中国の成長率が緩やかに低下するのは自然なことだ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は解説します。

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中国の4-6月期の成長率が6.7%だったと発表されました。中国の経済成長率といえば、1990年代、2000年代は平均10%近くありましたし、「日本から見ると羨ましい」と言うと「中国は8%以上経済成長しないと失業が増えて大変なのだ」という返事が返ってきたものです。

しかし、2012年以降の成長率は8%を下回り続けており、しかも緩やかに低下を続けています。中国経済の成長率はこのまま低下を続けるのでしょうか。それでも中国は大丈夫なのでしょうか。

成長率が緩やかに低下すること自体は自然なこと

経済は、需要と供給がバランスよく伸びる必要がありますが、両者の伸びが偶然同じになることは稀なので、「供給の伸びに需要が合うように財政金融政策で需要を調節する」のが大原則です。調節がうまく行かないと不況に伴う失業や景気過熱によるインフレが起きますが、それらは短期的なもので、長期的には供給の伸びが経済成長率の伸びとなるわけです。

日本のバブル崩壊後の長期低迷期は例外で、需要が低迷し続けたので供給が伸びず、需要の低迷が経済成長率を長期にわたって押し下げてしまいましたが、これは世界史的にも珍しいことだと考えて良いでしょう。何といっても金利をゼロにまで下げても需要が盛り上がらなかったわけですから。

さて、経済の発展に伴って、経済成長率が緩やかに低下していくのは、自然なことです。「前年が小さいと成長率が高くなる」「三次産業のウエイトが上がる」からです。

人が畑を耕しているところにトラクターが来ると、一人当たりの生産量は飛躍的に増えます。利用可能な労働力は大幅には増減しませんから(せいぜい毎年1%といったところか)、一人当たりの生産量が増えると供給力が増えると考えて良いでしょう。したがって、高度成長期の初期は高い成長が可能です。

しかし、すべての農家がトラクターを持つようになると、成長率は鈍ります。旧式のトラクターを最新式のトラクターに買い替えたとしても、それほど一人当たりの生産量は増えないからです。

こうした個々の生産者の事情に加えて、マクロ経済としての産業構造の変化も影響します。経済が成長すると、第一次産業から第二次産業、第二次産業から第三次産業へと労働力も付加価値ウエイトも移っていくと言われています。「ペティ・クラークの法則」と呼ばれるものです。

最初は腹一杯食べることが第一でしょうが、腹が満ちると物が欲しくなり、物が満ちるとサービスが欲しくなるので、それに応じて供給側の産業構造が変化していく、というわけです。飢えがしのげるようになると、「美しくなりたいから洋服が欲しい」となり、ある程度洋服が揃うと「美容院へ行きたい」となるので、需要が第一次産業から第二次産業、第三次産業へとシフトしていくわけです。

問題は、一人当たりの生産額が最も大きいのが第二次産業だ、ということです。全自動の機械で洋服を作ることはできますが、美容は人手に頼らざるを得ません。現時点では「人工知能による全自動の美容マシン」を使う気にはなりませんから(笑)。

そこで、人々の需要が洋服から美容院に移っていくと、自然と一人当たりの生産量が減り、経済成長率の足を引っ張ることになるのです。これは、いかに中央集権の国であっても避けられない変化です。国民に「美容院へ行かずに、もっと洋服を買え」と命じるわけにはいきませんから(笑)。

実は、日本でも同じことが起きました。ただ、高度成長期から安定成長期に以降するタイミングで、ちょうど石油ショックが発生したため、徐々に成長率が下がっていくはずだったものが段差を伴って非連続的に成長率が低下してしまった、というわけです。中国は、何もなければ、徐々に安定成長に移行していくと思われます。

あとは、ショックが来るか否かの問題

日本の場合には石油ショックで高度成長が劇的に終了しましたが、中国の場合はどうでしょうか。筆者は中国経済には詳しくないので、何とも言えませんが、ショックが起きる可能性として2点を指摘しておきましょう。

一つは、従来から問題視されてきた国内の過剰債務の問題が、いよいよ表面化してきて倒産が続発して経済を混乱させるリスクです。もっとも、これについては「狼少年」的なところがあって、「いよいよ危ない」と言われ続けながらも共産党政権が何とかマネージして来たわけですから、今回も大丈夫なのではないかと素人としては考える次第です。

今ひとつは、言わずと知れた米中経済戦争です。「米国が20年後の経済覇権を死守するために中国経済を潰しにかかっている」という可能性もあり、その場合には米国は「中国に肉を切らせて骨を断つ」かも知れません。今後の展開に要注目です。

本稿は以上ですが、高度経済成長等々についての基礎的な事柄については、最近の拙著『一番わかりやすい日本経済入門』をご参照ください。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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塚崎 公義