米国名門大学のエンダウメント(基金)は年度ごとに運用され、毎年6月に決算を迎えます。ちょうど今の時期は、2018年度(2017年7月1日~2018年6月29日)の決算内容が発表されるタイミングとなっています。そこで今回は、各エンダウメントがこの1年どのようなパフォーマンスとなったのかを見ていきましょう。

イェール大学エンダウメントはプライベート・エクイティ(未公開株式)が好調

トップ5エンダウメントのパフォーマンスは、すべて二桁台のプラス・リターンとなりました。2017年から2018年にかけて、年度前半は米国株が絶好調で世界的に良好な投資環境となっており、特に伝統的資産である株式のパフォーマンスがリターンの底支えとなったと考えられます。

年度後半は米国長期金利が上昇し、株価も債券も軟調となりました。しかし、エンダウメントは伝統的資産への資産配分比率が約3割から4割程度と低いため、リターンに対してはそれほど大きな影響を受けなかったと考えられます(同期間のS&P500指数は+12.2%の上昇、米国10年国債の利回りは2.30%から2.86%へ上昇)。

図表1:運用資産残高トップ5エンダウメントの2018年度のリターン

出所:U.S. Endowment Returns Tracker - Compare returns of school endowments(Pensions&Investments)

2018年度に+12.3%のリターンを計上したイェール大学は、それぞれの資産クラスで長期リターン(過去10年および20年)も発表しています。

過去10年間では、同エンダウメントが運用する米国株の年率リターンは+12.4%(ベンチマーク比+2.2%ポイント)、外国株式は+14.0%(同+3.4%ポイント)、絶対リターン型ヘッジファンドは+4.8%、LBOは+10.2%、プライベート・エクイティ(未公開株式)は+16%、不動産および天然資源はそれぞれ+2.7%と+1.7%でした(参照:Yale News)。

イェール大学エンダウメントは、エンダウメントのなかでもオルタナティブ投資に積極的で、特にプライベート・エクイティ(未公開株式)への運用割合が高いことが知られています。結果的に、この資産配分がパフォーマンスを支えたといっても過言ではないでしょう。

イェール大学を凌駕するボウディン大学エンダウメントのパフォーマンス

エンダウメントの規模で比較すると、どうしてもアイビーリーグの私立大学が上位に入ってきます。ところが、エンダウメントの運用資産が多いからといって、必ずしもパフォーマンスが高くなるというわけではありません。

その一例が、メイン州ブランズウィック市にある私学のボウディン大学です。同大学は運用資産が1,800億円程度とハーバード大学の20分の1にも満たない規模ですが、2018年度のリターンは+15.7%と他のエンダウメントを凌駕しているのです。

これだけのリターンを記録するエンダウメントですから、ポートフォリオの中身が気になるところです。2017年度のポートフォリオの資産配分は、オルタナティブ投資が70%、株式が24%、債券・現金が6%と、オルタナティブ投資(ヘッジファンド、プライベート・エクイティなど)への資産配分が前述のトップ5エンダウメント以上になっています。

図表2:エンダウメントのリターン・ランキングトップ10

出所:Pensions&Investments : U.S. Endowment Returns Tracker - Compare returns of school endowments(2018年6月末時点)


このように、運用資産が中規模以下のエンダウメントでも、オルタナティブ投資に傾注している運用主体が存在しています。従来は保守的な運用を行っていたエンダウメントも、伝統的資産からリターンを得ることが容易ではないことから、オルタナティブ投資に着目していると考えられます。

もっとも、資産規模が大きいほど運用成果も高まるわけではありませんので、運用戦略や資産配分手法がより重要であることがわかります。

個人投資家がオルタナティブ投資を直接運用することはまだまだ一般的ではありませんが、こうしたエンダウメントの投資戦略を知っておくことは、運用環境が難しくなってきた2018年以降必須となってきています。

太田 創(一般社団法人日本つみたて投資協会 代表理事)