はじめに

日本では定年制度を導入している企業が多いため、一定の年齢になると定年退職をすることになります。定年後は多くの人が退職金や失業保険金などを受け取ることになり、年金生活を送ることになりますが、その際に基本的には自分で手続きをする必要があることは覚えておかなければなりません。

目次

1. 定年制度とは何?定年退職前に必要な準備とは
2. 定年のときに重要な高年齢者雇用安定法
3. 定年退職後の年金や在職老齢年金
4. 定年退職後も必要な健康保険
5. 定年でもらえる退職金
6. 定年と失業保険
7. 65歳未満か65歳以上かで異なる定年後の失業保険金

1. 定年制度とは何?定年退職前に必要な準備とは

日本の多くの企業では定年制度が導入されています。定年退職とは各企業が定めている定年に達したときに退職することを意味しており、定年は、以前は60歳が標準的でしたが、高年齢者雇用安定法の改正を受けて段階的に65歳まで引き上げる企業が増えているのが現状です。

定年退職が近づいてきたら準備をしておくべきことが多数あります。主に年金、失業保険、健康保険、税金に関する対策が必要になり、在職中に用意しておいた方が良いものも少なくありません。年金については年金手帳と厚生年金基金加入証を準備してすぐに受給の手続きをできるようにしておくと安心でしょう。

健康保険は健康保険被保険者証、失業保険については雇用保険被保険者証が必要になりますが、これらの書類は基本的には勤務先から退職のときに受け取ることができます。しかし、手続き上必要になる公的に使える身分証明書や認め印などの準備は一ヶ月前程度から行っておいた方が良いでしょう。

2. 定年のときに重要な高年齢者雇用安定法

定年に向かう段階で気にかけておいた方が良いのが高年齢者雇用安定法です。「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が正式名称で、2013年に改正されたことで高齢者の雇用の機会が増えました。

高年齢者雇用安定法は段階的な措置こそあるものの、定年制度を導入している企業は65歳まで定年を引き上げるか、65歳までの継続雇用制度を取り入れる、もしくは定年制度を廃止して定年退職そのものをなくしてしまうことがこの法律で義務付けられました。この背景には年金の受給が60歳からだったのが65歳に引き上げられることや、全般的な労働者の不足が目立つようになっていること、健康寿命が延びてきていることがあります。

また高年齢者雇用安定法によって65歳まで働けるようになったことで定年後の再就職のチャンスも増えましたので、60歳になったら退職して老後の生活をのんびりと過ごすのも良い考え方ですが、退職してから別の職場に再就職して働き続けるという選択をする方も増えてきました。

3. 定年退職後の年金や在職老齢年金

定年退職をしたら年齢的に問題がなければ年金を支給してもらうことができますが、特に手続きをしなくても自動的に支給されるようになるものではないので注意しましょう。年金を受給するためには自分で役所で手続きをして受給を開始しなければなりませんが、そもそも年金には老齢基礎年金と老齢厚生年金の二つがあり、受給の条件にも違いがあります。

老齢基礎年金

老齢基礎年金は国民年金や厚生年金保険に加入して20歳から60歳までの間に支払った保険料に従って65歳から生涯を通じて受け取れる年金のことで、基本的には自営業やアルバイトの人が加入することになります。25年間以上の保険料納付をしていることが受給条件です。60歳で定年になって受給したい場合にも繰り上げ受給ができますが逆に繰り下げ受給をすることも可能で、最長で70歳まで引き伸ばせる仕組みになっています。

老齢厚生年金

老齢厚生年金は主にサラリーマンが加入する厚生年金保険から支給される年金のことです。厚生年金を支払ってきた期間が1ヶ月以上ある場合には受給対象になり、65歳から受給することができます。また厚生年金は国民年金と比べ保険料は高額となりますが、二つ同時に加入することもできるので、65歳からダブルで受給することができます。

在職老齢年金

働きながら年金を受給する場合は、在職老齢年金について理解しておくことも重要です。再就職して仕事をしていても年金の受給は可能ですが、給与と年金を合わせた月給に応じて年金が減額、または支給停止になる場合がありますので、再就職するときには減額されてしまわないように稼ぐという考え方も重要になるので念頭に置いておきましょう。

4. 定年退職後も必要な健康保険

会社などで雇用されて働いていた人は勤め先で健康保険に加入していますが、定年退職すると外れることになります。日本では国民皆保険制度が敷かれているので、定年後も健康保険に加入しなければならず、その手続きを行うことも必要です。

定年退職後は主に国民健康保険に加入するケースが多くはありますが、仕事を定年退職後も、会社の健康保険に継続して入って任意継続被保険者となることが可能で、退職日の翌日から20日以内に手続きをすれば最長2年間は加入できます。また、配偶者や子供が働いている場合にはその健康保険の被扶養者となることも可能です。

この他にも条件を満たせば後期高齢者医療制度が始まる74歳までは「特例退職被保険者制度」を利用することができる会社もありますが、利用できる会社はあまり多くありません。しかし特例退職被保険者制度が利用できれば、国民健康保険と同程度の比較的安い保険料で現役社員と同じように健康診断を受けることができたり、扶養家族分の保険料も含むことができます。

しかしそもそも特例退職被保険者制度を使える会社が少ない上に利用条件も複数ありますので、在職中にしっかりと確認をしておき、もしもこの制度が使えるのであれば活用すると良いでしょう。

健康保険料の支払いの負担を小さくしたいと考えた場合、自分の子供など家族の健康保険の被扶養者になるのが良いですが、再就職して収入が大きくなると被扶養者にはなれません。通常は国民健康保険が最も保険料が高くなる傾向がありますので、他の選択肢がなくなったときに最終的に加入する健康保険だと考えておくと経済的な負担を最小限にできるでしょう。

5. 定年でもらえる退職金

定年退職すると退職金も手に入れることができますが、受給の仕方について選択権がある場合があるので手続きを忘れないようにしましょう。多くの企業では一括払いでしか受け取ることができないものの、企業によっては年金のようにして分割払いをしてもらえます。

退職金を分割払いにした場合のメリットとデメリット

退職金を分割払いにすると金利が付くので金利分を増やせるのがメリットです。しかし、分割払いの場合には支払われたお金が所得として扱われるので毎年所得税と住民税を納めなければならなくなります。

退職金を一括払いにした場合のメリットとデメリット

一方、一括払いの場合には金利による増額はありませんが、受け取るときに税金の控除を受けらえるのがメリットです。
また退職所得の受給に関する申告書を提出することで退職金を受け取るときに源泉徴収をしてもらうことができ、自分で納税の手続きをする必要もありません。この申告書は退職するときに会社から渡されるので書類を確認して提出を忘れないようにしましょう。

一括払いと分割払いが選べるときには、一度に大きなお金が入って納税の手間もない方が良いか、納税の手間がかかっても金利が付く方が良いかといった視点で選ぶと良いでしょう。

6. 定年と失業保険

失業保険とは雇用保険に加入していた人が退職をしたら受け取れる給付金のことですが、定年退職後も働き続けたいと考えて就職活動をしていれば失業保険の受給は可能です。

失業保険を受け取る条件としてはハローワークに行って手続きをして、毎月必ずハローワークで求人を探して応募し、求職活動状況の報告を行うことです。求職活動を行わなくなった時点で再就職の意志がないと判断されて失業保険の受給はできなくなりますので、手続きを忘れないようにしましょう。

その際に気をつけておきたいのが年金と失業保険は同時にもらうことができないということです。以前は手続きさえ行えば定年退職後の場合には年金と失業保険を両方同時に受給することができましたが、現在では一方のみを選ぶことになりますので注意が必要です。

7. 65歳未満か65歳以上かで異なる定年後の失業保険金

定年退職後も失業保険を受け取ることは可能であるという事は前述の通りですが、失業保険を受給したいというときには定年の年齢に気を付ける必要があります。失業保険は60歳で定年退職したか、65歳で定年退職したかによって失業保険の種類が異なるためです。

主な違いは65歳未満で定年退職した場合、失業保険は「基本手当」として支給されるのに対し、65歳以上になると「高年齢求職者給付金」になるという点です。高年齢求職者給付金は一時金なので、30日から50日分を一括払いするという形で支給され金額も少なくなりますが、基本手当とは違って高年齢求職者給付金は年金と同時に受け取ることができるので、定年退職後の場合は合わせると受給額が大きくなることがあります。

基本手当となるか高年齢求職者給付金となるかは退職時の年齢で決まるので、64歳の時点で退職していれば基本手当になります。

この年齢の定義については「年齢計算に関する法律」で定められており、この法律によると誕生日の前日午後12時に年齢が1歳増える形になっているので、5月2日が誕生日で65歳を迎える人の場合には5月1日の時点で法律上は65歳となるので注意しましょう。このケースの場合には基本手当にしたいなら4月30日の時点で退職していることが必要になり、高年齢求職者給付金にしたい場合には5月1日以降に退職すれば良いということになります。

おわりに

定年退職をすると今までの生活環境が一変する人も少なくなく、人生の大きな分岐点となる人も多いのではないでしょうか。特に今まで会社員として長く生活をしていた人にとっては、ライフスタイルやキャッシュフローの大きな変化に始めは戸惑うかもしれません。

そのため定年退職が近づいて慌てることのないように、健康保険や失業保険、年金などの様々な手続きのことはもちろんのこと、これから先の人生をどうすべきか、身の振り方を前もって熟考してみるのはいかがでしょうか。

LIMO編集部