本記事の3つのポイント

  • サムスンをはじめ韓国には、グローバルトップ企業が多く存在するが、一方で韓国国内への投資減少という問題も抱えている
  • 韓国半導体メーカーは近年、メモリー価格の高騰を背景に驚異的な利益水準を上げてきたが、19年以降はメモリー需給の悪化に伴い収益性の低下などが危惧されている
  • サムスンなどの成長とは対照的に、ここ数年国家レベルで育成に力を入れていた半導体装置・材料の国産化は停滞気味

 

 2018年上期(1~6月期)、韓国メーカーが海外工場の建設および増設に投資した金額は、史上最大の74億ドルを記録した。反面、国内における設備投資額は3月から8月まで6カ月連続して前月対比でマイナスとなっている。

海外直接投資額が史上最多

 法人税の引き上げをはじめ、最低賃金のアップなどによる人件費の上昇や、各種規制による高コスト・低効率の経済構造が、韓国製造業を色褪せさせている要因と分析されている。

 韓国産業通商資源省と輸出入銀行がこのほど明らかにした資料によれば、18年上期における韓国メーカーの海外直接投資額は74億ドルで、1980年に関連統計を始めて以来、最も多かった。それ以前の最大投資額は13年の47億ドルだった。17年上期の海外投資額は29億ドルだったが、18年は前年同期の2.5倍となり、17年通年投資額の79億ドルに迫る規模となった。

 韓国企業らは海外投資を増やす代わりに、国内投資は減らしている。韓国統計庁が発表した「産業活動の動向」によると、18年8月の設備投資は前月に比べて1.4%減少。18年3月の同7.6%減から6カ月間連続で減少している。

 専門家らは、米トランプ政権が輸入品に対して高い関税を課すなど、保護貿易主義を強めていることも、韓国メーカーが海外投資を増やす主因と指摘している。サムスン電子とLG電子が米国に家電工場を建てるのが、その代表的な事例である。サムスン電子は18年1月からサウスカロライナ州工場で洗濯機の生産を開始し、30年までに3.8億ドルを投じ工場を増設する計画だ。LG電子もテネシー州にて洗濯機工場を建設中で、18年中に本格稼働を目指す。

悲観・楽観論が交錯する韓国半導体

 他方、韓国の輸出親孝行産業と称される半導体に対しては、悲観論と楽観論が交錯している。国内総生産(GDP)の寄与度3.6%、雇用16.5万人、輸出割合20%を占める半導体。ここ2~3年間、スマートフォンの仕様の高度化とビッグデータの需要が急増してきたことで、スーパーサイクルとも呼ばれる好況を謳歌した。韓国大手半導体メーカーの営業利益率は、50%を上回る驚異的な実績となっている。

 だが最近、グローバル投資銀行らが韓国半導体産業について否定的なコメントを発表している。スマホメーカーのメモリー半導体の過剰在庫と韓国半導体メーカーによるメモリーの供給過剰で、スーパーサイクルがピークを迎え、19年からは下落に転じるというのだ。

 これについて、サムスン電子とSKハイニックスは、19年にメモリーの価格は多少下がるものの、ビッグデータ需要の持続と人工知能(AI)をはじめとする新規メモリー半導体の需要増で好況は継続すると予想している。

 とりわけ、20年からデータ伝送速度が現状より10倍速い第5世代(5G)移動通信の商用化が始まると、メモリー容量が大幅に増えると見込まれることから、世界的にスマホのメモリー容量が再び増加するという判断だ。

半導体R&D事業の予算が激減

 このような大手半導体メーカーの判断とは裏腹に、韓国半導体産業における懸念材料もいくつか挙げられる。まず、半導体装置・材料産業がグローバル競争力を失いつつあることだ。半導体装置・材料の国産化率はそれぞれ18%、48%に止まり、ここ10年間停滞している。次に、優秀な半導体R&D人材の輩出が急激に減少しているところだ。韓国産業通商資源省による半導体分野のR&D事業に対する予算は、09年の1000億ウォン(約100億円)から17年には300億ウォン(約30億円)に激減している。その結果、ソウル大学の半導体専攻修士・博士輩出人数は09年の100人から17年は30人にまで減っている。

 最も危惧される懸念材料は、韓国が得意とするメモリー半導体産業における中国の猛追であろう。中国は25年までに1500億ドルを投じ、半導体強国へ飛躍する方針を打ち出している。とりわけ、中国半導体メーカーは、韓国半導体装置・材料メーカーの製品購買を条件に、M&Aや中国への工場移転を露骨に勧めている。「これは韓国半導体産業の生態系を根幹から揺るがす」というのが、韓国の業界関係者らの一致した反応だ。

 18年上期に海外に直接投資した74億ドルのうち、半導体分野は6割強を占める。サムスン電子平澤工場(韓国京畿道)に対する新規投資規模が当初の計画を修正するとの指摘が取沙汰されているなか、国内における製造業の投資が激減するという事態は、雇用や消費も冷え込み、韓国経済のさらなる低成長を示唆している。

電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

まとめにかえて

 DRAM、NANDフラッシュの価格高止まりによって、近年稀にみる好業績を収めてきたサムスンなどの韓国半導体メーカー。足元では今後の需給環境の悪化を危惧して設備投資の抑制に舵を切っていますが、見方を変えれば機動力の高さの証左でもあり、業界での評価が高いのも事実です。一方で韓国経済は過度に半導体産業に依存している体質が変わっておらず、今後市況悪化が進めば、経済へのダメージは大きなものが予想されます。記事にもあるとおり、中国のメモリー国産化は韓国半導体産業にとって大きな脅威となっており、日米以上にその動静に神経を尖らせているに違いありません。

電子デバイス産業新聞