何かの問題にぶつかったとき、思いつきに近い解決策で対応したせいで、余計にマズい状況に陥ってしまった、完全に失敗してしまった……ということはないでしょうか?

「問題解決」は、いまやビジネスの必須スキルと言っても過言ではありません。ダボス会議で知られる世界経済フォーラムが2018年に発表した「2020年のビジネスで成功するために必要な10のスキル」でも、「複雑な問題解決」の能力は、第1番目に挙げられているスキルなのです。

 この問題解決について、『新装版 問題解決のためのデータ分析』の著者である齋藤健太さんは、「正しく問題解決を行うためには、4つのステップでアプローチすることが重要です」と言います。同書をもとに「問題解決の基本中の基本」ともいうべき考え方の部分を解説してもらいました。

問題解決のアプローチ、4つのステップ

 たとえば「会社全体の売上が下がってきた」という問題に直面したとしましょう。ただ「売上が下がってきた」という現状を理解しただけでは、何も変わりません。どんな商品が売れなくなっているのか、なぜ売れていないのか、原因を見極めて、効果的な手を打つことが重要です。つまり、ビジネスパーソンに求められる問題解決では、次のような一連の流れを実行できてはじめて「問題解決ができた」といえるのです。

(1)[現状の理解]問題が発生している状況を正確に理解し
(2)[原因の見極め]問題の発生している根本的な原因を見極めて
(3)[打ち手の決定]効果的な打ち手を導き
(4)[実行]打ち手を実行に移し、必要に応じて修正していく

 たとえば、先ほどの「売上が下がってきた」という問題を解決する場合には、次のような流れとなります。

(1)「売上が下がっている」という問題が発生している状況を正確に理解し
(2)なぜ売上が下がってきているのか、なぜ売上を上げることができないのか、問題の発生している根本的な原因を見極めて
(3)どうすれば売上を下げ止めることができるのか、効果的な打ち手を導き
(4)売上を下げ止めていくための打ち手を実行に移し、必要に応じて打ち手を修正していく

「そんな面倒なことをしなくても、今までの経験があるから大丈夫だよ」と思われるかもしれませんが、思いつきの解決策を一つひとつ潰していくやり方では、アプローチのすべてを一気通貫で行うのは難しいでしょう。

「経験」や「勘」だけではダメ

 また、変化の激しい現在の経済環境では、今までの経験や勘は通じにくくなっています。もちろん、その道何十年という方であれば、経験則でカバーできることも多いかもしれませんが、それだけでは、やはり環境の変化にはついていけません。

 一番問題なのは「会社全体の売上が下がってきた」という状況に対して、「よし、営業部員に喝を入れて、もっとお客様への営業を増やそう」と言って、原因の特定もせずに、場当たり的に打ち手を実行することです。実は「客数」が落ち込んでいるのではなく、「客単価」が落ち込んでいるのかもしれません。そしてその客単価が落ちている要因は、「商品力の低下」にあるのかもしれません。

問題解決のアプローチで最も重要なことは、打ち手を決定するために問題の原因を特定することです。原因を特定することができれば、必ず壁を打ち破る方法も考え出せるはずなのです。

 それでは、問題解決のアプローチを、「4つのステップ」でひも解いていきましょう。

(1)現状の理解

まず「起こっている現象をしっかりと理解する」ことから始めます。

 たとえば「売上減少」という現象が起こっている場合、

・昨年度と比べていくら減少しているのか、何%減少しているのか
・客数が減少しているのか、客単価が減少しているのか
・どの商品の売上が減少しているのか、どの営業担当者の売上が減少しているのか

など、「今、起こっている現象」を浮き彫りにすることがまず必要になります。

(2)原因の見極め

 どんな問題でも、原因にはいくつか心当たりがあることでしょう。ビジネスにおいては、問題が複雑に絡み合っていることも多くあります。問題を分解し、考えられる原因を洗い出し、根本的な原因がどこにあるのか仮説を立て、それを裏づけるデータ分析を行うことで、原因が導き出されます。この「原因を見極める」部分が、問題解決をする上で最も重要です。

 今回の例のような「売上減少」という現象が生じている場合、次の4つの手順でこれを行います。

手順1 可能性のある原因の洗い出し

 売上減少の原因として、「来店客が少ない」「リピーターが少ない」「商品の品質が低い」「値段が高い」「店員に元気がない」……など、すぐにいくつか挙げられると思います。思いつく限りすべて挙げることが重要です。

手順2 洗い出した原因の仮説構築

 洗い出した原因の中で、状況をしっかりと見据えていくと、実はそれらの多くは「原因」ではなく「現象(結果)」であるケースが少なくないのです。原因と思って挙げたものをよく見ると、それぞれが因果関係にあることがわかります。たとえば「値段が高い」は、他社と比べて「商品の品質が低い」ことや「希少性が低い」などの理由にもなり得ます。高品質の商品やなかなか手に入れられない商品であれば、「値段が高い」という評価にはならないでしょう。このように、ある程度、経験に基づくものでかまわないので、洗い出した原因の中から可能性の高い仮説を立てます。

手順3 分析方法の決定

 次に、仮説に基づいて分析方法を決定します。たとえば、「顧客のニーズに合った商品を提供できていないことがそもそもの原因で客数が減って売上減少が起こっている」という仮説があるとします。その場合、来店頻度や購入金額別に顧客をセグメント化(区分)し、客数が減っているセグメントで顧客が購入している商品販売実績を時系列で分析します。それによって、「どの顧客層が減っていて、その原因としてどんな商品が顧客ニーズと乖離しているか」が導き出せるでしょう。このようにして、どのような分析をすればよいのか、「分析の設計」をします。

手順4 データ分析

 実際に設計した分析方法に基づいてデータ分析をしていき、先ほどの、「手順2 洗い出した原因の仮説構築」で立てた仮説が正しいかどうか検証していきます。もし仮説が間違っていた場合、手順2に戻って繰り返していきます。

 この1から4の手順を繰り返すことで、原因を見極めることができます。

(3)打ち手の決定

 ここでは、先ほど見極めた原因に対して「改善するための打ち手」を決めます。とはいえ、原因を見極めた段階で、打ち手も同時に見えてくることがほとんどです。たとえば、「顧客のニーズに合った商品を提供できていないことことがそもそもの原因で客数が減って売上減少が起こっている」ということであれば、

・取り扱い商品(種類や価格帯)の見直し
・競合他社に負けない商品開発(高付加価値商品の開発)

などが具体的な打ち手として考えられます。

 前者は主にさまざまな商品を仕入れるような小売業の業態・企業の打ち手になるでしょうし、後者は主にメーカーが取るような打ち手となるでしょう。

(4)実行

 そして、いよいよ「打ち手の実行」です。計画を立てるだけでは問題解決になりません。実行して成果が出て、はじめて問題解決となるのです。

 また、打ち手の実行後にも、データ分析は重要な役割を担います。実際に打ち手の効果がどの程度あったのか、仮説通りの成果は出せたのか、打ち手の実行前後での違いや打ち手の効果検証を行う際にもデータ分析は重宝します。

PDCAを回すことが重要

 さて、打ち手を実行しましたが、先ほど述べたように、そこで終わりではありません。その打ち手が正しかったのかどうか判断し、もし間違っていた場合、あるいは当初に想定していたほどの効果が出なかった場合は、修正していく必要があります。この一連の流れを「PDCAサイクルを回す」と言います。

 PDCAとは、事業活動における管理業務を円滑に進めるための手法です。これは、第2次世界大戦後、統計的品質管理・プロセス管理の考え方を構築したアメリカのウォルター・シューハートとその弟子のエドワーズ・デミングらが提唱したもので、Plan(計画)・Do(実行)・Check(点検・評価)・Act(改善・処置)の頭文字を取って「PDCAサイクル」と命名されました。

 計画を立てて(Plan)、実行し(Do)、結果を評価して(Check)、評価に基づき改善して(Act)、次のステップへと進めていくことはとても重要です。日々、問題に立ち向かっているビジネスパーソンにとって、効率よくスケジューリングして業務を実行していくためにも、PDCAサイクルを回すことは欠かせません。

筆者の齋藤氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

データ分析におけるPDCA

 データ分析についても同様のことが言えます。課題を見極めて仮説を洗い出し、データ分析により仮説思考をしながら打ち手を構築し、実行に移す。

 打ち手の構築までがPlanで、実行がDoです。しかし、ここまでだけではやりっ放しになってしまうので、しっかりと打ち手の評価、つまりCheckをした上で、改善が必要であればActすることが重要なのです。

 データ分析により、ある程度、精度の高い打ち手は構築できますが、それでも条件や環境変化ゆえに想定した成果に結びつかないこともあります。そのためにも、PDCAを回すことによって、常に最適解を求めていくことが大事なのです。

 

■ 齋藤健太(さいとう・けんた)
 株式会社クロスメディア・コンサルティング代表取締役社長。慶応義塾大学理工学部卒業。(株)船井総合研究所にて戦略コンサルティング部に属し、主に中期経営計画策定やマーケティング戦略の構築等に携わった後、2012年1月に独立。独立後も製造業から小売等まで大小さまざまな企業の課題発見に従事し、成果を上げる。特に、データ分析においては、他のコンサルティングファームからも依頼がくる実績を持つ。2018年10月にクロスメディア・コンサルティングを設立、現在に至る。

齋藤氏の著書:
新装版 問題解決のためのデータ分析

齋藤 健太