ロシアW杯を目前にして電撃解任されたサッカー日本代表元監督のハリルホジッチ氏。そのハリル氏が来日しました。「真実を探しに来ました」とコメントしたと報道されているハリル氏は、公益財団法人日本サッカー協会(JFA)に何を確認すべきなのでしょうか。

その1:「コミュニケーション」をどう定義して、信頼関係が薄れたとは何を指すのか

JFAの田嶋幸三会長が記者会見で口にした、コミュニケーションと信頼関係の問題。これは日本人と外国人の間に必ずつきまとう問題です。日本企業の海外現地法人、また外資系企業の日本法人で一度でも勤務したことがある人なら、多かれ少なかれ経験のあることだろうと思います。

まず、ハリル氏がインタビューなどで受け答えしている言語はご存じのようにフランス語です。日本人でフランス語を操れる人は英語ほど多くないでしょう。つまり、ハリル氏を日本代表の監督に招聘した時点で、言語が壁になるということは大きな前提条件です。もっとも外国人監督はハリル氏に始まったわけではありませんし、通訳も付いています。

そもそもコミュニケーションも信頼関係も、どのように定義をするかは個人により差が出ます。また、コミュニケーションの取り方は人ぞれぞれだというのも国籍を問わないでしょう。

外資系企業などで特定の個人をリストラをする場合には、数値や実績をリストアップするか明らかな違反行為があったなどの事実を突きつけた上でリストラを実施します。そうした準備をしても訴訟にまで及ぶケースもあるのですから、細心の注意が払われるべき領域です。

今回の問題をややこししくしている点は、コミュニケーションと信頼関係という定性的要因です。JFAはハリル氏との契約解除を定量的要因に持ち込むべきでした。この点はハリル氏が改めてツッコミを入れるべきポイントといえるでしょう。

その2:いつカウンターサッカーからポゼッションサッカーに戻ったんだ

「つなぐサッカー」で自信を持って臨んだ2014年のブラジルW杯で惨敗。それまでの日本サッカーの方向性とその質に対する自信の喪失...。

日本サッカーはアジアでは勝てるが(といってもその差は埋まりつつある印象を多くの方がお持ちでしょう)、世界サッカーの水準を考慮すれば依然として強豪国と呼べるレベルではないと強く認識してからのアギーレ、そしてハリル・ジャパンであったのではないでしょうか。

ハリル氏からすれば、技術委員会からのそうした分析を踏まえた招聘であったという認識は解任直前まで信じていたことでしょう。

ただ、どの時点で、誰が、日本サッカーにカウンター主体のサッカーは合わないと判断したかは定かではありませんが、「ハリルさん、ここまでの結果を評価すると、あなたの今のカウンターサッカーではW杯で世界に勝てないと判断します」と仕事の内容で判断し、明言すべきでした。

先述のように、コミュニケーションや信頼関係というあいまいな理由を持ち込んだため、ハリル氏からすれば、仕事以外の領域、特にコミュニケーションが取れないという人格面での評価をされたと思い、「ゴミ箱に捨てられたような状態」というようなコメントが出てくることになります。

「コミュニケーションが部下と上手に取れないために解任」という説明は、コミュニケーションを非常に重要視する欧米人にはあり得ないことでしょう。外国人の本当のプロフェッショナルは、仕事の結果は良くても悪くても潔く素直に受け入れるものです。今回はそこをあえて避けたためにハリル氏は困惑しているのでしょう。

その3:代表監督に愛想は必要なのか

W杯の最終予選を突破した代表監督に求められるのはW杯での勝利とより上の順位を目指すことですが、今回はコミュニケーションや信頼関係というややもすれば見えにくい要因を理由にしたために状況が混迷しています。

であれば、「代表監督は皆の話題になるような人物である必要があるのか」と聞いてみてはどうでしょうか。確かに、多くの日本人に愛されたオシム元日本代表監督はシニカルな表現を好むものの、その言葉には日本や選手への愛情があるように見えましたし、選手からの尊敬の念は集まっていたように思えます。

最後に

今回、ハリル氏が怒っているのはひとえに解任理由が論理的でない点です。さらにJFAが念頭に置いておかなければならないのは、外国人監督同士は意外に横のつながりがある可能性です。

これは、外資系企業のトップマネジメントも同様です。プロフェッショナルのマネジメント職が定着している欧米の文化では、異業種であろうが競合企業であろうが、経営者同士が知り合いであるというのはよくあることです。

今回の件でハリル氏が日本のことを良く言うはずはありません。そのため、今後は外国人監督を呼びにくくなる可能性もあります。もっとも、今後は日本人監督で日本らしいサッカーを追求することに決めた!というのであれば問題はないのでしょうが。

青山 諭志