AIは何が苦手? 資本市場でAIに破壊されつつある仕事・残る仕事

AI・ロボットの活用事情〜 金融の未来と働き方(8)

アルゴリズム高速取引(HFT、High Frequency Trading)という言葉をご存じでしょうか。株式投資をされている方なら良く耳にする言葉かと思いますが、機関投資家と個人投資家との間の不公平性など批判的な論調も根強いように感じます。

こうした、人工知能(AI)などの「破壊的技術」で資本市場における投資・助言業務などはどうなるのでしょうか。今回は資本市場の行方を探ってみたいと思います。

株取引の自動化

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アルゴリズム高速取引(HFT)の一般的な定義としては、高度のコンピュータと情報通信技術を駆使して、あらかじめプログラムされたコンピュータ・アルゴリズムとコロケーションと呼ばれる手法により、千分の一秒、万分の一秒単位で、注文の発注とキャンセルを繰り返す取引手法です。

JPモルガンの最近の推定(2017年6月)によれば、企業のファンダメンタルズ分析に基づいて人間同士で交わされる取引は取引全体の10パーセント程度だそうです。

また、ゴールドマンサックスは昨年1月、ハーバード大学応用計算科学研究所にて開催されたシンポジウムで、「ゴールドマンサックスのニューヨーク本社では、2000年時には600人のトレーダーが大口顧客の注文を受けて株式の売買を行っていたが、現在残っているトレーダーはわずか2人で、日々の取引作業は200人のコンピューターエンジニアが運用する自動取引プログラムに置き換えられている」と衝撃的な発表をしました。

HFTについては、市場の流動性が供給されているといった肯定論がある一方で、市場の不安定性や非効率性、投資家間の不公平さ、中長期的な企業価値に基づく価格形成が損なわれること、さらにはシステムの脆弱性など、批判も多いようです。

個人投資家にとっては、機関投資家にHFTを駆使されたら太刀打ちは到底できませんが、最近はHFTを単純に悪者扱いするのではなく、資本市場発展の観点から、どのように規制するかという論点に移ってきているように感じます。

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AIが得意な短期投資、苦手な長期投資

AIは瞬時に短期的な判断ができます。株式市場を巡る環境においては、HFT・超短期取引(1/100秒〜1週間)ではAIによる全自動取引が当たり前になっていますし、短期取引(1カ月〜1年)についても近い将来、AIが支配的になるかもしれません。これらの領域は完全に機械化されるのでしょう。

その背景として、技術的にはコンピュータ・AIの発展により、テキストマイニング(大量な文章の分析)、機械学習(すべての株取引注文の分析)、人工市場シミュレーション(エージェント・ベースド・モデル)ができるようになっていることがあります。

ちなみに、人工市場とはコンピュータ上に人工的に創った架空のマーケットで、架空の投資家(エージェント)と架空の取引所(価格決定メカニズム)が存在します。そこでは実データを必要とせずに、新規に導入しようとしている金融規制をシミュレーションして検討することができます。

一方、中長期取引(2〜3年から5年超)は人間の能力が必要とされる領域です。これには伝統的なグロース投資(未来に比べて今の方が割安な株に投資する手法)やバリュー投資(過去に比べて今の方が割安な株に投資する手法)といったものが含まれます。

AIが補佐的な業務を行う可能性はありますが、今後も人間が主体的に判断・実行していく領域かと思われます。

資産管理アドバイスにおけるロボットの活用

個人投資家向けに資金管理サービスを提供する領域では「ロボアドバイザー」が登場しています。

たとえば、グローバルな大手銀行の一つであるANZ銀行のプライベートバンキング部門「ANZ Global Wealth」では、顧客への資産管理サービスを改善すべく、IBMのWatson(AIベースのスーパーコンピュータ)による「Watson Engagement Advisor」というファイナンシャルアドバイザー向けツールを導入しています。

ANZ銀行の場合、約1年かけて金融商品開示文書等や市場データなどの膨大な資料をWatsonに学習させ、顧客が担当アドバイザーに尋ねる頻度の高い質問をリストアップしたそうです。

一般には、投資家の年齢、年収、投資目的、リスク選好、過去の投資履歴などのデータを収集し、AIを駆使したアルゴリズムを利用して最適な資産投資アロケーションを提示したり、投資家の運用方針や金融市場の状況に応じて金融商品の売買を代行する自動化機能が開発・導入されています。

個人の資産管理においても、やはりコンピュータは中長期(2〜3年から5年超)の投資戦略面が弱いので、そのあたりでファイナンシャルアドバイザー個人の力量が問われてくるのではないでしょうか。

結局、資本市場においても人間には、コンピュータが弱い領域、つまり、目先のことではなく中長期的な視座、狭い視野ではなく総合的な判断こそが求められる時代に突入しているように感じています。

大場 由幸

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大場 由幸
  • 大場 由幸
  • SME Financial Architect x Fintech x Frontier Markets

新潟大学法学部卒業、フィンランドAalto大学 Executive MBA取得、英国オックスフォード大学 Fintech課程修了、米国マサチューセッツ工科大学 AI課程修了。
中小企業金融公庫(神戸、宇都宮、東京)、在ベトナム日本国大使館(ハノイ)、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(東京)、東京中小企業投資育成(東京)を経て、2008年4月、クロスボーダー・ジャパン(株)代表取締役社長(東京&シンガポール)に就任。
日系中堅・ベンチャー企業のアジア戦略・財務を支援する傍ら、新興アジア諸国にて多数のSME金融関連プロジェクトに従事し、マレーシア信用保証公社 JICAアドバイザー(クアラルンプール)、ベトナム信用情報センター 世界銀行コンサルタント(ハノイ)、インドネシア経済調整庁 MSME金融包摂アドバイザー(ジャカルタ)、ミャンマー経済銀行 SMEファンド助言チームリーダー(ネピドー&ヤンゴン)等を歴任。
現在、複数のフィンテック企業(ニューヨーク、ロンドン、ジュネーブ、イスタンブール、テルアビブ、ドバイ、ケララ)の経営に関与。マレーシア在住、エストニアe居住。