツを始めるお子さんも多いのではないでしょうか。2019年は秋にラグビーワールドカップがあり、2020年はいよいよ東京オリンピックと、日本にも大きなスポーツの波が来ています。

スポーツの話題が盛り上がる際にたびたび議論になるのが、スポーツ選手になるにあたって、「早生まれは不利か?」という話題です。

そもそも「早生まれが不利」といわれる理由は?

日本では、1月1日から4月1日の間に生まれた人を「早生まれ」といいます。4月生まれと翌年3月生まれの子では、1年近く成長に差があり、体格や体力にも大きな差が出てきます。小さな子どもは数カ月でも驚くほど成長するもので、日本小児内分泌学会によると、6歳の男の子だと1年間で身長は平均5.8cmも伸びるといいます。

特に日本では、スポーツでも学校の学年と同じ区切り方を採用することが多いため、早生まれの子どもは「身体がほかの子に比べて小さいから、活躍の機会が少ない」という問題につながってしまいます。さらに、「活躍の機会が少ないから、自信を持てなくてあきらめてしまう」という悪循環にも陥ってしまうのだといわれています。

厚生労働省の統計によると、1年を通して生まれる人数に大きな差はありません。つまり、この話題は人口の約四分の一を巻き込む大問題ともいえるかもしれません。

「不利派」vs「無関係派」

はたして、本当に早生まれは不利なのでしょうか? 個人差はあるにせよ、小学生や中学生などは身体が発達途中のため、生まれ月の違いが身体の大きさや運動能力につながってしまうということは少なからずあるでしょう。世間では、

「早生まれはゲームでいえばハードモード」
「明らかなハンデだよな」
「うちの親は子作りのときになんでそこ考えなかったんだろう」

という子ども(とみられる人)の声や、

「いつまでたっても同級生のお友達に追いつけず、将来が不安」
「学年同じ子に負ける経験多いから負けグセとかついちゃわないか」

といった親(とみられる人)の声まで、早生まれに関して悲痛な声が上がっています。

それに対して、

「小学生のとき、クラスで一番足が速かった子は早生まれだった」
「私も早生まれだけど、苦手意識を感じたことはない」

など、運動ができるかどうかは個性だという声も上がっています。確かに、身体が小さくてもスポーツが得意な子どもはいますよね。

早生まれとスポーツの関係は学術論文にも

実際に東京農業大学の勝亦(かつまた)陽一准教授らの研究グループが、2018年11月、「早生まれの野球少年は淘汰されやすい」という研究結果を国際スポーツ医学誌に発表しています。実際に研究結果として出てしまうと、少しがっかりしてしまうかもしれません。

この研究では、早生まれの子どもは成長が遅いだけであって、年齢を重ねるにつれて成長が早い子どもにも追いつく可能性はあると述べています。しかし、4~6月生まれは子どものころに運動に対して苦手意識を持たず、親やコーチなどからも褒められることが多いため、「スポーツは楽しい」「もっと上手になりたい」という好循環が生まれやすいのだといいます。逆に早生まれの子どもは、子どもの頃の苦手意識などによって悪循環に陥ってしまうことがままあるようです。

子ども自身の意識、そして親や指導者の精神的なサポート、どちらも早生まれの子どもが意欲を持ってスポーツを続けていくのには大切な要素でしょう。

実際のアスリートはどうなのか

ではここで、実際に活躍しているアスリートたちは早生まれが多いのか、少ないのか、野球を例に見てみましょう。

前出の勝亦陽一准教授によると、2018年のドラフト会議で指名された高校生の選手たちは、全体で45人のうち、4~6月生まれが23人なのに対して、1~3月生まれが6人にとどまっています。また、2014年は顕著にあらわれていて、なんと1〜3月生まれが1人もいません。高校野球に関して見てみると、早生まれは不利だというのは見逃せない問題になってしまっているようです。

一方、大学生・社会人のドラフト指名選手を見てみると、驚いたことに、生まれ月の偏りは、過去数年にわたってほとんど見られませんでした。

さらにいえば、2018年の甲子園で話題をさらった日本ハム(元金足農業)の吉田輝星(こうせい)投手は1月生まれです。先ほどのデータはあくまでも統計的な数字でしかないので、「早生まれだから」といってあきらめてしまうのはもったいないともいえるでしょう。

それでも不安な子に、親ができることは?

もちろん「吉田投手が早生まれだからといって、自分もそうなれるのか」と不安な子どもは多いと思います。そこで、一歩でも夢に近づけるかもしれない道を考えてみましょう。

大切なのは、これまでにも述べてきたように「悪循環」をつくらないことです。大学生・社会人のドラフト指名選手の例からもわかるように、早生まれによる体格や体力の遅れは、いずれは決定的なものではなくなる要素です。親や指導者はそれを理解して、たとえばできる部分を褒めたり「焦らなくていいよ」と声をかけたりして、あきらめさせないことが重要かもしれません。

さらに最近は、生まれ月とスポーツの能力に関しての研究も進んできています。そのような背景を受けて、たとえば日本陸上競技連盟は、大会の年齢区分などを工夫していくという声明を出しています。ほかのスポーツでも、今後、同様の動きが出てくる可能性は低くないでしょう。

早生まれは確かにデータとして若年層ほど不利に見えますが、最終的に成功しているアスリートもたくさんいます。やはり「自分の道」を信じられるよう子どもをサポートしてあげることが、いちばん大切なことなのです。

クロスメディア・パブリッシング