東芝はパソコン事業の売却報道を否定したが・・・

2017年11月16日、東芝(6502)がパソコン事業を売却する方針を固め台湾のASUS(エイスース)と交渉に入ったと複数のメディアが報じました。

一方、東芝は17日に「方針を固めた事実はなく」、「個別企業との交渉に入った事実はない」とする否定コメントを発表しています。

どちらが真実なのか現時点では確かめようがありませんが、深読みすれば、東芝の否定コメントは「方針は固まってはいないが検討はしている」とも受け取れます。

その東芝は、11月9日に行われた決算説明会で、聖域なくあらゆる事業の見直しを行うという趣旨のコメントを行いました。また、最近「サザエさん」のCMスポンサーから降りることが報じられたり、11月14日にはテレビ事業を手掛ける「東芝映像ソリューション」を中国のハイセンスグループに売却することを急遽発表しています。

さらに、パソコンの国内生産開発拠点であった青梅工場を2016年末に売却していることなどを考慮すると、パソコン事業についても売却が行われる可能性は依然として残ると考えられます。

残る日系パソコンメーカーは?

これに先立つ11月2日には、富士通が約1年間の交渉を経て、パソコン事業を来年の4~6月に中国レノボ・グループに売却すると正式に発表しています。

MM総研が11月16日に発表した2017年度上期の国内パソコンシェアによると、富士通はNECレノボに次ぐ国内シェア2位のパソコンメーカーです。その富士通もレノボ傘下に入ることで、日系資本のパソコンメーカーは東芝、パナソニック、そして「その他」に含まれるソニーから分社したVAIOの約3社に絞り込まれます。

仮に今回の報道の通り東芝も外資に売却を行うと、残る主な日系企業はパナソニックとVAIOの2社だけということになるのです。

国内パソコン出荷シェア(2017年度上期)

出所:MM総研

パソコンの国内生産額は2000年代前半の半分程度に

では、なぜこのような事態となっているのでしょうか。そのことを考えるために、経済産業省のデータ(機械統計)から日本におけるパソコンの生産台数と生産金額の推移を確認してみたいと思います。

下図のように、パソコンの2016年の生産台数は480万台と、2004年の910万台に比べると半分程度の水準となっています。また、かつては1兆円を超える水準にあった生産金額も2016年は0.5兆円と、見る影もないほどに落ち込んでいます。

パソコンの国内生産推移

出所:経済産業省

ちなみに、MM総研によると2016年の国内総出荷台数は1,008.5万台、出荷金額は8,714億円となっています。このため、台数ベースでは約半分が、金額ベースでは約4割が海外からの輸入品であったと推察することができます。

こうしたデータから、最近相次いでパソコン事業が外資に売却されるのは、輸入品の人気化が背景にあることが容易に推察されます。さらに突き詰めれば、パソコンの利益の源泉であるOS(オペレーティングシステム)やCPUを押さえられなかったことによる「メイドインジャパン・パソコン」の競争力低下があると考えられます。

青梅工場の跡地は日野自動車の部品センターに

昨年、東芝青梅工場売却のニュースに接した時も一抹の寂しさを感じましたが、今回のパソコン事業そのものの売却という報道にも感慨深いものがあります。

その理由は、東芝は1985年にラップトップ型パソコンを発売し、1990年代中盤から2000年までノートパソコンではトップシェアを確保していたという輝かしい歴史を持つからです。

とはいえ、過去を嘆いてばかりいても仕方ありません。パソコンを生産していた青梅工場も、その跡地は購入した野村不動産によって整備され、日野自動車の部品センターとして活用されることが決まっています。

青梅は圏央道が整備されたことにより、物流面で便利な場所であるので、東芝青梅の跡地は日野自動車によって有効に活用されることになるのでしょう。

この事例は、新陳代謝によって資産が有効活用されることの好例ではないかと思います。いつまでも競争力を失った産業にしがみつき、過去の郷愁に浸っているのはあまり生産的ではありません。そうした暇があるのならば、新たな産業の取り組みに対し、より多くの注意を払っていきたいものです。

和泉 美治