近年になって、日本に海外から多くの観光客が集まるようになりました。

観光庁が発表している訪日外国人旅行者数の推移を見ると、調査を開始した2003年は521万人でしたが、2017年には約5.5倍の2869万人になりました。2013年が1036万人であることを考えても、時期的にはオリンピックの東京開催が決定したあたりから急増したと考えられます。

しかし、日本への注目が集まっている中で、観光地周辺の環境の悪化が懸念されています。そうした悪影響は、広い意味で「観光公害」と呼ばれています。

「観光公害」って何?

多くの方は「公害」というと、「水俣病」や「イタイイタイ病」などの公害病を引き起こした大気汚染・水質汚染による健康損害や自然破壊、あるいはゴミや産業廃棄物の不法投棄などを想像するかもしれません。

観光公害についても、こうした語感から素直に連想されるような、「観光客による自然破壊やゴミの不法投棄」といったことももちろんあります。が、それらに加えて「地域住民の生活を侵害していること」もまた問題になっているのです。具体的に言えば、たとえば、交通機関の混雑・渋滞、小売店や飲食店の行列、住宅街への侵入などが挙げられます。ネット上で、そうした場面に遭遇した人らしき意見を探してみると、

「久しぶりに帰省したら観光客で道が大渋滞するようになってた…」
「人がなんでこんなところに大量に集まってるんだろと思って近づいたらみんな中国語っぽい言葉を話してたり」
「座敷に靴で上がるなよ。旅行先の国のマナー知るのは最低限の礼儀」
「やたらうるさい集団がおるなーと思ったら外国人やん」
「人通りの多い道の真ん中でグループで自撮りするな!邪魔!」

など、多くの人のコメントが見られます。

観光客増の落とし穴

「観光客が増えたら、観光地が潤うわけだから、それくらい別にいいじゃん!」と思われる方もいるかもしれませんね。

しかし、当たり前ですが、単に観光客が増えることが、地域の経済を活性化することにつながるとは限りません。むしろ、そうした人々を生活圏に受け入れるリスクのほうが大きい場合も往々にしてあるのです。ゴミの処理や、トイレや道路といったインフラ・施設の整備は、観光と直接は関係のない立場・地域の住民も含めて、地元の自治体で税金として納められたお金も大きな財源となっているためです。

ネット上では、

「過剰な観光地整備に税金突っ込み続けるより市民生活に目を向けたらどうか?」
「観光最優先もいい加減にしてください。市民の税金は市民のために使って」
「住居が観光地だからって市民からも税金支払いなんておかしい」

といった意見が見られました。「税金を払う人」と「メリットを受ける人」が違っていることなどを中心に、おおむね否定的な意見なのですが、中にはほかの自治体事業と比較して、「まったく役に立たない政策にお金を使うよりはマシ」と消極的な肯定の態度を取る人もいるようです。

違法業者が次から次へ

訪日観光客が「観光の目玉」と考えるエリアの一つに、古都である京都が挙げられます。

多くの歴史的建造物を残すため、看板や建物の高さや色を規制するなど、京都は全国でも最も厳しいとされる景観保護条例が採用されている地域です。しかし近年、増えすぎた観光客に対処しきれず、旅行者を無許可で一般住宅に宿泊させる違法民泊業者も増えていました。

京都市の2017年の発表では、2016年の1年間に、およそ110万人の観光客が違法民泊を利用したと推計されています。これまでに500以上の施設を取り締まってきましたが、それでも業者は次から次へと現れるため、きりがありませんでした。

「最強の観光地」京都市が取った対策

そうした状況に対処するため、京都市は2018年6月の住宅宿泊事業法の施行を踏まえて、国内で最も厳格といわれる独自の条例を設定して民泊を取り締まるようになりました。たとえば、「住居専用地域」での民泊は、一部の例外を除いて、閑散期である1月〜3月の60日間のみに営業時期を限定するほか、緊急時などに管理者が10分以内に駆けつけられる場所に駐在することを求めています。

また、2018年10月1日からは、1泊につき200円~1000円ほどの「宿泊税」を、市内の宿泊施設利用者に課しています。こうした税は東京と大阪でもすでに導入されていましたが、東京で最高200円、大阪で最高300円ということから、諸都市と比較しても、かなり高い税率を課すことになりました。

観光客と市民の生活の間に折り合いをつけるための京都市の取り組みは、全国にも波及効果をもたらすと見られています。

ネット上での反応

こうした京都市の施策を受けて、ネット上では、

「民泊泊まり歩き貧困者とかにとっては大打撃」
「京都は遠征には優しくないよなぁ...」
「宿泊税ってマジで京都らしいなぁと思う ダメな意味で」
「住民に還元するのであれば(超重要)喜んで宿泊税払うけどなぁ...」
「立地を考えれば妥当」
「10月から宿泊税ですって?喜んで払いますとも」

など、賛否両論でした。どちらかと言えば否定的な意見のほうが多いですが、国内でも屈指の観光地であるだけに、条件つきで「まぁ許容できる」と考えている人も少なからず見られました。

今後の課題は?

訪日観光客の母数の急増により、今までは観光客が少なかったという地域にも、多くの外国人が訪れるようになってきています。しかし、依然として注目を集めるのは、東京や大阪、京都といった大都市圏や超有名観光地が中心になっています。過度の集中が観光公害に発展しないようにするためにも、ほかのさまざまな地域の魅力を発信することで「こんな場所もあるんだ」と認知してもらい、結果として観光客が訪問する場所を分散させることが必要になってきています。

東京オリンピック開催が間近になり、2018年度の訪日者数は3000万人超えが視野に入っています。しかし、多くの人がさまざまな国から集まるということは、さまざまな文化が混在するわけですから、当然、トラブルの原因にもなります。

日本人だけでなく、多くの国の人が安全に、楽しく、気分よく過ごせるように、日本の良さの発信・PRや観光関連のインフラ整備を強化していきつつ、一方でマナー・ルールの周知や法律・制度の整備を進めていく必要があるかもしれません。

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