ここ数年でよく話題になるのが「AI(人工知能)やロボットによって仕事がなくなる」ではないでしょうか。AIやロボットに仕事を奪われるという予測がある一方で、足元の日本の雇用環境は極めて堅調です。実際に年々失業率は低下傾向です。直近の雇用の統計データなどとともに、2018年も年末ですし、2019年以降の未来の雇用の姿をシンギュラリティなどの影響も含めて考えてみましょう。

日本の失業率は低水準

2018年11月30日に発表された総務省の「労働力調査」によれば、2018年10月の月次(季節調整値)の完全失業率は2.4%となりました。前月の数値に対して0.1%ポイント上昇していますが、7月が2.5%、8月が2.4%、9月が2.3%であることを考えると、引き続き低水準にあることが分かります。

就業者数は6725万人と対前年同月比で144万人増となっており、なんと70か月連続の増加となっています。

一方、完全失業者数は163万人と対前年同月比で18万人減となっており、こちらは驚きの101か月連続の減少となっています。

完全失業率の年平均数値を見てみると、2015年が3.4%、2016年が3.1%、2017年が2.8%というトレンドを見ると、年々完全失業率は低下傾向にあります。

こうしてみると、「AIやロボットで仕事が奪われるというけれど、足元の現実は人手が足りていないのでは」という声が聞こえてきそうです。

では、あらためて、AIを含むコンピューター技術によって代替されてしまうとされている職業について見てみましょう。

10から20年後に半分の仕事が機械に代替される?!

やや古くはなりますが、2015年の野村総合研究所とオックスフォード大学のマイケルA・オズボーン准教授らの共同研究では、国内601種類の職業についてAIやロボット等に代替される確率を発表しています。

もっとも、リストアップ職業がいきなりかくなるという話ではなく、「10から20年後に」という話であります。

余談ではありますが、「10から20年後に」に続く言葉として「日本の労働力人口の約49%が就いている職業において、(人工知能やロボット等が)それらに代替することが可能との推計結果が得られています。」とされています。

さっと読み流してしまうこともあるかもしれませんが、よくよく見ると、10から20年後に日本の労働力人口の約半分が仕事を奪われる可能性があると指摘しているわけです。

こうしてみると、時間軸の差はありますが、足元の完全失業率は2%台と低水準にあるわけですが、その後の未来には大きな崖がありそうという未来予測となっています。

AIやロボットで影響を受けやすい職業

さて、同調査による主な代替可能な職業は以下の通りです(順番は代替可能性確率とは無関係)。

  • 運転士、配達員
    (宅配便配達員、バイク便配達員、電車運転士、新聞配達員など)
  • オペレーター
    (CAD、IC生産、プロセス製版、マシニングセンターなど)
  • 窓口、接客
    (スーパー店員、受付係、ホテル客室係、銀行窓口係など)
  • 事務員
    (経理、一般、医療、行政など)
  • 作業員
    (発電、建設、産業廃棄物収集運搬、倉庫など)
  • 製造工
    (鋳物、金属研磨、ゴム製品成形(タイヤ成形を除く)、自動車組立など)
  • 検査員
    (非破壊、検針など)
  • その他
    (会計監査係員、通関士、警備員、製パン工、清涼飲料ルートセールス員、ビル清掃員など)

があげられています。

共通点として、特別な知識やスキルが求められず、かつデータ分析や秩序的・体系的な操作をする職業があげられています。また案内や簡単な接客などの人と関わる仕事や、手先の器用さが必要な製造工までもを含んでいます。

AIやロボットで影響を受けにくい職業

一方、AIやロボットで代替可能性が低い職業については、以下の通りです。

  • 芸術性、個性
    (映画監督、作曲家、インテリアコーディネーター、美容師など)
  • 対人、対動物へのケア
    (犬訓練士、産業カウンセラー、学校カウンセラー、保育士など)
  • 経営コンサルタント
    (経営コンサルタント、ペンション経営者など)
  • 医療
    (内科医、外科医、助産師、小児科医など)
  • 研究職
    (心理学、人類学、社会学など)
  • その他
    (スポーツ関連、教職、料理、物書き、テレビ関係など)

があげられています。抽象的な概念の創出や整理、知識が要求される職業や、他者との協調や理解、サービス志向性が求められる職業が多く示されています。

シンギュラリティ(技術的特異点)とは何か、いつ来るのか

さて、ここまで見てきたAIとともに語られるのがシンギュラリティ。

シンギュラリティ(技術的特異点)とは、レイ・カーツワイル博士によって提唱された「未来予測の概念」で、指数関数的に進化したAIが人類の知能を超え、私たちの生活に大きな影響を及ぼす状況を指します。

今まではコンピューターが人間を超える可能性は少ないと考えられてきましたが、ディープラーニングという技術が普及したこともあり、AIが飛躍的に進化し、シンギュラリティも現実的なものと考えられるようになりました。そうした状況には少なくとも2045年頃には到達するだろうといわれています。

仮にシンギュラリティによって、これまで議論してきたように私たちの就業機会が奪われるのだとすれば、野村総研とオズボーン准教授らの調査によれば、「シンギュラリティ」を待たずとも10~20年後には約半数の仕事が代替可能ということになります。

ただし、シンギュラリティの考え方そのものへの批判もあるという点については付け加えておきます。

AIやロボットで仕事は奪われるのか

シンギュラリティが本当に起こるのかは分かりませんが、AIは日々進化しています。最近ではRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)という言葉も生まれてきており、今後も様々な形でAIやロボットが私たちの生活も影響を受けるでしょう。

今の日本は若い労働力が減少する中で比較的シニア層の労働力に依存して支えられていうのが日本の雇用市場の現状というところでしょうか。いずれそうしたシニア層も時間とともに引退をしていくでしょうから、そうした以降状況の中でAIやロボットがどのように位置づけられているというのがカギになってくるのではないでしょうか。

日本の人口も長期的には減少するトレンドの中で、人手が足りない部分はAIやロボットで機械化、自動化していかなければならないでしょう。そうした中でAIと上手く付き合いながら、私たちも日々進化していきたいものです。

参考データ

総務省統計局「労働力調査」

LIMO編集部