7nmプロセス技術を使った仮想通貨マイニング用の国産ASICチップ「KAMIKAZE」を開発している㈱TRIPLE-1(福岡市)は、KAMIKAZEのサンプルボードとプロトタイプユニットが完成したと発表した。10月には量産チップの入荷が始まり、11月からKAMIKAZEを搭載した量産型マイニングユニットの出荷を開始する予定だ。

 TRIPLE-1は、KAMIKAZEの開発着手から1年が経過した2018年1月、半導体ファンドリー(受託製造)最大手の台湾TSMCからリスク量産が受け付けられ、2月末に7nmプロセス技術を採用したKAMIKAZEの設計を完了(テープアウト)し、製造工程へ移行。7月末にTSMCから最初のエンジニアリングサンプル(ES)ウエハーを受領したことを明らかにしていた。

 今回完成したマイニングボードでは、従来マシンの空冷システムを抜本的に見直し、チップがパッケージ上に露出するフリップチップBGAパッケージを採用した。これによりKAMIKAZEは従来マシンと比べてより高い冷却効率を実現した。

 また、同構造でマイニングシステムの小型化にも成功。KAMIKAZE搭載ボードは、従来マシンよりも1枚多い4枚構成にすることが可能となり、ユニットあたりのマイニング能力をさらに向上させることができるようになった。

設計完了~ウエハー完成に5カ月

 「テープアウトからESウエハーの完成までに5カ月を要した」。TRIPLE-1取締役CTOの尾崎憲一氏は7月末、手元に届いたESウエハーを前に、感慨深げにこう語った。「7nmプロセスは世界最先端。つまり、まだ実績のないライブラリを使用することになるため、RTLを何パターンも作り、電圧などを微調整していく作業に2カ月をかけた」と、開発の経緯を振り返る。

 開発したKAMIKAZEは、300mmシリコンウエハー1枚から約4800個取れる。最先端のマイニングマシンでは、チップをできるだけ小型化して省エネにし、これを並列化するほうが高い性能を実現できるためだ。最終的な実製品ではデザインが変わる可能性があるが、量産型マイニングユニットでは4スロット構成に約240個のKAMIKAZEを搭載するつもりだという。

7nm採用で高速マイニングが可能に

 TRIPLE-1がテープアウト完了後の4月に発表した情報によると、KAMIKAZEは、16nmプロセスを用いた従来チップとほぼ同サイズでありながら、7nmプロセスの採用によって回路の密度を5.2倍に高めた。これにより、マイニング能力は最大でオーバークロック時300GH/sと従来の約4倍の処理能力を実現し、電力効率は最高で0.05W/GH以下と従来の約1/2になるという。

 マイニングマシンは通常、200個程度のマイニングチップによる並列処理でマイニングを行うが、仮にチップをKAMIKAZEに置き換えると、マイニングマシンのパフォーマンスは 最大4倍(オーバークロック時)に高まる。また、仮に従来のスペックと同じマイニングマシンをKAMIKAZEで作った場合、チップ数は1/4で済み、計算上のマシンサイズは1/4、消費電力は1/2に小さくできる。

すでに次世代プロセス向けも開発中

 マイニングマシンの商品化に向けて、同社ではすでにKAMIKAZEの量産用ウエハーの第1弾を投入済みで、19年度には月産1000万個を目指す。さらに、次世代機に向けて7nmプロセス以降に向けた開発もスタートさせており、コアのチューニングなどに継続して取り組んでいる。

 尾崎氏は「ブロックチェーン技術の根幹はハードウエアにあり、その上にソフトウエアが成り立つ。世界最先端のモノづくりは、最先端を使うことであり、現状では7nmプロセスの活用以外ありえない。『Made in Japan』のブランド力はかつて世界最先端のモノづくりを成し遂げた日本人が作り上げたが、私を含めた現在の世代は『最先端へのチャレンジ精神が欠けている』と思う。かつての世代がまだぎりぎり現役でいられるうちに、当社は世界最先端の半導体を作り続けることにチャレンジしたい」と、抱負を述べている。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏