日本の自動車産業が将来ダメになるかもしれない5つの理由

現在、日本の自動車産業は大きな岐路に立たされています。その背景はテクノロジーの変化や新たなビジネスモデルの誕生によりこれまでの「勝ち組」が新たな競争のルールが確立することで「負け組」になってしまう可能性があるからです。今回はその背景について考えてみましょう。

その1:電気自動車が自動車市場の主役となる

日本の自動車がなぜ優れていたか。それは、一言でいえば燃費効率が良かったことということをまずはあげることができます。その前提として日本の工作機械メーカーにも支えられ、高いエンジン加工精度にあったと言えましょう。

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もちろん、環境規制対応や生産面でよく言われるカイゼンやかんばん方式なども日本車の完成度を高めるための基盤だったということも付け加えておきます。

ただ、これが電気自動車になったらどうでしょうか。先ほどの日本車の競争優位領域の一つである「エンジン」を失ってしまうことになります。

電気自動車になれば駆動におけるコアパーツが、モーターやインバーター、そしてバッテリーへと変化することになります。電気自動車における競争優位をあらためて自動車メーカーは競わなくてはなりません。その電気自動車の勝者が必ずしも既存の日本の自動車メーカーであるという保証はないのではないでしょうか。

その2:カーシェアリングが普及し市場の生産台数全体が減少する

今や既にカーシェアリングはよく目にする風景になっています。都心にお住まいの方は、自動車に乗る頻度、保険料、駐車場を確保する費用などを考えれば、所有することなく、使いたいときに使うというのが効率的だと感じることも多いのではないでしょうか。

こうした考えが一般的に広がれば、自動車は売れにくくなります。もっとも、日本では地方においては自動車は生活に欠かせない、自動車を持たないという選択肢はありないとお考えの方も多いのではないでしょうか。ただ、地方でもカーシェアリングが当たり前になれば、1世帯で複数台保有するというシーンも減るかもしれません。

ユーザーが自動車を「保有する」、「保有したい」という状況が少なくなればなるほど、自動車メーカーにとっての生産台数にとっては逆風といえる環境になるといえるでしょう。

その3:グローバルの優良工場が不良資産となる

その2に関連しますが、生産台数が仮に将来減少するようなことがあれば、製造業として生産設備を構えている自動車メーカーにとっては、これまで抱えてきた生産工場、生産設備の価値が棄損しかねない状況が発生します。まさにこれまでの優良資産が一気に不良資産になる可能性があると言えます。

そんなことは実際にありえるのか、とお考えの方もいるかもしれませんが、これは日本の電機産業がたどってきた道といえます。ブラウン管テレビで世界の市場シェアを大きく獲得した日本の電機メーカーですが、液晶テレビやプラズマテレビなどのフラットパネルディスプレイのテレビが登場することで、これまでのブラウン管テレビのバリューチェーンが一気に崩れました。

ブラウン管テレビの生産プロセスはガラスの重量が重いため、ガラス工場と電子部品の組み立て工場が隣接する組み合わせになっていました。ところが、フラットパネルディスプレイになると様々な機能が半導体により集約され、EMSの活用により生産拠点の自由度が増し、それまでのテレビ工場の立地の優位性が以前のものではなくなったのです。

電気自動車になれば部品点数がガソリン車と比べると大きく減少するともいわれます。また、電装化が進めば生産拠点もこれまで以上に自由度が増すこともあるでしょう。そうなれば、自動車のモノづくりがフラットパネルディスプレイのように大きく変わる可能性があります。

その4:半導体企業が自動車の制御システムを支配する

現在の自動車は電子部品の塊とも言われます。電装化が進み、様々な機能を実現するために電子化が進んでします。これまでの電装化は自動車メーカー、一部の部品メーカー主体で進んできました。

しかし、今や自動車の安全性を担保するための画像処理技術や自動運転技術の主役を担うのは自動車メーカーだけではありません。NVIDIA(エヌビディア)やMobileye(モービルアイ)とアルテラを買収したインテルなども自動車で半導体が利用されるシーンを自らが主体的に運べるようにアプリケーションの幅を拡大しつつあります。

日本にもルネサスエレクトロニクスというようなマイコンメーカーがありますが、今後は自動車の先端技術は半導体企業が切り開いていくということが考えられます。

PCの世界では「ウィンテル」というようにマイクロソフトとインテルがPCの標準的な在り方を定義してきた時代が長らく続きました。自動車産業においても半導体企業が躍進する中で同じような状況に追い込まれる可能性もあります。

その5:サービスプラットフォームが自動車関連産業の付加価値を搾取する

現在、自動車を自らが所有し、自らが移動するというのが自動車利用の中心的なシーンといえるのではないでしょうか。ところが、最近はウーバーのような配車アプリも普及し、自動車を所有するのではなく、スマホなどを介して移動サービスを利用することが当たり前になりつつあります。

そうなるとユーザーと自動車の接点が、「ユーザーと自動車メーカー」とではなくなり、「ユーザーとサービス提供者」との間で成立することになります。

これまでは、「XX自動車のYYというクルマが欲しい」というのが当たり前でしたが、「ウーバーというサービスを使っている。安全に安価に移動できるのであれば、車種には大きくはこだわらない」というシーンも出てくるでしょう。その際に、自動車メーカーが消費者に提案できる付加価値は改めて見直される可能性があります。

最後に

今後、テクノロジーがアップグレードし、自動運転が活用できるような環境になればどうでしょうか。これまで運転をあきらめていた高齢者も再び自動車を利用できるようになるかもしれません。したがって、テクノロジーによって新たに市場が開拓される可能性があります。

ただ、テクノロジーによってサービスとして便利になることと、これまでの自動車メーカーの事業機会が拡大するかということは必ずしも直結はしません。そうなれば、日本の自動車メーカーのビジネスモデルも大きく見直されることになるのではないでしょうか。

【参考記事】トランプ大統領も買収提案にストップ! 世界の半導体業界で何が起きているのか

青山 諭志

参考記事

慶應義塾大学卒業後、国内大手及び外資系大手金融機関に合わせて10年以上勤務し、株式市場を中心にマーケット関連の仕事に従事。その後独立。金融機関では主にアナリストとして企業や産業調査活動に従事。調査内容としてはミクロ・セミマクロが主な分析対象だが、好きなのはマクロ分析。記事で取り扱うテーマはマーケット動向、企業分析といった株式市場関連の分析や貯蓄や投資といった個人の資産運用動向を取り扱う。最近は「富の分配」問題や「お金持ち」である富裕層研究にも時間を割いている。その他に興味のある分野はブロックチェーン技術とゲノム(ジーノム)。