今年も4月の新学期を迎えます。1、2月の中学受験を終えて、晴れて志望校に合格した人も、残念ながら第一志望には進めなかった人も、これから始まる学校生活に向けて決意を新たにしていることでしょう。

では、中学受験はその後の人生でどう位置づけられるのでしょうか。今回は、難関の第一志望校に合格したものの、実は社会人になってからも後悔していることがあるというA氏から話を聞きました。

家族総出の中学受験

小学校4年生から私立中学受験に向けて塾に通い始めたA氏。成績優秀で、地元から離れた難関校の受験を目指しました。そして3年にわたる塾通いと祖父母を含む家族のサポートの甲斐あって、第一志望に無事合格。そんなA氏ですが、社会人になった今も後悔していることがあると言います。

学校行事に思いきり参加できなかったこと

A氏は次のように当時を振り返ります。

「今でこそ、2月が近づくと公立の小学校でも受験が当たり前の雰囲気になっていて、先生も行事と受験との兼ね合いに気を使ってくれますが、私の頃はそこまでの環境ではありませんでした。一方、塾では毎週日曜日に試験(模試)があります。小学校5年、6年はカリキュラムに準じて試験内容が進んでいくので、1回たりとも欠かすことはできません。加えて全国の順位が発表されるので、必ず受けるようにしていました」

「しかし時折、学校行事の日程に塾の試験が重なることがありました。今でも覚えているのは、6年生の運動会で午前中の部に参加できなかったことです。6年生は組み立て体操があり、誰かが欠けると困ります。それには間に合いましたが、小学校最後の運動会に途中参加という、なんとも後味の良くない記憶です」

どうすればよかったとA氏は思っているのでしょうか。

「受験の当事者は、本当に受験にかかりきりになってしまいがちです。しかし、みんなが参加する学校行事もその時だけ経験できる貴重なものです。今となっては、学校行事を可能な限り優先し、全力で参加すればよかったと思っています。そんなことは当たり前と言われてしまうかもしれませんが、受験となると周囲も含めて受験のことしか見えなくなるので...」

受験勉強と関係ない稽古事をやめてしまったこと

A氏の後悔は続きます。

「受験勉強が本格化する5年生で習い事を一切やめてしまったことも、もったいなかったと思います。私は3歳の時からスイミングスクールに通っていて、市の大会では毎年優勝し、ジュニアオリンピックを目指すほどでした。週5日はスイミングスクールに行っていたのですが、平日も通塾するので水泳はこれ以上無理だと一切やめてしまいました。これは本当に今でも後悔しています」

どのような点を後悔しているかと聞くと、A氏はこう答えます。

「これは、これから受験勉強をする人にも伝えたいのですが、適度な運動を続けていたほうが勉強にも集中できますね。年齢が上がれば上がるほど運動の重要性を感じるので、運動できる環境があるのなら、あえてその機会をゼロにする必要はないと思います。大人になってから改めて体を鍛えようと思っても効率が悪すぎます」

「加えて、それ以外の稽古事、絵や習字などもやめてしまったのですが、特にアートなどは子供の感性であればこそできることもあります。そうしたことも、時間を取って気分転換にやるという位置づけで続ければよかったという気はします」

そうした稽古事を続けていたら、人生はどう変わっていたのでしょうか。

「少なくとも、クロールをして最初の25メートルで肩をいためるなんてことはないでしょう(笑)。昔は1日に数キロは泳いでいたのに情けない限りです。絵画にしても、それ自体で食えるほどの才能ではないと思いますが、デッサンなどの基本を繰り返すことで養われる感性もあったと思います。今やデザインは何にでも関係してきますから、もったいないといえばもったいないですよね」

地元の友人との関係が希薄になったこと

「実は一番後悔しているのがこのことかもしれません」

A氏はこう明かします。

「他県の学校に進学したために、地元の友人との関係が希薄になってしまったことが残念です。受験勉強があったので、一緒に遊ぶ機会も多くはなかったのですが、小学校卒業後は進学先も人それぞれなのでさらに関係が薄まります。ただ、社会人になってふと気が付くと、やはり地元の友人というのはありがたいものです。ちょっと話をするだけで色々な記憶がよみがえり、一瞬にして子供の頃に戻れますから」

「数年前、フェイスブックで小学校の同級生が一気につながりだして、みんなが帰省する正月に同窓会をしました。話を聞くと、会社員をはじめ、医者や警察官、美容師、自営業など様々な職業についていて、小学校時代ではとても想像がつかない人生を歩んでいたりしてとても面白かったです」

「歳を重ねたから思うのかもしれませんが、中学受験で難関校に合格し、有名大学に進学して、みんなが知っている一流企業に就職するのが、ひと昔前の成功ルート、いわゆる勝ち組という認識だったのではないでしょうか。ただ、本当の勝ち組は、友人の多い人なのではないかとつくづく思います」

-受験に必死で大事なものを失わないように心がけたい-

LIMO編集部