退職後の「資産活用世代」にとって重要なことのひとつは、持っている資産を「引き出すこと」にあります。そしてその引出によって資産が途中で枯渇しないことが求められます。

そのためには、場合によっては何らかの資産運用を継続する必要もでてきます。運用と引出の2つを視野に置くことは資産形成よりも難しく、しかも本人の生活対応力が低下するなかでこれに対応していかなければならないのが資産活用世代の抱える課題です。

使いすぎの抑制と長生きリスク

そこで今回は、いろいろな引出方を紹介することにします。一般には「年金以外に毎月10万円あれば生活が助かるだろう」といったように、生活の必要性から割り出した定額の引出額を想定することが多いものです。

資産を使うということを前提にして考えれば、引出額に上限を決めることで無駄使いを抑制する効果があるでしょう。でもその一方で、定額引出には2つの課題があります。

1つ目は、思った以上に長生きした場合には、資産が途中で枯渇することになります。よく言われる長生きリスクです。たとえば、2000万円の資産を毎年100万円ずつ引き出せば、20年間は大丈夫ですが、それよりも長生きした場合には資産が足りなくなります。

そこで、このリスクを回避するために、元本を運用することで資産を少しでも長く持たせることが必要になります。実際、運用によって資産の枯渇リスクは小さくなる可能性が高まりますが、その一方で別なリスクも抱えることになります。

運用を続けながら定額引出を続けていると、運用そのものによって元本が想定以上に毀損して、場合によっては途中で枯渇してしまうような「収益率配列のリスク」がそれです。これが2つ目のリスクです。このリスクは『退職後の「使いながら運用する時代」の隠れたリスクとは?』で詳しく書いていますので参照してください。

持続可能な引出率

この「定額引出」を、引き出したい金額をもとに計算するのではなく、余命などの年数を参考にして途中で枯渇しないような引出額を推計する方法もあります。「持続可能な引出率」と呼ばれる数字で、これはたとえば「4%」といった「率」で表示されますが、引出開始時の資産に対する「比率」として提示されるものです。

実際には「資産残高 × 持続可能な引出率」で決められた金額が、その後ずっと引出額として固定されます(インフレを考慮することはあります)。この方法のポイントは、引出額は定額ですが、途中で枯渇しない引出率を過去の資産クラスの収益率を使って、数千回といった膨大なシミュレーションを繰り返して算出することです。

その結果、たとえば90%の確率で枯渇しない「収益率」といった数値を算出することができます。ただ、この方法でも金額を決めて引き出す限り「収益率配列のリスク」は完全に回避できず、その可能性は90%といった限定が付くのです。

次回は、「収益率配列のリスク」を回避する定率引出の方法を紹介します。

<<これまでの記事はこちらから>>

合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史