債務圧縮による社債デフォルト増加への懸念

2017年秋の共産党大会以降、中国政府は国内の銀行に対して民間企業向け貸出しを抑制し、債務を圧縮(デレバレッジ)するよう促してきました。このため、2018年に入って民間企業発行の社債で、発行の中止または延期された事例が見られるようになりました。

また、フィッチ・レーティングスによると、2018年の民間企業債券のデフォルトは、上半期だけで12件に上るとのことです。これは2017年を上回るペースで、債務圧縮の政策が取られている影響が見受けられます。中国政府が、債務圧縮(デレバレッジ)を進める中では、当然に信用収縮は進みます。そうなると、社債でのデフォルトも増加していくことが懸念されます。

中国では1990年代末にもノンバンクで債務不履行が発生したことがあり、投資家が多額の損失を被った事例がありますが、民間企業ではデフォルトのリスクが増すと考えるべきでしょう。

また、信用収縮が進む場合には、信用リスクに対してより敏感となるため、低格付の社債ほど価格変動・低下の圧力に晒されることになります。特に、不動産や資源、生活必需品関連の民間企業には影響が出ることが見込まれます。投資不適格や無格付けの会社が発行する社債は、信用収縮が進む状況では債券スプレッドも拡大しますので、不安定化も長期化するでしょう。

流動性促進策導入の狙いと今後の見通し

一方で、中国政府は米国からの圧力が強まり、貿易摩擦が長期化する懸念や、その影響による景気の下押しリスクに対応し始めました。そのため、上述の内容とは相反しますが、債務圧縮方針を幾分緩和する姿勢も見せています。

7月19日のロイター報道によれば、中国人民銀行は市中銀行向けの流動性促進策を導入する方針で、銀行に融資拡大を促し、地方政府傘下の資金調達会社である融資平台や企業などの発行する債券への投資を増やす狙いがあるとのことです。

中国政府が一時的に構造調整の手綱を緩める例は、2016年に景気底割れ懸念が台頭する際に財政出動した例などがありました。米中貿易摩擦に身構える形で取られる今回の対応は、短期的なものにとどまる可能性が高いと見ています。長期的な視点に立てば、債務圧縮の流れは構造調整上、不変であると思われます。

したがって、台頭しつつあるクレジットリスク懸念は、踊り場的な落ち着きを見せる可能性があるものの、この局面では、保有する債券の入れ替えを進めるには絶好の機会となる可能性があることを指摘したいと思います。

投資適格債券については、長期債の利回り上昇には限界があるとの予想を変えていないため、債券の保有は質の高い投資適格債券への乗換えが好ましいでしょう。また、中国民間企業の債券を多く保有するファンドなどに関しても、要注意の姿勢で臨みたいと思います。

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一