海外不動産人気は東南アジアから英米へ

私は2011年2月に、日本で初めて海外不動産に特化した投資家コミュニティ「アジア太平洋大家の会」を立ち上げました。その後、今日まで6年半にわたり15以上の国・地域の海外不動産セミナーを200回以上開催しています。そういう立場にあるので、ここ数年間、日本でどんな海外物件が売れてきたのかをよく知っています。

2011~15年頃は、東南アジア新興国のプレビルド(予約販売)物件がよく売れました。売れ筋の国は、マレーシア→フィリピン→カンボジア→ベトナムと、目まぐるしく移り変わりました(タイだけは固定ファンが多く、流行り廃りなく常に一定数売れる印象です)。

2016年以降は東南アジア人気がやや下火になり、代わりに英米先進国の物件が売れ筋になってきました。主力商品は「英国の学生寮や介護施設」、「築22年以上経過した米国の木造住宅」などです。

今回は、今、売れ行き絶好調とされる「米国の築古木造」にフォーカスし、その人気の理由と注意しなければいけないリスクについてお伝えしたいと思います。

「米国の築古木造」が人気化している理由は?

では、なぜ米国? なぜ築古木造なのでしょうか? 一言でいうと「日本での節税効果が最大になるから」で、課税所得の高い富裕層を中心によく売れています。

不動産所得を申告すると、建物の法定耐用年数と築年数をもとに算定した償却期間で減価償却できます。築22年以上の木造住宅なら、日本の税法上、最短4年で減価償却が可能です。

国土の広大な米国では大都市部を除いて地価が割安、つまり相対的に建物の価値が高いことになります。築22年以上経過した木造物件でも、総額に占める比率は建物80%、土地20%程度。そういう物件を買えば物件価格の80%を4年で償却できるため、節税効果が極めて高くなります。

たとえば、土地と建物を含めた価格が5000万円とすると4000万円が建物代に相当し、この4000万円を4年間で割り出すと毎年1000万円が減価償却という税務上の損金が発生します。もし課税所得1000万円の人が買えば、計算上は購入後4年間は所得税、住民税ともゼロになります。

ただし、節税利益を先食いする分、後が厳しくなります。5年目以降は建物価値がゼロになるので節税はできず、所得税と住民税がしっかりかかりますし、さらに、この物件を売却する際は、償却した分も込みで譲渡所得税がかかります(購入後5年以内の売却だと39.63%、それ以上だと20.315%)。

このように、国税庁は結局「数年間ラクさせて後でがっつり取る」わけですが、それでも向こう数年間の利益を消して節税したいニーズは強く、また、限界税率の高い方ほど譲渡所得税を払ってもなお節税メリットの方が大きくなります。

「米国の築古木造」のリスクとは?

そんな事情もあり、海外節税物件の人気は相変わらず高い昨今ですが、「米国の築古木造」ブームは長続きはしないと私は見ています。その理由は以下の4点です。

(1)国税の課税強化

昨年11月、会計検査院より富裕層による海外中古不動産を利用した節税に対して指摘があり、今後の税制改正で何らかのメスが入ることが予想されます。また、水面下では「海外不動産を買って大きな金額を還付申告した人が、軒並み税務調査に入られている」とも聞きます。数年後、今より節税ができにくい環境になれば、節税を売りにする海外不動産商品の売れ行きも鈍るでしょう。

(2)値下がりリスク

不動産なので、値上がりすることもあれば、値下がりもあります。場合によっては、値下がりで節税分が全て吹っ飛んでしまうかもしれません。特に、業者が利益をたっぷり乗せた相場より割高な物件を買ってしまうと、言うまでもなく売却時に値下がりのリスクは大きくなります。

(3)修繕費が嵩むリスク

築古の木造なので、建物のコンディションも玉石混交。ちゃんとメンテナンスしてきた物件と、そうでない物件が混在しています。後者を買った場合、予想以上に修繕費が嵩むリスクがあります。

(4)相続リスク

保有者の年齢や保有期間によっては、相続を念頭に置く必要が生じるでしょう。もし、日本の個人所得税を節税する目的で米国物件を買うと、当然、個人名で購入することになるわけですが、その際、相続をどうするか良く考えて買わないと、保有期間中に所有者が亡くなった場合、遺族に大変な苦労を強いる可能性があります。

米国における相続手続きは日本と大きく異なり、原則として検認裁判所と呼ばれる裁判所によるプロベート(Probate=検認)手続きを経なければなりません。そのために一般的には1年から3年程度の期間を要し、相当な費用負担が生じる上、その期間中は相続財産の処分ができません。

プロベートを避ける方法はいくつかありますが、日本の節税を目的に個人名で買う場合、法人等に比べて取れる方策が限定されてしまうので注意が必要です。

「節税ありき」の発想は危ない

最後に、海外不動産投資は単なる節税にとどまらず、海の向こうに実物(土地建物)を保有することによる権益およびリスクをオーナーが背負うことを忘れてはなりません。

「節税ありき」で判断するのではなく、物件そのものの収益性やリスクを第一に考えるべきで、節税は「オマケ」程度の感覚で捉えた方が賢明だと思います。

鈴木 学