急速な巻き返しを図る香港のフィンテック

9月12日、第3回香港フィンテック・ウィークのオープニングレセプションが香港九龍のICCビル(香港で最も高いビル)の100階にあるSKY100で開催され、筆者も参加してきました。会場は、500人近い参加者が、金融機関やIT企業から出席してごった返し、熱気にあふれていました。セレモニーでは、香港のケリー・ラム行政長官もスピーチするなど、香港政府の力の入れようと意気込みが感じられるイベントでした。

また、今回の香港フィンテック・ウィークは、10月29日から11月2日まで、香港だけではなく深センにまたがってクロスボーダーで開催される点が特徴です。折りしも香港と広東省広州市とを結ぶ高速鉄道が9月23日に全線開通し、香港とマカオの海上橋も完成間近となり、「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」構想が本格的に動き出したことと、呼応する動きといえます。

2015年頃までは、フィンテックの取組みでは、どちらかというと他の後塵を拝した感のあった香港ですが、2016年の第1回香港フィンテック・ウィーク開催以降、巻き返しの動きに出てきました。以来、香港政府はフィンテック関連企業の支援、フィンテックの促進策を積極的に講じています。

一例では、サイバーポート(香港政府全額出資の香港数碼港管理が運営・管理)という街に、フィンテック関連のビッグデータ、スマートシティ、IoT分野に関するスタートアップ企業の誘致・入居を支援してきました。そこに入居するフィンテック企業数は、2017年3月には180社であったものが、2018年1月には250社へと増加しています。また、2018年3月には、香港のフィンテック企業である「WeLab」が、2億2,000 万米ドルもの資金調達に成功するなど、香港でフィンテック企業への投資が増えています。

「バーチャルバンク」のポテンシャルは?

金融面では、香港金融管理局が今年5月30日に公表したプレスリリースの中で、バーチャルバンクライセンスを今年末か来年前半には認可することを発表しました。バーチャルバンクは、既存の銀行のように実店舗は持たずに、ITを駆使して顧客獲得からサービス提供まで金融事業を展開する銀行を意味します。今年8月末に申請を締め切りましたが、香港での銀行ライセンス取得はハードルが高いといわれる中、60社近い申請があったと言われています。

アジア最大の金融センターである香港ですが、意外なことに、バーチャルバンク専業銀行は存在していませんでした。香港では、香港金融の巨人であるHSBC、Standard Chartered Bank、中国銀行の3大発券銀行(香港では紙幣の発券は香港政庁から委託を受けた民間銀行が行っています)の力が強く、また人口が720万人しかないため、非対面のチャネルだけに特化した新設銀行へのニーズは小さく、経営が成り立つかどうか見通せないと言われてきました。

確かに、香港だけで見れば人口は720万人と、東京都の3分の2程度の人口でしかありません。一方で、GDPで世界第2位の規模の経済をもつ中国本土では、数年後に中間層人口は5億5千万人になると予想されています。しかし、中国本土は、世界の金融市場から隔てられ、資本規制があるので、金融ゲートウェイとして香港の金融市場が果たす役割は大きいでしょう。

この5.5億人の内、たとえば10%の人が香港を通じた金融活動をすると仮定しただけでも、数千万人の新たな金融ニーズが、香港には生まれることになります。グレーターベイエリア構想の展開とともに、香港での新たな金融ニーズは拡大していくでしょう。フィンテックを駆使した、これまでなかったような金融サービスで、そうした人々の金融ニーズを取り込むという発想を持った時、香港が金融機関としての機能を提供することの意味は非常に大きいと言えます。

新しい発展分野として香港政府がイノベーションの発展を目指す中、グレーターベイエリアでの「Fintech」の潮流は、皆さんにもぜひ注目しておいていただきたいところです。

ご参考:第3回香港フィンテック・ウィーク(10月29日‐11月2日)

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一