3期連続赤字の決算を発表

2017年5月10日、液晶専業メーカーのジャパンディスプレイ(6740)が決算を発表しました。2017年3月期通期実績は、営業利益は185億円(前年同期比+11%増)と増益を確保しましたが、当期損益は、繰り延べ税金資産取り崩しの影響により▲317億円(同▲318億円の赤字)に留まりました。

同社は2014年3月に東証1部に上場しており、上場初年度の2014年3月期は当期利益が黒字を確保していたものの、その後は2015年3月期から2017年3月期まで3年連続で最終赤字が続いています。また、こうした業績動向を反映し、株価も上場以来、一度も公募価格900円を上回ることなく推移しています。

とはいえ、こうした厳しい決算でありながら決算後の株価は軟調ではあるものの暴落には至らず、昨年来安値の138円に対しては、なお約5割程度上回った水準にあります。

では、今回の決算で悪材料は全て織り込まれたのでしょうか。そのことを探るために10日に開催された決算説明会で気になったポイントを以下に整理したいと思います。

決算説明会で気になった3つのポイント

まず第1に目を引いたポイントは、2018年3月期第1四半期(4-6月期)は、営業損益が▲150億円の赤字になる見通しとされたことです。直前四半期(1-3月期)の80億円の黒字から一転して赤字転落となる理由として、会社側では売上の大幅減少と研究開発費などの固定費の増加を上げています。

売上が大きく減少する理由としては、「今後、欧米メーカーが発売すると報道されているOLED 搭載の新製品の影響を中国メーカーが見極めようとしており、在庫調整に入っている」ためであると説明しています。

ここでの「欧米メーカー」とはアップルであると推測され、アップルが今後投入すると伝えられている有機ELパネルを搭載した新製品の動向を、アップルのデザインを模倣する傾向がある中国メーカーが見極めようとして生産調整を行うことが同社に影響を及ぼしていると読み取ることができます。

第2に気になったポイントは、同社もOLEDへのシフトを本格的に行うと表明したことです。これまで、同社は有機ELの開発と並行して、フレキシブル液晶(Full Active™ Flex)を訴求する考えを強調していました。

ただし、ここにきて欧米メーカーの有機ELへの移行が当初予想以上に加速することが明らかになってきたため、同社もOLEDへの投資を本格的に進めざるを得ないという判断に傾いています。

OLEDに関する投資計画は中間決算頃までには明らかにされる予定とされていますが、フレキシブル液晶については、スマホではなく車載等に適用し、スマホ向けはOLEDにリソースを集中させる、つまり液晶とOLEDの「二兎は追わない」考えを、今回初めて明言しています。

最後のポイントは、今年度にリストラを行う考えが表明されたことです。上述のように同社はOLEDへのシフトを決断しており、2019年あるいは2020年にはスマホ向けOLEDの量産を本格化させたい考えです。このため、現在の液晶関連のリソースが余剰となることが想定されるため、これに備えたリストラを現在検討中とのことです。

具体的な人員削減の規模や金額については明らかにされていませんが、こうした施策を今年度に一気に行う場合、大きな損失の計上が必要になる可能性があることが、今回明言されています。

今後の注目点

同社は第1四半期の業績予想は開示しているものの、通期予想については非開示となっています。加えて、トップマネジメントが6月の株主総会で交代する(注)ということもあり、年間業績のイメージは持ちにくいというのが正直なところです。

注:2015年6月から会長兼CEOを務めてきた本間充氏は、3月22日に会長専任となり今年6月末に退任予定。年内に子会社化される予定のJOLED社長の東入来信博氏が、6月の株主総会後に同社の社長兼CEOに就任予定。

とはいえ、上述のように欧米メーカーは有機ELへのシフトを進める可能性が高いことや、その動きに中国スマホメーカーも追随する可能性があって液晶の大きな伸びは見込めないこと、さらにリストラも計画されていることなどを考慮すると、4期連続の最終赤字への懸念は払しょくできないことも事実です。

また、新たにOLEDの量産ラインを立ち上げるためには巨額の投資が必要とされるため、資金需要が高まることも予想されます。よって、増資による希薄化リスクにも備える必要がありそうです。

こうしたことを考えると、妙に静かな決算後の株価の動きは、むしろ「嵐の前の静けさ」と捉えることが適切なのかもしれません。

ジャパンディスプレイの上場以来の株価推移

 

和泉 美治