有機EL発光材料を開発している㈱Kyuluxは、独自技術「ハイパーフルオレッセンス」で青色有機EL発光材料の性能を大幅に向上した。7月19~20日に福岡市で開催された国際学会「第3回 国際TADFワークショップ」で成果を発表し、現時点で世界最高性能の材料であると説明した。

 Kyuluxは、次世代の有機EL発光材料として世界的に大きな注目を集めているTADF(熱活性化型遅延蛍光)材料の開発・実用化を進めるため2015年に設立された。TADFは九州大学の安達千波矢教授が開発した技術であり、Kyuluxは九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)から開発成果の独占実施権を得ている。

第4世代技術で既存材料の性能を向上

 有機EL発光材料では、蛍光材料を第1世代、燐光材料を第2世代と呼ぶ。一般的に、蛍光材料は流した電力の25%しか光に変換できないが、材料の寿命が長く、RGB(赤緑青)の3原色が揃っている。燐光材料は理論上、電力を100%光に変換できるが、素材にレアメタルを用いるため高価で、青色材料がまだ実用化されていない。現在量産されている有機ELディスプレーには、赤と緑に燐光材料、青に蛍光材料を用いている。

 これに対し、TADFは第3世代の材料と呼ばれる。その特徴は、理論的に電気を100%光に変換でき、素材にレアメタルを使用しないため安価であること。そして、Kyuluxが開発中のハイパーフルオレッセンスは「超蛍光」と呼ばれる第4世代技術で、TADFを発光材料として使用するのではなく、既存の蛍光発光材料のアシストドーパントとして活用する技術だ。TADF材料を添加するだけで、すでに優れた寿命や発光波長を実現している既存の蛍光発光材料の性能を飛躍的に高めることができるという特徴を持つ。

19年中にRGBの特性が揃う可能性も

 今回Kyuluxが発表した青色発光材料は、実用的な輝度レベルで20%以上の高い外部量子効率(EQE)を維持しながら、発光寿命を延ばすことに成功した。最大26%のEQEを実現しており、特に明るさ1000cd/㎡でEQE22%を実現することができる。発光波長はピーク値で470nm。材料の寿命はLT95(750cd/㎡)で100時間。LT95とは、輝度750cd/㎡で100時間使用後に輝度が5%低下することを意味する。

 Kyuluxによると、この開発成果は18年に入ってから、わずか6カ月余りで実現された。17年末までは寿命が10時間にも満たなかったが、ここ数カ月で急激に改善しており、「ホスト材料など周辺材料の改善が進めば、さらに発光特性の改善が早まる」(安達淳治CEO)という。

 Kyuluxはハイパーフルオレッセンス技術を用いた赤色、緑色、黄色で寿命1000時間以上(LT95)の発光材料を開発済みであり、このままのペースで青色発光材料の寿命改善が進めば、19年中にもRGB3色ともに同じ特性を持つ発光材料が揃う可能性がある。これまでRGBの材料特性に大きな差があったことが、有機ELディスプレーの発光層の層構成を複雑にしたり、消費電力低減の妨げになったりしてきたが、これが揃えば消費電力のさらなる低減などが実現しやすくなる。

 ちなみに、Kyuluxは、すでに開発済みの黄色と緑色のハイパーフルオレッセンス材料を台湾のパッシブ有機ELディスプレーメーカーであるWiseChip Semiconductorに提供しており、発光性能を大幅に高めることに成功している。現在はWiseChip Semiconductorが本格量産に向けて評価中だ。

(津村明宏)

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電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏