引き出し時に所得税がかかる資産

海外の専門家に聞かれていつも困る質問のひとつが「日本のリタイアメントアセット(Retirement Asset)の規模を教えてほしい」というものです。みなさんはどれくらいだと思いますか。

リタイアメント市場を退職後の生活のために用意している資産市場規模と定義すれば、ある程度の銀行預金、株式や投資信託ということになりますが、果たしてその規模を考えるための定義は何でしょう。

これに対して、米国や英国では個人退職勘定や確定拠出年金といった「退職までの引き出し制限がある非課税投資制度」が整っているために、これはリタイアメントアセットだと明示できます。

同じことがリタイアメントインカム(Retirement Income)という言葉にも当てはまります。直訳すると退職後所得でしょうか。退職後の生活のために使う所得のことなのですが、この退職後のIncome(=所得)の概念は、日本人にはわかりにくいものです。

Incomeとか所得という言葉は、現役時代に働いて稼ぐお金のイメージが強いものです。そのため税金を払うイメージもついて回ります。これに対して、退職後は自分の資産を取り崩して使うなら所得ではないというイメージのはずです。

しかし米国や英国では、このリタイアメントアセットから引き出す資金は引き出し時に課税されるため、現役時代の所得=Incomeと同じ意味なのです。働いて稼ぐ給料も、退職後にこうした非課税口座から引き出すものも、課税されるIncome=所得なのです。

2つの言葉、リタイアメントアセットとリタイアメントインカムを理解するには、税金で分けてみるとわかりやすいということになります。

退職準備のための資金は税制上の優遇を受け、原則は所得控除の対象となり、運用益も非課税になります。そのため、明確に資産の枠が見えます。また、引き出す時には課税の対象なので、現役時代の給与と同じように所得課税のかかる所得として認識しやすいわけです。

米国は日本の30倍!

ちなみに、米国のリタイアメント市場は、米国投資信託協会のファクトブックによると、2016年末で個人退職勘定(IRA)が7.9兆ドル、確定拠出年金(DC)が7.0兆ドル、そのほか確定給付年金(DB)も含めて25.3兆ドル、1ドル=110円で計算すると2,783兆円の市場規模になります。

これに対して、日本では該当する市場は企業年金くらいで、DBとDCを合わせて90兆円程度と、日米で30倍の開きがあります。ともに引き出し時に税金がかかる資金ですが、退職に伴って一括で引き出すことがほとんどなので、退職所得控除が大きく税金の負担は限られています。

こうした資産はリタイアメントアセットではあっても、リタイアメントインカムとしては理解しにくいものです。またDBは、個人にとって見えにくい資産です。

このため、自分で明示できるリタイアメントアセットといえるのは、DCしかないでしょう。現在DCの資産規模は約10兆円で、米国の77分の1の水準です。ちなみに、公的年金は受給時には所得課税対象ですからリタイアメントインカムです。

<<これまでの記事はこちらから>>

合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史