自分は本当に子どもが欲しいの? 

結婚する前、漠然と「なんとなく子どもは欲しい」と考えてはいたものの、今までの人生で赤ちゃんを抱っこした経験さえほとんどなかった筆者。あまりにもわからないことが多すぎて、そもそも自分が赤ちゃんのお世話なんてできるのだろうか、育児でイライラして最悪の場合虐待したり、自分が育児ノイローゼで苦しんでしまったりしないだろうかと本気で考えていました。

そこで思い立ったのが保育園で働くこと。とにかく赤ちゃんに慣れること、そして保育や育児について知識を深めることで、そうしたモヤモヤした気持ちがスッキリするのではないか。そして、本当に自分は子どもが欲しいのかどうかを確かめる、良いきっかけにもなるのではないか。そんな風に思ったのです。

そんな筆者が、出産する前に1年間、保育園で働いて良かったと感じたことを紹介します。

現在の保育や育児にまつわる問題を知ることができた

筆者が働いていたのは、都内にある認可外保育園でした。保育士資格は持っていないため保育補助という形でしたが、園内の雑務全般だけでなく、送迎する保護者からの園児の受け取り、お昼寝の監督、オムツ替え、ミルクでの授乳など、様々な業務をしていました。

その園にいる園児はほとんどが認可園に選考で落ちてしまった子で、翌年4月での認可園入園を目指して一時的に入園していました。親御さんとお話をしたり各ご家庭の状況を垣間見たりする中で、ニュースでは報じられることのない待機児童に関する問題や保育園入園のリアルを知ることができました。

それ以外にも親御さんとの関わりを通して、たとえば父親の育児参加に関する問題に触れる機会も。出勤前に園に園児を預けに来るお父さんは3分の1程度いました。一見すると素晴らしいと思っていたのですが、連絡ノートを見るとすべてお母さんの書いた文字。そしてお父さんに、園児の様子やお迎え時間、緊急時の連絡などについて確認をすると、「私はちょっとわからないので、何かあれば妻に連絡してください」の一点張り。

夫婦共働きだから保育園に預けているのに、やっぱり子育てに関する負担はお母さんに行く。園児の具合が悪くなって早めのお迎えをお願いする際には、必ずと言っていいほどお父さんではなくお母さんの会社にお電話をし、仕事を切り上げて来てもらうのは心苦しかったのを覚えています。まだまだ男性の育児参加が乏しい現状を直接目にすることで、自分たち夫婦はどのように仕事と育児の分担ができるのだろうかと、あらかじめ話し合うことができました。

「子どもが欲しい」という気持ちが固まった

保育園で20人以上の0歳~2歳の園児に1年間触れ合った筆者。結果的に子どもを授かって産みましたが、保育園で働いたからこそ自分が子どもを持つことへの強い意志を固めることができたのは、とても良かったと思います。

保育園で働いたことで、自分の子にはこんなお弁当を作ってあげたい、産まれたらこんな服を着せよう、こういう時にはこう叱ろう、といった自分が子どもを持った時の具体的なイメージを想像できました。そのイメージがどんどん膨らみ、「ああ、自分は子どもが欲しいんだな」と気持ちを再確認することができたのです。

もちろん、「やっぱり子どもは欲しくない」と思った可能性もあります。いずれにせよ、たくさんの園児と触れ合うことで、本当に子どもが欲しいのかどうか、どうして欲しいのかという、自分の一つの軸のようなものを培うことができると思いました。

赤ちゃんの泣き声への耐性がついた

産後うつや育児ノイローゼの原因の一つだと言われているのが、赤ちゃんの泣き声。何をしても止まないその泣き声によって、母親は自分の無力さを感じたり精神的に追い詰められたりしてしまいます。

しかし、保育園で0歳~2歳の園児を見てきた筆者は、赤ちゃんという生き物は特に理由もないのに激しく泣くことがあるということを、肌感覚で理解できていました。そして何よりも、自分の耳が赤ちゃんの泣き声に対する耐性を持つようになっていたのです。この耐性は、実はかなり重要なポイントだと思いました。

赤ちゃんは泣くものだと頭ではわかってはいても、耳がそのキーンとした声に慣れていないため、心と体が追い付かなくなることがあります。しかし、実際にワンオペ育児で赤ちゃんと常に二人きりで育児をしている現在、泣かれてイライラすることはほとんどありません。これはやはり、筆者の耳が赤ちゃんの泣き声に慣れているということが大きいと感じています。

完璧な子育てなどないという認識が持てた

育児書などには、「〇〇の時は△△すればいい」「□□すれば××になる」といった文言が多く並んでいます。またネットにも、「これこそが子育ての正解」と言わんばかりの情報が氾濫しています。しかし、医療行為を除いては子育てにおいて正解はなく、完璧な子育てなどありません。筆者は保育園でたくさんの子どもと触れ合ったことで、「すべての子どもは個人差があり、同じように育つ子どもは二人と存在しない」ということがわかりました。

そのことを保育園勤務によってしっかりと認識できたため、現在は完璧な子育てをしようと頑張りすぎたり細かい部分を気にしすぎたりすることがなく、ゆるゆると自分なりの育児を楽しめている気がします。

もし自分の子どもしか知らない状態だったら、育児書やネット情報をすべて鵜呑みにして、「お医者さんは大丈夫って言ったけど、体重があんまり増えていない気がする」「抱き癖がつくから抱っこはしすぎない方がいいのかな」「他の子より歩き始めるのが遅いのでは?」と、いろいろなことにとらわれていらぬ気苦労をしてしまっていたかもしれません。

すべての子どもは個人差があるので、その子なりのペースで育ってくれれば良い。そんな、当たり前だけど不安だらけの育児では見落としてしまいがちな認識を、保育園勤務によって持つことができ、実際の子育てに生かすことができています。

最後に

核家族化が進み、親せきやご近所とも疎遠で、他人の子どもと触れ合うことが少なくなってきた昨今。もちろん、保育園における保育と家庭における育児は全然違います。しかし、筆者は保育園で働いて子どもを持つイメージをつかめ、様々なことを学べたからこそ、出産して今子育てができています。筆者のように「自分は子どもが欲しいのかどうかわからない」「育児をする自信がない」という人は、時間が許せば一度、保育園で働いてみるのも良いのかもしれません。

秋山 悠紀