前回の記事『積立NISA対象投信のラインアップ開始! 顧客本位の商品は出揃うのか?』では、「つみたてNISA(積立NISA)」適合ファンドについて、金融庁が掲げる要件についてお伝えしました。10月に始まった金融庁への届出の事前予想では対象ファンドが120本、そのうちいわゆるバランス型ファンドが約3割になりそうです。実際のところは徐々に発表されつつある状況ですので、まだこれに加わるかもしれません。

バランス型ファンドを選ぶ前に

こうした中、今回はバランス型ファンドについて見ていきたいと思います。というのは、別の拙稿『国際分散投資のススメ〜日本は「ホームカントリーバイアス」の国?』でお伝えしたことを一つのファンドで達成するには、バランス型ファンドがワンプレートランチのように最も便利だからです。

ただ、バランス型ファンドのラインアップを見ても、対象ファンド数も多く、中に含まれる資産の種類や数、信託報酬等が異なるので、どれにすればよいのか、ハタと迷うのではないかと思います。

同じように見える場合、最もわかりやすい数字の比較で信託報酬の安いファンドを選ぶ場合が多いのではないでしょうか。ただ、積立NISA適合要件を満たすファンドの一覧でバランス型ファンドを見ると、信託報酬が安いものは0.22%、高いものは1.4%台とかなり開きがあります。

そこで、以下、信託報酬の高い安いがなぜ出てくるのか、運用手法の違いなどをご説明していくことにします。本稿をファンド選びの一助としていただければと思います。

特に、積立NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)の場合、長期にわたる運用をするのにも関わらず、店頭での販売員による面談での説明でなく、資料やネットの限られた情報で投資を開始してしまうことになりがちなので、投資の入り口で理解を深めてからでも遅くはないと思います。

バランス型ファンドの分類

まずは、バランス型ファンドの分類から見ていきましょう。

上の表で資産アロケーション手法の「アクティブ」とは、各資産の配分比率を運用者が機動的に動かす手法で、「ダイナミック(動的)」アロケーション」とも言います。一方、「パッシブ」とは各資産の比率をあらかじめ固定する手法で、「スタティック(静的)アロケーション」とも言います。

これに対して、若干紛らわしいのですが、各資産パーツの「アクティブ」とは、分散投資の場合に、たとえば投資対象となる株式や債券等の各資産においてインデックスを上回ることを目指す運用を指し、「パッシブ」とはインデックスに追随する運用を指します。

パッシブは機械的に運用者の意図を排除して行う分、信託報酬が低めで、かたやアクティブは運用者が付加価値を加えることを目指す手法なので高めに設定されています。すなわち、0.2%台といった報酬率では、アロケーションもパーツもパッシブ運用者の段階で付加価値を求めず、固定比率で配分された資産の騰落だけが勝負です。

一方、報酬率1.4%台のものは、アロケーションもパーツもアクティブのものが含まれているというふうに見た方がいいでしょう。逆にこの見方からずれるもの、すなわちパーツもアロケーションもパッシブなのに1%などの報酬を取るものがあれば割高と言えるでしょう。

アロケーション(資産配分)のアクティブ、パッシブの特質

iDeCoの販売会社の商品リスト等を見ると、「6種や8種の資産、あるいはもっと多くの資産に分散します」、また「為替ヘッジします、しません」程度の記述で、実際の運用手法はあまり詳しく書かれていないのが実状です。

もう少し詳しく読めば、日本株、海外株、日本債券、海外債券に、国内・海外のREITを加えて6種、8種の場合はさらに新興国の株式と債券の2種が加わる等が主流です。

資産の種類が多いほどきめ細かい資産分散が可能になりますが、どうやってパフォーマンスを出すか、すなわち基準価額を上げることに対して何がどう利くのかは、十分に説明がされているかというと今一つ不明です。

パッシブ型

そもそもアロケーションのアクティブ、パッシブは、運用成果の出るメカニズムが根本的に異なっています。

パッシブ型、すなわち固定比率型は投資家から見ると何に投資されるかわかりやすいという安心感があるのが大きな利点です。10年以上前に登場し、大ヒットとなった「財産三分法」ファンドもこの一種です。商品名が○○30とか○○50というファンドは、固定比率のものが多いです。

固定でなく株式の上限値である場合や、後で述べるターゲットイヤー型ファンドの運用年数である場合もあるので一概には言えませんが。固定比率方式では運用のパフォーマンスとしてはリバランスが大きな収益源となります。ここで言う「リバランス」とは資産の時価変動に応じて元の比率に戻す取引のことです。

たとえば、単純化して債券50%、株式50%の固定比率を謳ったファンドの場合、ある月の月末時点で50:50だったものが、その後の価格変動で債券が下がって相対的に株式が上がり、40:60になったとします。

その場合、比率の落ちた債券を買い増して、逆に上がった株式を売ることによって50:50に戻します。翌月に逆に債券60:株式40になっていたら、今度は債券を売って株式を買うことで50:50に戻します。これを毎月繰り返していきます。

ここで、ハタと気付きませんか? このリバランス取引は「Sell High, Buy Low(SHBL)」、すなわち高く売って安く買う行為が内包されるので必ず儲かりますよね。これがリバランスのメリットです。

ただし、これには当てはまらない相場展開があります。騰落を繰り返してある程度定位置に戻ってくれば(「平均回帰:mean reversion」と呼びます)リバランスは有効です。

しかし、バブル崩壊後の日本株のようにほとんど一方的に長期間下がると、下がる過程で買い増していくが価格が回復せず大きな投下元本が蓄積する、あるいは逆に上がり続けた場合、その過程で売って保有額が下がるので上昇の機会をフルに享受できないということになります。

これは拙稿『積立運用に優遇税制開始! どんなファンドに投資しますか?』でご説明した「ドルコスト平均法」の落とし穴でもあります。

アクティブ型

次にアクティブ型です。アクティブアロケーション型にも色々な手法があります。大きく分けるとマクロ型、リスクコントロール型、ターゲットイヤー型の3つが代表的ですので各々についてご説明します。

1. マクロ型

これは相場環境に応じてファンドマネージャーが株式、債券等の比率をシフトしていく手法です。ファンドマネージャー個人の才覚だけに委ねるのでなく、運用会社ならハウスビューといわれる会社として統一した相場分析があり、それをベースに安定コース、積極コース等によってリスク資産の配分を行います。

大まかに言うと、景気上昇期には企業収益が拡大するので株式を増やし、逆に金利が上がるので債券が下落するのを避けて減らすといったことです。また、国や地域のマクロ環境の強弱を読み込んで地域配分も行います。

マクロ型はつまるところ、その「相場観」の良し悪しが収益の源泉となるので、過去の運用実績を見て運用の巧拙を判断することになります。ゆえに、過去の実績が中長期で存在し、しかも実績が良好なファンドを選ぶというのが唯一のアドバイスです。とはいえ、過去に良好な実績があるからといって将来もそれが続くとは限らないのは言うまでもありません。

たまに会社全体のビューよりも個人の優秀なマネジャーによる実績を謳うファンドがあり、その運用者の腕を信じて一蓮托生で賭ける手もありますが、その運用者が辞めるというリスクもあるので注意が必要です。

2. リスクコントロール型

これはターゲットリスクレベル(例:年率10%)」を目論見書等でコース毎に示し、その範囲に収まるように資産配分を動かしていく手法です。

リスクは拙稿『「リスクはクスリ」〜ベンチマークのない投資信託のパフォーマンスの見方』で示したように、収益率の標準偏差で表されます。ターゲットボラティリティと表示している場合も趣旨は同じです。

この方式では、①のように相場の先読みを重視するのでなく、リーマンショックの時や、北朝鮮がミサイルを飛ばしたりする地政学リスクが高まって実際にリスク資産の動きが激しくなったら、リスクの高い資産(新興国株式、ハイイールド債等)を減らしてリスクの低い安全性の高い資産(例:米国債)にシフトします。

投資家は、固定比率のパッシブアロケーションに比べて今何に投資されているかをすぐに知ることはできませんが、投資時に目論見書等にあらかじめ表示されているタ-ゲットリスクに収まるように運営されているため、想定外に大きい損失を被るといったような事態は避けうる手法です。また、ターゲットリスクを為替リスク込みでコントロールする場合は、為替ヘッジの有無は重要な要素ではなくなります。

コツコツ型の積立運用によって資産形成をしたい投資家にとって、リスクコントロール型は有力な選択肢です。この方式の唯一とも言える欠点は「収益率の標準偏差」です。すなわち、期待収益率があってそのバラつきがリスクですので、ターゲットリスクをうまく抑えても肝心の収益率自体がマイナスだと、結局パフォーマンスは冴えないことになります。

3. ターゲットイヤー型

これは若い時に運用を開始して、たとえば退職年齢である40年後をターゲットイヤーとして満期とするバランスファンドです。米国では結構ポピュラーな運用形式です。手法としては、若いうちはリスクが取れるので株式等のリスクは高いが長期的に成長が見込める資産に多く配分し、満期が近づくにつれ、債券やキャッシュを増やして満期時の現金化に備えるものです。

各資産パーツのアクティブとパッシブ

最後に、各資産パーツのアクティブ、パッシブについて触れておきます。

パーツがアクティブならコストは高め、パッシブなら安めというのは上述の通りです。ある研究では、ファンドのパフォーマンスの約8割はベータの配分、すなわち各資産の配分比率とタイミングの選択によるそうです。アルファは引き算すると2割ということになります。

それでも、たとえばヘッジファンドやトータルリターン型のパーツはアクティブでしか存在しませんので、アクティブ型でαの付加価値を期待する意味はあります。

また、オールスターファンドタイプのように各資産のファンドを色々な運用会社から幅広く選択してベストオブベストマネジャーによる運用というのも、セレクトショップのような贅沢感は味わえます。パフォーマンスが結果としていいかどうかは別物ですが。

まとめ

いかがでしたか。バランス型ファンドはパッと見で同じように見えても、結構多様なことがおわかりいただけたでしょうか。特に長期投資の場合、入り口で以下の点にご留意いただければと思います。

  • バランス型ファンドは信託報酬の水準が運用手法のヒントになる
  • アロケーションパッシブ型はリバランスで儲ける
  • アロケーションアクティブ型の「マクロ型」では過去の実績を調べることが必要

林 俊宏