浅草の仲見世商店街で、家賃が突然16倍に引き上げられるというニュースが話題になりました。この背景には、東京都がこれまで公有地を格安で貸し出していたという構図があります。

実は、以前は大阪でも類似の問題が多くあり、大阪からすると既視感のある光景と感じます。今回は、こうした過去のしがらみを断ち切った橋下徹氏の存在について改めて考えます。

浅草仲見世商店街の家賃が16倍に

10月下旬、浅草の仲見世商店街で家賃が16倍に値上げされることが報じられました。事の発端は、仲見世商店街の建物の所有権が東京都から浅草寺に移り、東京都が浅草寺に対し固定資産税の支払いを求めたためと報じられています。

この件に関しては、建物の所有者だった東京都が相場より遥かに安い家賃で貸し出していたことがそもそも問題だという見方もあります。戦前の東京市の時代から仲見世商店街の大家だったため、過去のしがらみが残り、前近代性を抱えたままの行政だったとも言えます。

しかし、所有権が浅草寺に移った途端に固定資産税の支払いを求めるあたり、東京都側も問題を認識していた様子が垣間見えます。

大阪で感じる既視感

破格の家賃で公有地に商店が出店していたこの構図、大阪から見ると既視感があります。大阪で話題となった店には、地下鉄御堂筋線梅田駅横の串揚げ店「松葉」や、道頓堀のたこ焼き店「大たこ」がありました。

また、大阪市営地下鉄の駅周辺でも、かつて一等地に格安の家賃で出店していたであろう店が姿を消しました。大阪では仲見世商店街の家賃のような問題は、今ではあまり聞かなくなっています。

その原動力となったのは、前大阪市長・橋下徹氏および橋下氏の率いた大阪維新だと言っても過言ではありません(以下、便宜的に日本維新の会、大阪維新の会をまとめて維新とします)。

今も根強い人気のある大阪府下での維新

公有地の不透明な家賃問題など、行政の抱える矛盾やしがらみを解決するのに手腕を発揮し、人気を博した橋下前大阪市長と維新ですが、大阪府下では今もその存在感は健在です。

10月に行われた衆院選で、維新は14議席から11議席へと議席を減らし(その後離党者が発生し10議席に)、惨敗と言われています。しかしながら大阪府下の各選挙区の投票結果を詳しく見ると、維新の大阪での強さが未だ健在であることが分かります。

大阪は全部で19選挙区ありますが、維新が候補者を擁立したのは15選挙区。15選挙区の勝敗は、自民10・維新3・その他2と自民党圧勝という結果になりました。ただ、得票が1万票差以内という風次第では勝敗が変わったであろう選挙区が、1・4・8・9・12・14・15区と7つもあるため、自民党が10議席を獲得はしたものの薄氷の勝利だったとも言えます。

野党では立憲民主党が旋風を起こした衆院選でしたが、大阪府下の選挙区で立憲民主党は辻元清美氏の1議席のみにとどまるなど、大阪では自民党に対抗する勢力は維新というこれまでの状況に変化は生じていません。

今回、橋下氏抜きで衆院選を戦った維新ですが、大阪府下の得票数で見ればそれでも充分に戦えたと言えます。その一方で、橋下氏抜きではやはり最後の一押しができなかったという大きな課題も残りました。

しがらみのある行政は各所に存在

昔からの関係で・・・という過去のしがらみで行政が適切な措置を取れないケースは全国各地に存在しています。こうした泥臭い話は地方に顕著という印象もありますが、地方で公務員をしている筆者の友人が人事交流で都会の自治体に出向し、地方より都市部の方がしがらみが多いと嘆いていた姿が強く印象に残っています。

浅草仲見世商店街の家賃問題も、こうしたしがらみの一端が、商店の建物の所有権が移転したことで明らかになった例と言えるでしょう。

評価が分かれる橋下前大阪市長や維新ですが、過去からのしがらみを多く断ち切ったという面が今も評価され、大阪府下で根強い人気を誇る要因の1つとなっているのではないでしょうか。

石井 僚一