医学部不正入試で順天堂大「女子はコミュ力高いから減点」会見の波紋

ビジネス、今日のひとネタ

2018年8月、東京医科大学が医学部医学科の一般入試で女子受験生や浪人生を一律減点していたことが発覚し、大きなニュースとなりました。

文部科学省が、全国の81大学を緊急調査の上で不正入試の疑いのある大学に指摘をした結果、それから数カ月の間に、東京医科大のほかにも、岩手医科大学、北里大学、日本大学、昭和大学、金沢医科大学、神戸大学、福岡大学と複数校の医学部不正入試が次々と明らかになるなど、不正の露見は後を絶ちません。

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そんな中、12月8日に順天堂大学が医学部不正入試についての会見を開き、その場での発言がひときわ大きな波紋を呼びました。ここでは、この間の動きを簡単にまとめたいと思います。

他大学での不正の理由

不正の内容は、男女で差をつけるだけでなく、現役生と浪人生・多浪生、年齢、卒業生の関係者や地元高校の出身かどうかなどによって差をつけたりと、大学によっても異なります。

不正入試を行った理由については、ことの発端となった東京医科大では「女性は産休・育休などで長期間勤務できないため」として女子の得点を操作していました。昭和大の場合は会見で「将来性が見込めるから」という理由で現役生と一浪生へ加点を行っていたことを明らかにしています。

また、岩手医科大や金沢医科大では、地域医療への貢献を目的に、出願の際に約束させた「卒業後、付属病院や関連病院で卒業後6年以上勤務する」という条件を守る可能性を重視して卒業生を優遇したり、あるいは地元高校など特定地域の出身者を優遇したりしていたといいます。

「女子はコミュ力が高いから減点」?

非難の声が上がっているのは、順天堂大が女子受験生を不利に扱ったその理由です。それは、

「女子は男子よりも精神的な成熟が早く、男子よりコミュニケーション能力が高い傾向があり、また、大学入学後においてその差が解消されるため、補正をする必要があった」

というものです。

不合理な理由に呆れる人々

これに対して、ネット上では、

「こんなに、失礼でふざけた言い訳、聞いたことがない」
「女性はコミュ力が高いので受験で一律に減点される社会、男性としても泣きたくなるな」
「医学部の先生って勉強できても社会性とか一般常識ない人も多いから、これがどんだけおかしな話なのかわからないんだろね」

「アドミッションポリシーで『柔軟性と協調性を備えた高いコミュニケーション能力を有する人』を求めるのに、コミュ力高いと減点されるのダブルスタンダードの極み」

と呆れ、嘆く声が多く上がっています。実際、順天堂大学医学部のアドミッションポリシーには、「求める学生像」のひとつに「幅広い人間性、柔軟性と協調性を備えた高いコミュニケーション能力を有する人」が挙げられているにもかかわらず、そうした「高いコミュニケーション能力」を持っている人を減点するような「補正」が面接試験において適用されているというのは、確かに矛盾しています。

順天堂大の会見から1カ月が経とうというのに、これについては多くのメディアや人が、その真意を推測したり、その妥当性を検討したり議論したりと、いまだに多くの意見が飛び交っています。

「根拠論文」の執筆者も迷惑!?

たとえば、順天堂大学が「入学時点では女子のほうがコミュ力が高い」という見方の根拠とした論文があります。米国テキサス大学のローレンス・コーン教授が1991年に執筆し、心理学の学術誌「Psychological Bulletin」に掲載されたもので、大学側はこれを「学問的根拠」だとしていました。

しかし、当のコーン教授は朝日新聞の取材に対して「医学部の入試で女子だけ合格点を上げることと、私の研究内容との関連は、私にはわからない」「私の27年前の論文は、心理的成熟の性差について調べたもので、『コミュニケーション』や言語能力の性差を調べたものではない」とメールで回答したといいます。正直なところ、日本の大学の不祥事に関連して、自分の論文が根拠として持ち出されたことに困惑しているのではないでしょうか。

これらの指摘について順天堂大は、「当該論文は心理的成熟の性差についてのもので、コミュニケーション能力を調べたものではないこと」を認めつつ「二次試験の基準は主としてこれまでの独自の経験的なデータに基づいて設定したものである」との旨を述べています。

「男性医師への不信感」を心配

ほかにも、この問題に対する意見の中には、

「これでは男性医師の能力がないと自分たちで言っているようなもの」
「本当に優秀な男性医師までこれから色眼鏡で見られることになるのではないか」

と、男性医師への不信感が高まりかねない状況を心配するような意見も見られます。

擁護派の意見の裏にあるもの

一方で、不正入試を擁護する人たちからは、

「コミュ障男に医師という肩書きを付ければ将来の安定性が増すし、結婚出来なくてもずっと働いてくれるけど、コミュ強女に医師という肩書を付けても寿退社されたり科を選り好みされたりで割に合わない」
「女性医師の育休中などの仕事の穴埋めを男性医師がせざるを得ないので不正入試は仕方ない」

といった意見が挙がっています。こうした意見は、東京医科大が不正入試を行ったと報じられた際にもありました。

そうした意見の裏には、男性が「都合の良い労働力」として扱われることに対する無意識の受容があるのかもしれません。しかし、そうした点を受容することで、結果として、男性が馬車馬のように働くことをますます強要されることにもなりかねません。それは、男性の生きづらさにつながっていく可能性もあります。「男性は仕事、女性は家庭」のような前時代的ともいえる価値観に基づいた措置を続けることは、結果的には男性も女性も抑圧することになるといえるのではないでしょうか。

今、膿を出し切る必要性

冒頭にも触れたように、東京医科大の件を受け、文部科学省が緊急で調査を行った複数の大学で、不正入試の疑いが確認されており、これまでに発覚している9大学のほかにも、不正を行っている大学がある可能性は十分に考えられます(一部の大学は指摘を受けたものの否定しています)。

それぞれの大学がそれぞれの事情を述べていますが、不正の理由が性差別である場合はもちろん、そうでない場合も、一連の問題が医療や病院・医師の信頼を大きく揺るがしているという点には変わりありません。2019年度の入試も間近に迫った今、そうした膿をきちんと出し切ることが求められています。

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2005年創業。ビジネス書・実用書を中心とした書籍出版や企業出版、メディア・コンテンツ事業、デザイン制作事業などを手がける。

主な刊行書籍に、20万部突破の『誰からも「気がきく」と言われる45の習慣』をはじめ、『特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ』 『起業家のように企業で働く』 『すべての仕事を紙1枚にまとめてしまう整理術』 『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』 『自分を変える習慣力』 『鬼速PDCA』など。