有名人からごく普通の人まで、SNSなどを誰もが使う時代。通常なら出会うことのないような人とでも、いまでは簡単につながることができるようになりました。

ただ、そんな時代に目立つのは、自分がいる業界内外で、さまざまな人物と「人脈」をつくることで、あたかも自分が「すごい人」になったかのように振る舞う人。これは、とくに就職を控えた大学生や、若手の社会人に多いようです。

この記事では、『孤独 ひとりのときに、人は磨かれる』の著者であり、多くのベストセラーでも知られる心理学者の榎本博明先生が、「人脈づくり」に依存してしまうことの危うさについてお話しします。

「人脈教」による洗脳

・「自分はこれだけの人たちとつながっているのだ」と自慢げに見せびらかしたりする人
・「何をするにも大事なのは人脈だ」と言って人脈づくりに余念のない人

最近、こうした人たちをとくに多く見かけます。たしかに仕事の中で、人とのつながりは大切です。そのつながりに助けられることもあるでしょう。しかし、仕事の実力が不足しているのに、「人脈、人脈」と言って、人とつながることばかり考えているのはどうでしょうか。

まだ仕事能力が十分ではない若手社員、あるいは仕事を始めてさえいない学生が、「将来のために人脈を広げておく必要がある」とSNSで知り合いを増やし、その中から「役に立ちそうな人」と実際に会って人脈を広げようとする。こんな風潮に違和感を覚える方も多いのではないでしょうか。

こうして人脈づくりに夢中になっている人に「もっとやるべきことがあるのでは?」と問いかけても、「世の中で活躍している人はみんなすごい人脈を持っています。仕事の基本は、人脈をつくる力なんですよ!」と、まるで聴く耳を持たない人もいます。これではまるで洗脳されているかのようです。

人とのつながりは、「目的」ではなく「結果」

たしかに、世の中で活躍している人がすごい人脈を持っているということは多々あります。しかし、その人脈は、その人自身が実力を発揮し、何らかの道で頭角を表すことによって、徐々に築かれてきたものであることがほとんどです。

本当に優秀な人にとっては、自分がやらねばならないことに没頭するため、人脈づくりなどに奔走する時間はありません。しかし、自分自身で培った実力を発揮することで、まわりに自然と人が集まり、つながりができていくのです。

「人脈、人脈」と言って、人とつながることばかり考えている人ほど、実際には仕事ができないことも多いものです。こうした人は、やるべきことをやらずに「浅いつながり」に逃げることで、自分自身を安心させようとしているのではないでしょうか。

結局、いざというときには役立たない

また、人脈を重視する人は、「他人から得られるメリット」に敏感です。しかし、これはいわば打算的な付き合いです。こちらが相手側に仕事を紹介できる、優秀な人材を紹介できる、営業先や販路の拡大を支援できるなど、メリットがある限り、関係は続くでしょう。しかし、それがなくなったとたん、疎遠になっていきます。

では、このような打算的な関係の根本的な問題点はどこにあるのでしょう?