4月23日、フランス大統領選の第1回投票で、中道系独立候補のマクロン前経済相と極右政党・国民戦線(FN)ルペン氏が5月7日の決選投票に進むことになりました。

マクロン前経済相は、EU残留、財政赤字の抑制、公的セクターの支出や雇用の削減、経済・労働市場改革等、グローバル化経済の推進を主張。他方、極右政党・国民戦線(FN)ルペン氏は、EU離脱、保護主義貿易(輸入品への課税、自由貿易協定への拒否権行使)、財政出動等、大衆迎合的な経済政策を標榜しています。

この記事では、あらためてグローバル経済の問題点、最近の揺り戻し、日本のソフトな社会主義モデルから得られる示唆について考えたいと思います。

グローバル経済は何が問題か

そもそもグローバル経済の問題とは何でしょうか。

まず、欧米では格差拡大で「中間層」の衰退が指摘されています。グローバル企業の労働分配率の低下等により、たしかに世界各地で経済格差や社会不安が拡大しています。

国際支援団体オックスファムの推計によれば、世界人口の1%の富裕層が持つ資産総額は、残り99%の人口の資産を合わせた額と同程度になるそうです。

企業レベルで考えると、国境を越えて自由な経済活動ができるグローバル企業は良いのですが、国民経済を支える中堅・中小企業群は置き去りです。各種政策支援が行き渡らない企業群は’Missing Middle’(消えた中企業)と言われることもあります。

グローバル経済からの揺り戻し

かつて1920-30年代の大恐慌の時は、グローバル化・自由な資本移動により世界でバブルが起きやすくなり、国家間の衝突・紛争が増えました。今、繰り返しているのは第2次グローバル化と言われます。

過去の反省を踏まえ、政府はグローバル化を規制すべきではないか、ある程度の社会主義あるいは保護主義が必要ではないか、といった論調が大きくなっています。

スイス・ダボスの世界経済フォーラム年次総会(2015年)で共同議長を務めたオックスファム幹部のウィニー・ビヤニマ氏は、「富裕層とそれ以外の層との格差は急速に拡大しつつある。より公正で、より豊かな世界の妨げとなっている既得権者に立ち向かうべき時だ」と指摘しています。

米国では、オバマ大統領の一般教書演説(2015年1月20日)で言及されたように、拡大した経済格差を是正するには市場に任せておけば良いという、1980年代にレーガノミクスから始まった「新自由主義」(小さな政府)では格差是正は難しいとの認識が広まってきています。米国のトランプ大統領の誕生は保護主義台頭の象徴です。

欧州では失業問題が深刻化しており、特に深刻な問題は若年層の失業率の高さです。25歳以下人口は501万人(うち341万人がユーロ圏)ですが、その失業率は21.9%(ユーロ圏では23.7%)にも及んでいます。特に高いのはスペイン(53.5%)、ギリシャ(49.8%)、クロアチア(45.5%)、イタリア(43.9%)です。

そのため、かつての英国流(サッチャリズム)の「新自由主義」ではなく、国民経済の安定化を図るための社会政策の充実、特に失業・雇用対策が緊急の政策課題となっています。

日本におけるソフトな社会主義的モデル

日本は、戦後、産官学連携、規制過多、重点産業への傾斜配分、高い税負担率等を特徴とする「大きな政府」の下で、過度な経済格差を生むことなく高度経済成長を成し遂げてきました。そして、今も経済成長時代に構築された成功モデルを修正しながら温存させています。

たとえば、比較的手厚い社会保障制度。また、日本には「財政投融資」があり、これは「資源配分の調整機能と経済の安定化機能」を目的とした、計画経済を彷彿させる社会主義的な仕組みです。

たとえ「失われた20年」と称されるデフレ経済が長らく続いても、社会は平穏に保たれ、非正規雇用の問題はあるにせよ失業率は比較的低い水準を維持しています(参考:完全失業率2.8%<2017年2月季節調整値>)。これは日本モデルの良い面でしょう。

一方、日本は社会主義制度を採用したわけでもないのに、グローバル化に伴う産業空洞化や長期経済停滞の状況下、現状程度のソフトな社会主義的政策を継続しただけで、いつのまにか政府債務が膨れ上がってしまいました。

トマ・ピケティは『新・資本論』で、「日本ー民間は金持ちで政府は借金まみれ」(p.251-254)という章を記しています(以下引用)。

「ヨーロッパから見ると、日本の現状は摩訶不思議で理解不能である。政府債務残高がGDPの2倍、つまりGDP2年分にも達するというのに、日本では誰も心配していないように見えるのは、どうしたことか。どんな事情で、あるいはどんな政治的決断によって、借金がこれほど膨大になったのか。…」

さて、フランス大統領選ではポピュリズム(大衆迎合主義)の大波は消え最終的にはマクロン氏が優勢との見通しです。

しかし、たとえマクロン氏が大統領となりEU残留で財政規律を堅持していくことになっても、引き続き、若者の失業問題・景気停滞の中、どのようなアプローチで、どの程度、社会的弱者を保護すべきなのかは避けられない政策論点となるでしょう。

日本の「失われた20年」の経験は、長期経済停滞の中ではソフトな社会主義モデルも匙加減がきわめて難しいということを示唆しているのではないでしょうか。

大場 由幸