本記事の3つのポイント

  • コネクター大手のイリソ電子工業が売上高1000億円に向け積極的な事業展開を見せている
  • 注力市場として車載と産業機器を設定、製品開発を強化している
  • 生産体制の強化にも着手。5カ所目の海外拠点として中国・南通工場を稼働、さらに6カ所目としてメキシコ工場の建設を進めている

 コネクター大手のイリソ電子工業㈱は、売上高1000億円企業に向けて、成長街道を突き進んでいる。2017年度(18年3月期)売上高は、前年度比12.5%増の422億円を達成した。18年度を迎えても、引き続き好調を持続。4~6月期は売り上げ、利益とも、同四半期としては過去最高を更新した。

19年度500億円の大台に

 今後に向けては、17年度実績の422億円を助走、18年度計画の455億円をジャンプ台とし、19年度には1000億円の折り返し点となる500億円の大台に乗せる方針である。

 ビジネスの主戦場は、車載と産業機器の両分野。とりわけ車載市場においては、これまでカーナビやカーオーディオなど運転席周りの情報系が主軸であった。それがADAS(先進運転支援システム)系やパワートレイン系に比重が移行。17年度は両領域の売上高が逆転するに至った。

世界市場をにらみ生産力も強化

 世界市場を見据えた、生産力の強化も怠りない。

 同社はこれまで日本(茨城)、中国(上海)、ベトナム(ハノイ)、フィリピン(マニラ)の計4工場でコネクター生産を展開。今回、5番目の工場として、中国江蘇省南通市に南通工場(南通意力速電子工業有限公司)を竣工させた。さらに米国およびEU域の市場をにらみ、19年度着工でメキシコのグアナファト州レオン市にも新工場を建設する。

 南通工場の敷地面積は3.8万㎡、延べ床面積にして2.6万㎡。イリソが保有する全5工場で最大の規模を誇る。比較的サイズの大きいインターフェース用コネクターから生産に着手。18年度内には月産1000万個レベルにまで引き上げる。設備投資は18年度に計画する75億円のうち12億円を投じる方針である。本格量産体制を構築するまでには、顧客からの認証取得も含め4~5年の歳月が必要と見ており、最終的には300億円規模の売り上げを担う工場に育てる計画である。

 一方、イリソ6番目の生産拠点となるメキシコ工場は、今回新設する南通工場より、さらに大規模な施設になる見通し。敷地面積は南通工場の1.5倍強の5.4万㎡、延べ床面積は3.5万㎡ないし4万㎡を想定している。

市場攻略方針とロードマップ

 1000億円企業達成に向けたマイルストーンとなる19年度売上高500億円。まずはこの目標クリアを焦点に、イリソは車載と産機の市場攻略方針および投入するコネクターの計画を公開した。

 キーワードは3つ。クルマが100年に1度の大革命を迎えたこと。働き方改革を含むインダストリー4.0の到来。そして、両市場に共通する事項として、機器間の情報もつながるIoTである。ポイントは、この3つをどのように解釈し、コネクター戦略として切り込んでいくかである。

1.車載市場について

 車載用途に関しては、交通事故と環境破壊をテーマとした。前者はADASとその延長線上に位置する自動運転が焦点となる。後者はガソリン車やディーゼル車に対する規制の強化を意味する。

 ADASは25年前後を境に、レベル2~4に向かう。環境規制は30年ごろからインドも含め、世界規模で規制強化が始まる。両方の課題をクリアできるクルマは、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)で、25~30年にかけて、これら車種の攻略が不可欠となる。

 ADASでコネクタービジネスと深い関係を持つのが、高精細カメラ、LiDAR(光検出と測距)、レーダーである。

 カメラはデジタル化とセンシングへの対応を満たす必要がある。そのうえで、多数個搭載が加速するため、カメラのサイズは23mm角から20mm角以下へと小型にすることが必至。コネクターも追随する必要があり、0.4mmピッチのフローティング(可動)型/基板対基板(B to B)コネクターに続き、19年には同タイプの0.3mmピッチ版を市場投入する。

 スキャニング機能を持つLiDARも、カメラと同様の進化をたどる。このため、同じく0.3mmピッチ可動B to Bコネクターを投入する。

 レーダー領域も小型化は必須だが、車体の前後バンパー後部に搭載されるため、防水対応を取り込む必要がある。ここでの戦略コネクターは、イリソが大手自動車メーカーと共同開発した3次元可動B to Bコネクター「Z-Move」で勝負する。Z-MoveはX、Y方向のみならず、Z方向の可動も可能にした最新鋭のコネクター。パワートレイン部での採用が進んでいる。レーダー対応品としては現在、Z-Moveの新しい接続方式を提案中だ。

 一方、EV、PHV、FCVの台頭をにらんでは、モーター系やバッテリー系など駆動部にもビジネスチャンスが到来する。おそらく軽量化とワイヤーレス化が加速するとイリソは読む。このため、ワイヤーレスや溶接レス、はんだ付けレスなど、生産ラインでの組立容易化に取り組んでいる。対応コネクターはZ-Move。そのラインアップ拡充とダウンサイズ化で顧客ニーズに応えていく。

2.産機市場について

 働き方改革を含むインダストリー4.0の到来を、イリソは労働人口の激減と解釈した。ターゲットとなるのはクルマと同様、30年前後。ここを焦点に、都心部で4.5億人の労働人口減。地方で12億人の減となる。この労働人口減をカバーするのがロボットである。都心部はサービスロボットが、地方は産業ロボットがカバーする。

 サービスロボットは電子基板内蔵型。基板はCPUや通信系、カメラなどの電子デバイスで構成されるため、コネクターはADASと同様の戦略を踏襲する。産業ロボットは基板内蔵に加え、外付けもある。構成部品はモーター、センサー、CPU、カメラ、インバーターなど。やはり車載と同様の戦略を推進していく方針だが、車載とはサイズが異なる点に注意を要する。

 また、ロボットはクルマ以上に互いが通信で「つながる」ことの認識が需要で、ロボット用コネクターの商品開発もここへの配慮を大きく取り込んでいくことになる。

 具体的なビジネス領域は、駆動系、カメラ系、制御系の3つで、すべてに共通するニーズが省スペース化である。とりわけ重要なのが制御系。カメラ系と連動するため、0.4mmピッチ可動B to Bコネクターで攻める。

 また今後、ロボットも車載も含め、処理情報量が大きく増大する。この課題に応えるため、20年から0.6mmピッチ可動の高速伝送コネクターを市場投入する方針である。

提案型ビジネスを推進

 これらロードマップに描いた全商品開発を、すべて自前で遂行するのは昔の話。可動型B to Bコネクターは業界トップを走ると自負するが、実際には弱い技術分野もある。弱点領域は同業他社の協力を得て、OEM供給も視野に入れている。また、20年に投入予定の高速伝送コネクターは、競合他社と厳しいビジネス競争を展開することになろう。

 営業部隊は自社内で顧客からの開発要請を待つのではなく、社外に飛び出し顧客と対面する提案型ビジネスを強化していく考えである。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松下晋司

まとめにかえて

 コネクター業界はこれまでスマートフォン(スマホ)市場に成長を依存するスタイルとなっていました。しかし、スマホ市場の成熟化に伴い、他市場に活路を求める動きも目立つようになってきました。今回取り上げたイリソ電子は早くから、車載や産機市場に注力しており、成長力はコネクターメーカー各社のなかでも高いとみられています。今後も同社の動きに注目していきたいところです。

電子デバイス産業新聞