海外では日本と少し違って個人も直接的に国際競争に晒されますが、日本で「稼げるスキル」をお持ちの方、たとえば日本で年収1千万円の壁を超えた(あるいは超えつつある)方でしたら、自らの意思によって戦略的に海外へ移住し、海外で活躍することは決して不可能ではないでしょう。

では、競争が厳しい海外でも「稼げるスキル」とは何でしょうか。結論を先取りすれば、おそらくそれは卓越した専門性や強みを英語環境でも発揮できることではないでしょうか。以下で、専門性を磨くことの意味や英語力の本質について考えていきたいと思います。

海外でも通用する専門性を磨く

海外での働き方としては、勤務先(または転職先)の海外駐在員となる、海外企業に就職する(含む海外日系企業のローカル採用)、海外で起業する、海外ノマド/フリーターとして生きる、起業家として成功を目指す等、いろいろありますが、いずれにしても海外でも「稼げるスキル」が不可欠です。

フランスの経済学者ジャック・アタリは著書『21世紀の歴史』の中で、「ハイパーノマド」に言及しました。21世紀は、国同士の格差は徐々に小さくなり、代わって「自分の知識を売れる人」と「売れない人」の格差が広がる時代だと言っています。この知識とは、形式知のほかに、スキル、経験、それを通して身に付けた暗黙知等も含まれるのでしょう。

専門領域はもちろん、人それぞれです。海外でイメージしやすいのは、料理人、職人、技術者といった現業職ですが、営業職を含むホワイトカラーも自らのスキルを体系化して高く売ることは可能です。

法律家、会計士、コンサルタント、大学教授等の専門家はその専門性を世界のどこでも通用するよう、研ぎ澄ませていく努力が求められます。そして、起業家はどこにいてもチャンスのある事業領域にいち早く気付き、それに向かって全身全霊を込めてスピーディーに取り組むことが重要になります。

仕事ポートフォリオを確立してリスク分散することが大切

事業チャンスをいち早く見抜き即座に行動できるような方は起業家という生き方もありますが、それとは別に、普通の人の1つの究極的な働き方は海外ノマド/フリーランサーかもしれません。

最近、日本でもそのような働き方を志向している若者が増えているように思います。日本でそういう働き方ができる方であれば、若干の工夫と用意周到な準備により、海外でもノマド/フリーランサーという生き方が続けられるかもしれません。

昨年、ヘルシンキでスペインESADE ビジネススクールのサイモン・ドラン博士(Dr. Simon L. Dolan)の集中講義※を受けましたが、教授曰く、今後世界経済において最も増加するのはオフィスを持たないフリーランサーであり、未来の仕事はフリーランサーとの恊働やIT技術により激変するだろう、とのこと。
※Future of Work – Leadership, value, success in the new landscape of work

個人は、コアなスキルを確立できていれば、それを軸として自らの仕事ポートフォリオを構築して海外ノマド/フリーランサーとして生きることも可能です。

それは小さな存在である個人にとってはリスク分散にもなります。ノーベル賞経済学者ジョセフ・スティグリッツが指摘する「長期停滞(Long-term Stagnation)」といった経済環境下、フルタイムで勤務する会社が突然倒産するということは、たとえ大企業や有名企業でも起こり得ます。

つまり、1つの会社にすべてを依存するような働き方はリスクがあまりにも大きいわけです。日本でも「会社にいれば人生設計ができる」という安心のシステムはとっくに崩壊しているのではないでしょうか。

やはり鍵となる英語力

日本を離れて必要となるのは、やはり残念ながら英語力です。これは現状、共通言語が英語となっているビジネスの世界では致し方ありません。

かつて、イギリスの真の財産は北海油田ではなく英語であると言われ、イギリスの首相ウィンストン・チャーチルは「ベーシック英語を普及させることは、イギリスにとって広大な領土を併合するよりも、はるかに永続的で実り多い利益になる」と述べています。その点、帰国子女でもなければ、やはり多くの日本人は海外ではハンデを負っています。

海外ビジネスの実践で必要な英語は、多くの日本人が日本で勉強してきた受験英語とは異質なので要注意です。いまだに日本ではTOEICが「資格」として崇められているようですが、どうも腑に落ちません。海外で人を採用する際、英語力については雑誌などの文章を読ませて、30分ほど英語でインタビューや議論をすればすぐに分かります。

日本の教育界では「グローバル人材」なるものを育成しようとしていると聞きますが、どうもテストの英語の成績がいいと「グローバル人材」と認定されるような気もします。しかし、そういう風潮に惑わされずに自らに真に必要な英語力を探求すべきでしょう。

実践英語は、点数が高いか低いか、上手か下手かというものではなく、コミュニケーションできるかできないか、役に立つか立たないかという問題なのです。

最後に加えるとすれば「気概」と「適応力」