8月から東芝が東証2部へ指定替えに

東芝(6502)は2017年6月23日、日本取引所グループ(8697)傘下の東京証券取引所(以下、東証)における市場第1部銘柄から市場第2部への指定替えを、2017年8月1日から行う旨の通知を受けたと発表しました。

また、債務超過を理由に上場廃止基準にかかる猶予期間銘柄とする旨の通知を受けたことも発表しています(猶予期間は2018年3月31日まで)。

ここでお気づきの方も多いと思いますが、発表資料では普段よく目にする2部「降格」という言葉は使われておらず、「指定替え」となっています。というのは、株式市場での区分けは「上場基準を満たすかどうかの違い」であって、必ずしも企業としての優劣を反映するものではないためです。

東芝は2015年4月の粉飾決算発覚以来5回も有価証券報告書の提出期限を守れず、現在も2017年3月期の決算を発表できていない問題山積みの企業です。とはいえ、2部はそうした企業が集まる市場というわけではありません。

2部市場銘柄も厳正な審査を受けて上場しているのですから、降格というのは2部市場に上場している企業に対して誤った印象を与える表現になるかもしれない点は注意したいところです。

1部と2部の違いとは

では、具体的に1部と2部の上場基準の違いを確認してみましょう。

東証では、新たに株式を上場する企業に対して、形式要件として株主数、流通株式、時価総額など合計12の基準を設けて審査します。また、1部、2部にかかわらず、企業の継続性や収益性、企業経営の健全性、コーポレートガバナンスや内部管理体制の有効性なども審査します。

つまり、1部も2部も株式市場に上場すると幅広い投資家に株式が売買されることになるため、東証による厳しい審査を受けることになるのです。

では、「違い」はどこにあるのでしょうか。一言でいえば、「流動性」の差にあるといえます。このことは、東証が新規上場企業に求める以下の4点の審査基準から読み取ることができます。

  • 株主数(上場時見込み):1部は2,200人以上、2部は800人以上
  • 流通株式数(発行済株式総数に対する流通株の比率):1部は35%以上、2部は30%以上、
  • 流通株式数:1部は2万単位以上、2部は4,000単位以上(単位株数はいずれも100株)
  • 時価総額:1部は250億円以上、2部は20億円以上

「流動性が高い」ということは、売りたい時、買いたい時にすぐに実行できるという意味です。そのためには、日々の取引が活発であることや、より大きな時価総額があることが求められます。

実際、2017年6月時点の1銘柄平均の時価総額は、2部銘柄の170億円に対して1部銘柄は2,860億円と大きな開きが見られます。

2部へ指定替えになるデメリットとは?

では、東芝は2部に指定替えされることで、どのようなデメリットを被ることになるのでしょうか。

一般的には2部銘柄のほうが流動性が低いため、増資などの資金調達を行うときには不利になる可能性があります。ただし、それはあくまでも一般論であって、2部銘柄となっても現在と同水準の時価総額(6月27日時点で1.2 兆円)を維持できるのであれば、大きな問題とはならないと考えられます。

それよりも問題なのは世間一般のイメージの低下でしょう。「1部上場企業」というステータスは、採用活動や取引条件の交渉時などに有利に働くことが多いためです。

1部上場の”メンツ”を捨てたシャープは再生に成功

ここで思い出したいのは、1年前の2016年3月期に債務超過に転落し2部へ指定替えになったシャープ(6753)と、そうならなかった東芝との違いです。

2016年春に東芝は、独占禁止法の審査を回避するため東芝メディカルをSPC(特別目的会社)に売却することで2016年3月期に債務超過になることを免れています。これにより東芝は2部への指定替えを回避しましたが、一部には、SPCは実質的にキヤノン(7751)の影響下にあるため、この取引手法は独禁法逃れの違法取引ではないかという意見もありました。

対照的なのがシャープです。シャープの場合、2016年3月期に”裏ワザ”は使わず、素直に債務超過を容認し昨年8月に2部への指定替えとなっています。1部上場企業というステータスをいったんは捨てたシャープですが、その後いち早く再生プランを実行することで業績回復に成功し、この6月末には東証1部への復帰を申請するところまできています。

こうして振り返ってみると、東芝の場合は東証1部に踏みとどまったことが、むしろ上場企業としての存続すら危ぶまれるところにまで追い詰められることになった原因のようにも見えてきます。

残された時間はもはや少ないと思いますが、東芝は上場維持のために奇策を繰り返すのではなく、”メンツ”を捨て本質的な再生に取り組んでいくことができるのかを注視していく必要がありそうです。

和泉 美治