2018年2月6日(現地時間)、米国でロケットや宇宙船などの開発を手掛けるベンチャー企業・スペースXは、現時点で世界最大ともいわれる超大型ロケット「Falcon Heavy(ファルコン・ヘビー)」の打ち上げに成功しました。米スペースX社は、いまや世界でもっとも影響力のある経営者・起業家のひとりといっても過言ではないイーロン・マスク氏が2002年に立ち上げた企業です。

ファルコン・ヘビーには、氏の愛車である真っ赤なテスラ・ロードスターも載せられており、インパクト絶大のこの写真はみなさんの記憶にも新しいところでしょう。

スペースXは火星への移住といった構想を掲げており、その打ち上げ能力は地球低軌道には63.8トン、静止トランスファー軌道には26.7トン、火星にも16.8トンとされています。今回の成功により、多数の物資と人間を宇宙に運ぶためのステップに弾みがついたといえるかもしれません。

ベゾスもザッカーバーグも。著名起業家たちが続々と参戦する宇宙ビジネス

さて、1958年にNASAが設立されて今年で60年。かつての宇宙飛行といえば国家の威信をかけた一大事業でした。米国と旧ソ連との間で宇宙開発競争が過熱した時代もあります。その後1990年代以降、国際プロジェクトとして発展を続け、21世紀に入ってからは民間主導の実需ビジネスという側面ものぞかせるようになりました。そして世界を見渡せば、イーロン・マスクだけでなく、続々と著名な起業家たちが参戦しているのです。

たとえば、Amazonのジェフ・ベゾス氏、Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏、Virgin Groupのリチャード・ブランソン氏などは宇宙ビジネスに関わる実業家として知られています。日本でも昨年夏、堀江貴文氏らによって創業された宇宙ビジネスのスタートアップ企業・インターステラテクノロジズ社が行った観測ロケット「MOMO」の打ち上げが話題になりました。記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。

民間に宇宙ビジネスが広がる理由とは

では、いまなぜ民間による宇宙ビジネスが広がりつつあるのでしょうか。大きくは①各国政府の方針転換や法整備、②部品価格の低下・高性能化、③ビジネスニーズの高まり、の3つの要素があると思っています。

まず1点目の各国政府の動きですが、たとえば、スペースX社はNASAと契約し、国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給を行っています。これは、こうしたミッションを民間にゆだねるという米国としての決定があってこそです。また、日本では2016年に民間企業が宇宙開発ビジネスに参入しやすい環境を整えることなどを狙いとした宇宙活動法が成立しました。こうした動きから、事業化のハードルが下がったことは大きな要因のひとつといえるでしょう。

次に、部品価格の低下・高性能化です。センサーやCPUなどの価格低下や小型化、高性能化などにより、各種コストが劇的に下がってきたことが挙げられます。もうひとつ見逃してはならないのは、スペースXなどが試みる「再利用」です。

先日打ち上げたファルコン・ヘビーにおいても、切り離した後の第1段ロケット3つのうち2つの回収に成功しており、回収・再利用の実現性はすでに裏付けられています。これがどの程度のコスト抑制につながるかはまだ不透明ですが、回収・再利用の技術が成熟すれば大きなコストダウンにつながることが期待され、民間参入を大いに促す可能性があるでしょう。

3つ目の要素として、ビジネスにおける実需の高まりです。GPS-コネクテッドカーや自動運転、AI技術発展によるデータ活用などを考えれば、GPSや衛星通信に対する需要はますます増大するとみられ、GPSの精度向上と対象範囲拡大についてのニーズはいっそう高まることが予想されます。

地上で進展するデジタル化が、宇宙ビジネスの拡大を強力に推進し、それがさらに地上のデジタル化をさらに拡大させるという正の循環ができあがるといえるでしょう。宇宙ビジネスは今後のイノベーションと切り離しては考えられません。

まとめにかえて:これからのイノベーションは宇宙から?

ここまで見てきたような話題に限らず、軍事向けの研究開発や宇宙技術が民間企業で様々なシーンで活用され、産業として成長してきた事例は数多くあります。

「破壊的イノベーション」にフォーカスした投資をすることで知られる米国のアーク・インベストメント・マネジメント・エルエルシー(ARK社)は、過去5年間の人工衛星打ち上げ件数の加速度的な増加や、ロケット産業の市場規模の急拡大などを指摘したうえで、こうした新たな「宇宙」の時代では、通信、物流、農業などあらゆる産業が劇的な構造変化を起こす可能性があるとして、イノベーションの行方とそれに基づく宇宙ビジネスの発展に注目しています。

宇宙ビジネスの可能性は、まだまだ未知数のところも多いですし、ロボティクスやフィンテック、MaaSなどと単純に比べても手触り感は少ないかもしれません。とはいえ、宇宙ビジネスと地上のさまざまなデジタル化等の動きは、先にも述べたように密接に連関していて相互の発展要因でもあるといえます。今後の私たちの生活の変化を見るうえでも、また将来の投資対象としても、注目すべきといえるのではないでしょうか。


(本稿は宇宙ビジネス関連企業を例示していますが、当該銘柄の売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。また、日興アセットマネジメントが運用するファンドにおける保有・非保有および将来の銘柄の組入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません。本稿で述べられている見解は筆者個人のものであり、所属する組織の見解を示すものではありません)

千葉 直史