2017年7月、機関投資家79団体により、企業の就業規則や労働慣行等を細かくチェックし、労働リスクを把握するための国際イニシアチブ「WDI」が発足。79団体の運用資産の総額は8兆米ドル、約900兆円にもなります。

ここには英シュローダーズ、仏アムンディ、仏ナティクシス、英HSBCアセット・マネジメント、仏アクサ・インベストメント・マネージャーズ、英リーガル・アンド・ゼネラル・インベストメント・マネジメント、蘭APG等、欧州の運用大手企業が多数参加を表明しました。

WDIの動きを一言で言うと、参加企業が協働して上場企業に質問票を送り、労働情報を細かく開示することを求めるというものです。当面は英国の大手上場企業だけが対象ですが、順次主要国に拡大していく予定です。

では、なぜ機関投資家にとってブラック企業が「投資リスク」と映るようになってきたのか。それは、ブラック企業は短期的には利益が上がることもあるかもしれないが、長期的には成長は望めないと思われてきているからです。

機械化や自動化が進む中、人材にはスキルの高度化が求められてきています。しかし、過酷な労働環境を迫るため従業員が定着しない企業には、知見の蓄積が望めないというわけです。

企業にとって労災状況の開示が重要に

このことは、少子化が進む日本のような国ではなおさら懸念されます。すでに、運送業や小売業、飲食業では人手不足のために事業拡大できない、もしくは営業時間を縮小するところまで出てきています。ブラック企業では将来、いっそうの人手不足に陥るリスクが顕在化するでしょう。こうしたリスクを、海外の機関投資家はいち早く察知しようとしています。

また、海外の機関投資家が目を光らせているのは、一部の”特殊な”ブラック企業だけではありません。日本の大手企業でも、労災事故が発生したり、うつ病等の休職者が出ていたりする企業が少なくありません。

最近、このような状況を改善する姿勢を明確に示すため、自主的に労災状況の開示を行うグローバル企業が増えてきています。残念ながら、日本では労災状況の開示を実施している企業は多くはありません。しかし、海外の機関投資家は、開示できないということは、リスクを抱えているのではないかと疑い始めていることには留意すべきです。

夫馬 賢治