映画『バブルへGO‼』に描かれなかったバブル期の就活とは?

新緑の季節が近づき、就職活動が徐々にピークを迎えつつあるようです。今年は昨年を上回る空前の売り手市場と言われていますが、実は、それ以上の売り手市場だった時期がありました。そうです、今から約30年前のバブル経済期の就職活動です。一体、どんな就職活動が展開されていたのでしょうか。

バブル期の社会情勢などについては、映画『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』(2007年ホイチョイ・プロダクションズ、出演:広末涼子・阿部寛・薬師丸ひろ子他)で見ることができます。あの映画で描写されたバブル期の生活行動の内容がほぼ全て正しいことは、バブル期を経験した人なら皆分かります(映画の設定は1990年)。

ただ、就職活動に関しては何のシーンもありませんでした。

そこで、ちょうどその年に就職活動を行った筆者が、自らの体験と周囲の友人・先輩(大学院卒)から見聞きした話をもとに、当時のハチャメチャな就活を振り返ってみます。

オリエンテーションが終わって渡された封筒の中身とは…

バブル期当時は、多くの企業がオリエンテーションなるものを開催していました。集まった学生にアンケートを書いてもらい、簡単な会社説明のビデオを上映するという他愛のないものでした。今でも実施されているのでしょうか?

筆者が某銀行系シンクタンクのオリエンテーションに参加し(学生100人くらいが出席)、1時間くらいの退屈な時間が終わると、人事採用担当者が「今日はお疲れさまでした。お帰りの際に出口で書類をお受け取りください」と挨拶。

出口では1人ずつ名前が呼ばれ、一般職の女性社員がニコッと笑って封筒を渡してくれました。何かな?と思って中を見ると、「内定通知書」なる書類が入っていました。筆者もさすがに驚いたことを覚えています。

OB訪問で行われていた“4S接待”、費用は全て経費処理

ネットもSNSもなかった当時、就活の中心はOB訪問でした。現在も行われているのではないでしょうか。ただ、当時はOB訪問とは名ばかりで、実質的には懇親会でした。そもそも、OBを訪問するのが夕方6時以降だったのです(注:昼間に訪問する真面目なケースもありました)。

そして、そのOB訪問で“4S接待”が流行っていたと記憶しています。なお、これは男子学生向けだけの接待でした。

まず始めに、訪問したOBと寿司(Sushi)かステーキ(Steak)を食べながら懇談しますが、これが“第1のS”です。その後、OBのボトルがあるスナック(Snack)でママさんを交えて軽く飲みますが、これが“第2のS”となります。

その次はサウナ風呂(Sauna)です。ここで汗を流し、OBとの“裸の付き合い”で語り合うのですが、これが“第3のS”です。さて、汗を流して摂取したアルコールも抜けたところで最後の“第4のS”になるのですが、これは書かないでおきます。ちなみに、筆者は残念ながら“第3のS”までしか経験しませんでした。

なお、これらのOB訪問に係る費用は全て領収書を切って経費処理され、OBが自腹を切ることはなかったようです。

内定辞退を告げに行って修羅場となるケースも続出

さて、こんな感じで就活を行うと、いつの間にか膨大な数の内定をもらうことになります。

しかし、入社する会社は1社だけですから、多くの企業に内定辞退を告げなければなりません。しかも、メールも携帯もない時代ですから、多くの場合、企業の人事部に出向いてお断りをするのが“儀礼”とされていました。

しかし、そこが“修羅場”になることも珍しくなかったようです。バブル期の人手不足感は今現在よりさらに深刻だったため、企業の採用担当者も学生確保に死に物狂いだったのは言うまでもありません。

内定辞退で来社した学生を会議室や応接室で“軟禁状態”にしてOBが説得するのは当たり前であり、深夜になってようやく解放されることも珍しくありませんでした。

また、説得が失敗に終わると“もういい! 2度と顔を見せるな”とばかりに、飲んでいたお茶やコーヒーを浴びせかけられ、“クリーニング代だ、もっていけ!”と1万円札を投げつけられるという話を聞いたことも少なくありませんでした。

今の時代では考えられないことです。

最終確認の「内定式」前には熾烈な囲い込みも

こうして学生は入社する企業を1社に決めていくわけですが、企業の採用担当者はまだ安心できなかったようです。その不安を解消する最後のイベントが、当時は10月1日に行われていた「内定式」です。

内定式に来た学生が“入社確定”となることから、いわゆる“囲い込み”が熾烈を極めました。内定式の数日前から観光地のホテルを借り切って「施設見学」の名目で学生を軟禁状態にするのは当たり前で、海外に連れて行くケースも珍しくなかったようです。そして、内定式が終わるまでは懇親会と称したドンチャン騒ぎが毎晩繰り広げられたことは言うまでもありません。

過去、売り手市場が永遠に続いたことはない

今から約30年前のバブル期には、ここに挙げたこと以上に常軌を逸したことも行われていました。ただ、採用される学生だけでなく、採用する側の企業にも“本当にこれでいいのだろうか?”という疑念はあったと推察されます。

事実、それから数年後には一転して平成版“氷河期”となるのですが、同じことが繰り返されないという確証は何もありません。就活に取り組んでいる今の学生のみならず、来年以降に就活を迎える多くの学生には、過去に売り手市場が永遠に続いたことがなかったことを、今一度思い出してほしいと願っています。

LIMO編集部