日本では弱かった為替感覚

以前、米国勤務経験のある知人から「収入(フロー)はすべて円だから、残ったお金を預金(ストック)する際はすべて円以外で分散する」と聞きました。平均的日本人である私としては大変驚いたことを覚えています。

私自身そうでしたが、日本に住む多くの日本人は、収入は当然円建てで生活費の支払いも円建て、毎月残ったお金はすべて円建て金融資産(預金、投資信託等)にしているのが普通でしょう。

ただ、頻繁に海外旅行に行く方は、日頃、一定額を外貨預金にしていらっしゃるかもしれません。また、この記事をお読みの資産運用に積極的な方は、外貨建て投資信託、外国株等にも一定のポートフォリオをお持ちかもしれません。

過去最高の伸びになった預金額

日本では長らく低金利時代が続き、預金金利は雀の涙なのに、ある種の刷り込みがあるのか日本人は円預金を真面目にします。

最近でも円預金は増えています。全国銀行協会の発表によると、手形と小切手を除いた実質預金が2016年12月末に前年同月比6.1%増え、過去最高の伸びになりました。預金の伸び率は大都市が突出しているようですが、とにかく銀行に円預金が集まっています。

しかし、過去5年間ほどアベノミクスなる経済政策のおかげか急激な円安となっています。そのため、円預金は米ドルに換算すれば、アベノミクスが始まった頃と比べ3割強も目減りしたことになります。

もし、この間の原油相場の下落がなければ、輸入物価の上昇があったはずで、生活はもっと厳しくなっていたことでしょう。しかし、私自身このような為替感覚を日本にいるときはあまり持ち合わせていませんでした。

マレーシアの庶民には外貨預金が一般的

現在、私が生活しているマレーシアでは、庶民は現地通貨リンギットの変動にとても敏感で、外貨預金は一般的です。生活に必要な食料、雑貨、建設資材等、消費材の多くが輸入依存なので、リンギット通貨が弱くなると物価がすぐに上昇するためです。

また、多くのマレーシア人は、たとえ富裕層ではない一般庶民も、金融資産や不動産を含め分散投資を当たり前のようにやっています。

少し裕福な華人系マレーシア人などは、子女を海外留学させて高い教育を受けさせ、ついでに(いつでも逃げられる居住地としての)海外生活拠点作りや国際分散投資に躍起です。日頃からカントリーリスクが念頭にあるのだと思います。

このような行動パターンは、中国本土の中国人がやっていることで知られていますが、将来、もし中国経済が低迷するようなシナリオになれば、今以上に中国本土から多くの中国人がマレーシアにもやってきて、中国のカントリーリスクをヘッジすべく不動産投資や生活拠点作りに精を出すでしょう。

資産運用の選択肢の幅が広いシンガポール

国際金融センターとして有名なお隣のシンガポールでは、銀行で複数の通貨建て口座を簡単に開設できます。選べる通貨はシンガポールドル、米ドル、ユーロ、豪ドル、日本円、英ポンド、スイスフラン等です。よって、たとえ金融資産がそれほど多くなくても、それなりに通貨を分散して預けておけるのです。

また、シンガポールでは投資信託の商品メニューが豊富で、その中から為替リスクを分散しながら自分の投資方針にあったものを選択・運用することもできます。

日本では通常、円から外貨建て投資信託に投資して売却時に円に戻すため、為替変動リスクは管理しにくいですが、シンガポールでは売却時に為替レートの状況を見ながら同じ通貨の預金口座にいったん戻す等、柔軟に対処できます。

これまでは円高が長期トレンドだったが