中国の合肥市がにわかに注目を集めている。数年前まで同市は中国における半導体シティランキングで18位程度だった。そのころ半導体関連の企業立地は12社しかいなかったのだ。ところが、ここにきての合肥市の躍進ぶりはサプライズといえる状況だ。今では半導体関連企業は150社の進出・操業を数えており、ランキングは一気に5位に浮上したのだ。

 中国のIoT市場は2020年まで年平均14.7%の成長を続け、市場規模は約14兆円に拡大すると予測されている。とりわけ半導体産業については、国家戦略ともいうべき「中国製造2025」が推進され、半導体の国産化の急加速とAI開発企業の一気増大を謳い上げている。

 2022年以降には半導体製造装置の約50%が中国本土で使われるとも言われ始めた。中国におけるAI開発企業は700社にも及んでいる。自動運転のバイドゥ、ハイリャン、ロードスターをはじめとしてテンセント、メグビー、ボイスAI、アイフライテックなどがすさまじい勢いでAIの開発を加速しているのだ。

地の利と国家資本で投資ラッシュ

 さて、合肥市はこうした中国政府のIoT拡大と半導体急上昇を地で行く都市となっており、その設備投資ラッシュには驚くべきものがある。DRAM製造の中国イノトロンは17年11月から月産5000枚の製造装置の搬入を始めている。19nmの試作からスタートし、最先端プロセスにチャレンジしていく。イノトロンは500億円の投資を断行するが、何と合肥市はこの80%に補助金を出している。

 また、台湾ファンドリーのパワーチップテクノロジーが出資するネックスチップも、2017年7月に合肥市でLCDドライバーICを製造する300mm工場(月産能力5000枚)を稼働させた。19年6月に月産能力を約3.5万枚に引き上げる計画だ。このネックスチップはパワーチップと合肥市のJVであり、市政府ののめり込み方は尋常ではないのだ。

 ちなみに、世界最大の液晶メーカーにのし上がった中国のBOEも1兆5000億円を投じ合肥市に超巨大工場を立ち上げているが、このうち1兆円近い金額を合肥市は補助金として支出している。これがサプライズでなくて何であろう。さらにビジョノックスの有機EL新工場にも合肥市は大型の補助金を投入している。

 電子デバイスだけではなく、フォルクスワーゲンのEV工場も合肥市に建設中であり、200万台体制に持っていこうとしている。大手のサーバーメーカーであるレノボもまた合肥市で新工場立ち上げに入っている。

 韓国や台湾、さらには日本の電子デバイスメーカーは、こうした合肥市における爆投資を見て、これではとても勝負にはならないという印象を強めている。まさに中国という国家を挙げての資本投下であり、採算性も収益性も、そしてまともなマーケティングも緻密に計算されているとはとても言えないのだ。とりわけ日本の電子デバイスメーカーは日本政府からそうした膨大な補助金をもらわずに戦っている。最先端技術で切り開いていってもコスト競争となれば中国に勝てるわけがない。

 そうした中国の有様を如実に反映しているのが合肥市なのである。合肥市の有利なところはその地政学的な理由にある。西に行けば西都、西安、重慶があり、東に行けば上海、蘇州があり、北京との距離もそこそこ近いといううってつけのポジションにいるのだ。またいうところの長江デルタでは土地が一番安く、1㎡1万3000元で収まっている。北京に次ぐ高速鉄道のハブとなりつつあり、もうすぐ13本の高速鉄道が乗り入れるというとんでもない条件を備えることにもなる。とりわけITの拠点ともいうべき都市である上海には1時間半程度で行ける利便さがあるという。

サプライチェーンへのフォーカスが奏功、一方でGDPは減速

 合肥市がなにゆえに大成功を収めたのかと言えば、地の利があって運がよかったと言ってしまえばそれまでだろう。しかし、合肥市政府の努力も見逃せない。半導体や液晶などの電子デバイスのサプライチェーンにフォーカスするという作戦をとり、これが多くの企業の共感を呼んだのだ。もちろん、今後は装置や材料など名だたる日本企業が進出していくのは間違いないだろう。そしてまた日本の中小企業の技術活用も考えているといわれており、さらに活性化された企業立地の街に発展していくことになる。

 ただ、問題は米中貿易戦争であり、中国全体の7~9月のGDP成長率は6.5%に減速し、9年半ぶりの低水準となっていることだ。中国政府は企業や地方政府の債務削減を打ち出しており、これからもあふれるほどのマネーで合肥をはじめとする各地方政府が補助金ラッシュを実行できるかどうか不透明な状況になってきている。そしてまた米国のダウ平均も下がってきているが、世界が中国経済の先行きを不安視していることが、株価に反映されているのだ。中国の補助金ラッシュによる高成長というビジネスモデルに、少し暗雲がかかり始めたことは間違いないだろう。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉