AI時代こそ、企業の生き残りには「人」が必要だ

「働き方改革」でダメになる会社、伸びる会社

いま、技術が進歩して、仕事や生活が便利になる一方、AI(人工知能)ができる仕事が増えるため、人間の働き口が減るのでは、という不安も蔓延しています。特に事務や経理、コールセンターなどの定型化された業務はAIに代替されると言われています。

実は、単純作業だけではなく、国家資格が必要な税理士や会計士なども、その例外ではありません。アクセンチュアが2018年に発表した調査結果によると、日本の納税者の過半数(53%)が、AIを活用することで納税申告がしやすくなると考えているという統計も出ているそうです。

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こうした将来の不安から人材不足にさらされている税理士・会計士ですが、そんな中でも社員が増え、右肩上がりで業績も上がり続けている会計事務所があります。そこには「3つの秘訣」があるそうです。今回は『日本一働きやすい会計事務所』の著者であり、自身も会計事務所の代表をつとめる芦田敏之さんから、その秘訣を聞きました。

埋もれないための「専門分野」と「クリエイティブな仕事」

1つ目は「専門分野を持ち、クリエイティビティを追求する」こと。AIに仕事を奪われないためには、AIには解決できないことを仕事にする必要がある、ということはよく言われますが、そのためにはどのような工夫をすればいいのでしょうか。

税務・会計というと、どの事務所も業務内容の違いはないと思われがちですが、芦田さんが代表をつとめる「ネイチャー国際資産税(以下、ネイチャー)」はその名前の通り国際資産税という専門分野を持ちます。「国際税務」は高度な知識と英語力が必要になりますし、お客様の資産を任される相続は一件ごとに事情が異なり、人の感情という要素も関係してくるため、AIに学習させるデータを準備するだけでも大変な労力になります。

また、現状に満足せずに常に他社との差別化を考えることも重要な要素になります。クリエイティビティを保つ工夫として特に重視しているのが「社内コミュニケーションを阻害しない」ということだと芦田さんは語ります。ネイチャーでは、業務に関わるもののみに関わらず、会話を咎めることはないのだと言います。それは、私語をその都度注意していってしまうと社員が萎縮してしまい、業務に関わる会話すら自由にできなくなってしまうという理由からです。

また、自由な会話を生み出すための工夫として、休憩スペースやカフェスペースをつくり、会議室の利用も制限していないそうです。「クリエイティブな仕事をしなさい」といっても、言葉だけでは人は動き出せないものです。芦田さんは「環境から変えていくことで、人もそれについてくる」ということを実感し、社内の制度や福利厚生の改善に日々取り組んでいるのだと言います。

長期的な信用の積み重ねが大きなビジネスを生む

AI技術の進歩や働き方改革によって、「生産性」という言葉に注目が集まるようになりました。長時間労働などのブラックな環境は淘汰されていくでしょうが、「生産性」だけでは解決できないことが、大きな仕事につながることもあると芦田さんは語ります。

これは、大きなビジネスを生むためには、「短期的な利益の最大化」ではなく、「長期的な信用の積み重ね」が必要だという意味です。たとえば、国際資産税を扱うネイチャーは、海外の会計事務所から日本の税法について問い合わせを受けることもあるそうですが、すぐに資料を作成して送付するそうです。普通だったらここで料金が発生するところですが、同事務所では無料で情報提供しているといいます。お互いさまの精神で対応すれば、相手も喜んでくれますし、こちらからも気軽に問い合わせることができるようになるからだそうです。

現在、芦田さんの事務所には、年間に数百件のペースで新規顧客から問い合わせがあるそうです。その多くが口コミや紹介によるもの。情報提供を無料で行うことは、生産的・効率的とは言えないかもしれません。しかし、その小さな積み重ねによってビジネスパートナーと信頼関係を築くことができ、新しい顧客の紹介にもつながるのです。

押し付けの制度ありきではうまくいかない

専門分野に強く、外部の様々な人と信頼関係を築いているとはいえ、それを実現できるのは、意識の高い人材を確保できているからこそです。

人が意識高く働くためには「公正な評価」「自分のやっている仕事への満足感」「安心して働ける環境」が必要だと芦田さんは言いますが、共通して言えることは、会社が押し付ける決まった制度ありきではうまくいかないということです。

同事務所において、働き方の仕組みを考えるための軸となるのは「社員が幸せになる」ということです。それは休みであったり、働く環境であったり、評価であったりと、「幸せ」や「満足感」の基準は人それぞれですが、時代に合わせ、また社員一人ひとりの希望に合わせてニーズを汲み取っていくことが、社員のやる気を引き上げていくための土台になると言います。

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これからの時代は、人間にしかできないことをやっていく

以上の3つの点が、AIに仕事を奪われるとされている税務・会計という業種で、右肩上がりで業績を上げ続け、社員も増やし続けている組織の成長の秘訣だといえます。

3点を通して見てみると、「信頼関係」という共通点が見えてきます。クリエイティビティは社員同士の信頼関係から生まれ、非生産的でもビジネスパートナーに無料で情報提供するのも信頼関係を築くため、多少の手間がかかっても社員一人ひとりに合わせた制度づくりを行うのも、社員に会社を信頼してもらい、やる気を高く持って働いてもらうため。

結局のところ、人間ができてAIにできないことは、「信頼関係の構築」に尽きるのかもしれません。テクノロジーがどんどん発展していくこれからの社会で生き残るために、あなたの職場でも、この3つの秘訣をヒントにしてみるのはいかがでしょう。

 

■ 芦田敏之(あしだ・としゆき)
税理士法人ネイチャー国際資産税 代表税理士。1978年、神奈川県横浜市生まれ。大手税理士法人に勤務後、2012年に税理士法人ネイチャー国際資産税を設立。近年は、働きやすい職場環境づくりへの取り組みが各メディアに取り上げられるようになり、新聞、経済紙などへの誌面掲載の他、web媒体への取材協力やテレビ番組出演など、税務業界以外からも注目を集めている。

芦田氏の著書:
日本一働きやすい会計事務所

クロスメディア・パブリッシング

参考記事

クロスメディア・パブリッシング

2005年創業。ビジネス書・実用書を中心とした書籍出版や企業出版、メディア・コンテンツ事業、デザイン制作事業などを手がける。

主な刊行書籍に、20万部突破の『誰からも「気がきく」と言われる45の習慣』をはじめ、『特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ』 『起業家のように企業で働く』 『すべての仕事を紙1枚にまとめてしまう整理術』 『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』 『自分を変える習慣力』 『鬼速PDCA』など。