この記事の読みどころ

今回は、米国の金融政策を決定する6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の注目点を取り上げます。普通FOMCでは政策金利の上げ下げが注目されますが、市場では大半が6月のFOMCでの利上げを予想しており関心は低いと見られます。

むしろ6月のFOMCでの注目点は、バランスシート(B/S)縮小の具体策が示されるかという点と、利上げペースへの影響です。この2つは2017年後半の米国金融政策の重要なイベントと考えており、年後半の金融政策の動向を占う上で、助けになると見ています。

6月FOMC:政策金利引き上げは確実の情勢の中、バランスシート縮小などに注目

米連邦準備制度理事会(FRB)は2017年6月13~14日にFOMCを開催、日本時間で6月15日早朝に結果の公表が予定されていますが、市場では大半が6月のFOMCで政策金利が0.25%引き上げられると既に予想しています。

注目点はFRBのB/Sの縮小と、年後半以降の利上げペースです。まず、B/Sの縮小について述べます。

どこに注目すべきか:B/S縮小、ドットチャート、利上げペース

前回(5月)のFOMC議事要旨の最後のページで、FRBのB/S上の保有証券縮小の大まかな方針が説明されています。また、さらなる詳細な計画のとりまとめを指示したことも記されています。米金融当局がB/Sの縮小に向け準備を着々と進めていることが伺えます。

B/S縮小方針を述べる前に、そもそも、なぜB/S縮小が必要なのかを確認しましょう。

現在FRBのB/S規模は4.5兆ドル程度(約500億円)と、GDP(国内総生産)の約4分の1にまで巨大に膨れ上がっています。

この背景は、2008年前後の世界的な金融危機後、金融緩和政策の必要から政策金利をゼロとしても不十分であったことから(特に米国はマイナス金利には消極的)、代替として中央銀行であるFRBが国債を購入して市場にマネーを供給したからです。この政策は量的金融緩和政策(QE)とも言われます。

では、QEの効果はどれくらいあったのかというと、市場関係者の推定値を見ると、QEは市場金利を1%程度引き下げるのと同様な効果があったとの報告があるように、QEは金融緩和効果が期待されます。

厄介なのは、FRBは米国経済の回復を受け、利上げにより金融を引き締め始めたことです。QEでは金融緩和、一方で利上げと、ブレーキを踏みながらアクセルを踏むような状況です。別の問題として、巨大なB/Sを維持するのはコストがかかることも、B/S縮小を急ぐ理由と思われます。

ここまで予習をしましたので、前回FOMCの議事要旨に示されたB/S縮小方針の内容を取り上げます。主に次の3点が示されていました。

① 予め定められたスケジュールで縮小:

たとえば利上げの場合、FOMC会合ごとに経済データ次第で利上げの判断をしていますが、B/S縮小の場合は予め定められたスケジュールで淡々と規模縮小を進める方針です。しかも、そのペースは相当ゆっくりとなりそうです。あるFRB地区連銀総裁はいかにゆっくり進めるかを表現するのに「ペンキが乾くのを眺めるようなペース」と述べています。

B/S縮小を進める上で最も恐れられているのは、市場が過剰反応をすることです。不安を抑えるために、予め定められた方式で、かつ焦りは禁物という方針のようです。

② B/Sで保有される国債やMBS(住宅ローン担保証券)などの償還可能な金額の上限(キャップ)を各月に設定し、キャップを超える金額の債券を再投資分とする:

現在(B/S縮小前)の運営では、保有債券のうち満期が到来した債券は、同額を再投資しています。このため、B/Sの規模は保有債券が償還を迎えても変化しない運営となっています。

しかし、B/S縮小開始後はキャップまでの金額は償却されてB/Sから外れるため、その分B/Sが縮小することとなります。FRBが保有する国債のうち償還が到来したものの再投資を急にやめたら、ハイペースで縮小が進んでしまうので、毎月の償却額をキャップまでに抑えて、B/S縮小のペースを抑える工夫が見られます。

③ キャップは当初低く設定、3カ月ごとに増額、最終上限に到達後B/S正常化までキャップは据え置き:

各月の償還可能な金額の上限となるキャップは一定でなく、3カ月ごとに増額、何を持って最終というかは不明ですが、最終上限到達後はキャップが最終上限で据え置かれる模様です。したがって、方針通りであれば、B/Sの縮小は当初ゆっくりしたペースで始まり、その後徐々に縮小規模が拡大し、最後は一定の縮小ペースとなることが想定されます。

以上が、前回のFOMCまでに示されたB/S縮小の主な方針です。このように、細心の注意を払ってB/S縮小の準備を進めていますが、市場がどのように反応するかは当局の発言方法、内容などによります。ぜひ注目したいポイントです。

次に、6月のFOMCのもう1つの注目点は、FOMC参加者が予想する年後半から今後2年程度の利上げペースの予想です。

FOMC参加者の政策金利の予想はドットチャートと呼ばれる予想値の分布図で示されます。直近では3月FOMCでのドットチャートが公表され、2017年、18年は各年3回の利上げが示唆されていました(2017年は3月に1回実施されたので残り2回)。

しかし、B/Sシート縮小が近づく中で、B/S縮小が利上げペースに影響を与えるかもしれません。市場の中では、利上げとB/S縮小が同時に行われると引き締め感が強すぎるから、利上げペースを落とすとの見方もあるようです。

個人的には、FOMCがB/S縮小に細心の注意を払っているので、利上げペースは変えないような気もしています。何が正解かはわかりませんが、今度のFOMCで確認したいと思います。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文