英国の原発に日本政府が巨額出資

2016年12月15日、日立製作所(6501)が英国で進めている原子力発電プロジェクトの事業主体であるホライズン・ニュークリア・パワー(以下、ホライゾン社)に、日本政府が総額1兆円程度の資金支援を行うと複数のメディアが報じました。

英国への巨額投資というと、今夏にソフトバンクグループ(9984)が英国のアーム社に対して行った3.3兆円の買収が思い出されます。今回のニュースもそれと同様に、今後の日立製作所の注目材料となるのか、その可能性について考えてみました。

なお、今回のニュースは複数のメディアが報道したものの、日立側からは正式なニュースリリースは発表されていません。これは、現時点では日英の政府間で交渉が行われており、具体的な内容を発表する段階ではないためと推察されます。

日立の英原発プロジェクトは2012年にスタート

まず、今回のプロジェクトを進めているホライゾン社の成り立ちについておさらいしたいと思います。

ホライゾン社は、英国で原子力発電の新規建設から発電所の運営までを行う企業としてドイツの電力会社により2009年に設立されました。

具体的には、2020年代前半の稼働開始を目指し、英国の2カ所で改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の建設計画を進めていました。日立は2012年に約900億円で同社を買収し、この事業計画を引き継いでいます。

日立の目的は原発を作る「場所」の確保

ここで注目すべきことは、原子力発電機器のメーカーである日立が、日本では電力会社が担う建設や運営までを行う企業を取り込んだことです。

この点に関して、当時日立では、原子力発電事業を行う考えはなく、買収の目的は「プラントメーカーとして発電所を作る場が欲しいだけ」とコメントしています。2011年3月の東京電力福島第1原発事故以降、国内事業が先細りになる中で、技術を継承するためには必要な選択であったと考えられます。

また、そのために出資者を募り、ホライゾンへの出資比率を引き下げていく考えを示していました。2016年12月15日付けの日本経済新聞によると、「総事業費約2.6兆円のうち、日立は約1割を負担することを前提に交渉が進められている」と報じられていますので、この考えには変化がないことが読みとれます。

ちなみに、残りの資金負担については、英国政府が約25%以上、日本政府の投融資(国際協力銀行、日本政策投資銀行)および日本や英国の大手金融機関からの約1兆円(約4割程度)に加え、機関投資家からの出資や稼働開始後の売電収入が想定されているとのことです。

株価の反応はひとまず好意的だが、その先の注目点は?

さて、株価はこのニュースに対してどのように反応したのでしょうか。日立の株価は15日、16日と2連騰していたことから、概ね好意的に受け止められたと考えられます。

日英政府の強力なサポートにより、日立が単独で巨額の資金負担を負うリスクが大幅に低減したと捉えられるため、この株価の動きに違和感はありません。

では、今後はどこに注目すべきでしょうか。

まずは、2018年までに英国政府から正式な建設許可を得て、2019年頃から予定通り建設工事に着手できるか、また、原発稼働後の売電スキーム(売電価格や期間)が注目されます。

さらに、それ以上に重要なことは、事故が起きた場合の賠償責任などについて英国政府との取り決めが明確に交わされるかどうかです。

事故が起きてしまった時の経済負担の巨大さは誰もが知るところですが、一方で、日本では原子炉の運転等により生じた原子力損害についてはメーカー責任を問わないという「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」が定められています。そうした条件が英国でも整うかには十分に注意したいところです。

ちなみに、三菱重工(7011)は、米国での原子力事故により巨額の訴訟問題を抱えています。具体的には、米カリフォルニア州のサンオノフレ原子力発電所で同社が納入した蒸気発生器から放射性物質を含む水が漏えいした事故に関するものです。

このケースでは契約時点での責任上限(約1億3,700万米ドル、約140億円)は反故にされ、同社は原発を運営する電力会社等から廃炉費用等として66億6,700万ドル(約6,700億円)もの巨額の損害賠償請求を受けているのです。

インドなどの新興国市場ではなく、先進国の米国ですらこうした契約上のトラブルが起きているという現実を踏まえて、日立についても今後の交渉の行方を注視する必要があると思います。

日立製作所の過去10年間の株価推移

 

和泉 美治