毎年、小学校のPTA役員決めの時期になると、インターネット上でPTAに関する様々な意見が交わされ、新年度の「風物詩」となっています。

PTA活動は、仕事と家庭の両立で息切れしている共働き家庭や、幼い子どもや要介護の親などを抱えた家庭に重くのしかかる場合があり、その負担が問題視されています。

しかし、保護者活動の負担を抱えているのは小学生の保護者だけではありません。幼稚園においても「保護者会」「後援会」などと名を変え、小学校のPTA活動にあたる役員活動が盛んに行われています。

私立幼稚園は、それぞれに「役員文化」がある

平成29年度の文部科学省「学校基本調査」によれば、幼稚園児127万1,918人のうち、83%超の園児は私立の幼稚園に通っています。

私立幼稚園では、それぞれの園で作られた「役員文化」があり、役員の負担度は園によって異なります。ゆえに、幼稚園の役員活動の悩みは、自分が暮らす地域外の人となかなか分かち合うことはできません。

筆者は以前、子どもが通う幼稚園のPTA会長に指名され、任期を全うした経験があります。その負担たるやボランティアの範ちゅうを超えており、最後の方にはカラカラに乾いた雑巾のようになった心身から元気を搾りだすような思いで務めました。

この経験がきっかけで、首都圏で子どもを幼稚園に通わせるお母さん達に会うたびに役員活動についての話を聞き、その内容や負担度は園によって異なることを知るに至りました。

目をつけられると役員に引っ張りだこに…

「会長は立候補ではなく、指名制。指名されたらよほどの理由がないと逃げられない」と語るAさんもまた、私立幼稚園の会長経験者。

1年間様々な行事を仕切り、任期を終えてほっとしたのもつかの間、今度は小学校のPTAの執行部から勧誘をされます。

「役員を頼んで断られたときにガッカリする気持ちがわかるから」と言うAさん。義理人情に厚く事務処理能力が高い彼女は、地域の役員組織から引っ張りだこなのです。

役員活動が全くない園では以外なデメリットも

一方で、役員活動がない園もあります。

「うちの園は、役員活動がありません。保護者はいわゆる“お客さん”。そのかわり、先生たちはとても忙しそうだけど」と話すBさんの通う園は、保護者同士の関係もドライだそう。

幼稚園の役員活動は、運動会やもちつき、謝恩会などの行事を仕切ったり、体育館のワックスがけをしたりと、園の生活をサポートする存在です。その役員活動がない場合、忙しい先生のさらなる負担につながってしまうのかもしれません。

保護者会で社交するセレブ園のママ

「子どもが通う園は、セレブ風のママが多いです。役員活動に積極的で、立候補であっという間に決まる。役員活動は、まるで青春時代の部活のように楽しく活動しました。ただ、“三役”(会長・副会長・書記)は任期が2年間になることもあるし、めちゃくちゃ忙しそうだけど」というCさん。

「まだ下の子は小さいんだけど、“幼稚園に入ったら副会長やらない?”と言われる」と勧誘を受けているそう。役員会で特に大変な行事はバザーで、手作り品の回収が大変な様子です。

「ヒラの役員は超楽しい」「三役もうイヤ」・・・

いろいろな人に話を聞いて、よく聞かれるのが、「重役でなく、ヒラの役員であれば、幼稚園の役員活動は楽しかった」という声。

ワイワイしながら夏祭りの飾りつけをしたり、定例会議後のランチを重ねたりすると、連帯感が高まっていきます。そんな連帯感がやみつきになり、中には活動にのめりこんでしまう人も見受けられます。

しかし、責任が重い役に就いた人からは、「家庭のことが後回しになり、家庭が崩壊しそうになった」という声も聞かれます。さらに、本当は無理をしてやっているのに「あの人は役員が好きだから」と決めつけられ、傷ついた人も。

役員活動は、母親が専業主婦であることを前提としているため、学校や保育園と比較しても父親の参加率は低く、夫婦間でその負担をわかりあえずに不和を生み出すことも想定されます。

また、一昔前とは違い、子どもが幼稚園に通っている間にパート勤務をしているお母さん達が増えています。家事、育児、パート、役員活動を一手に担い、疲れ果ててしまうこともあるでしょう。

それでもお母さん達は、「子どものため」「幼稚園で浮きたくない」「交友関係を広げたい」「期限つきの付き合いだからガマン」と、様々な思いで役員活動に参加しています。

善意ありきの組織が招きやすい「善意の搾取」

幼稚園の役員活動は、入園してみないとその負担感を完全に把握することはできません。活動量が過剰な場合、望む・望まないにかかわらず、母親を地域や家庭に長らく縛り付けてしまうという結果を招くこともあります。

学校、学童、子ども会、町内会、習い事……と、様々な保護者組織があり、それらは地縁の薄れた現代の「つながりの起点」となりますが、その反面、目に見えない「人の善意」が前提にある組織は、「善意の搾取」という構造を招きやすくなります。

家庭が多様化していることを踏まえ、幼稚園の役員活動には、わき上がるような善意を自然に汲めるような柔軟さが求められるのではないでしょうか。

北川 和子