オールジャパンで次世代がん治療装置を開発へ

国の研究機関である量子科学技術研究開発機構(量研機構)と住友重機械工業(6302)、日立製作所(6501)、東芝(6502)、三菱電機(6503)の4社は、2016年12月13日に次世代の重粒子線治療装置(量子メス)の開発協力に関する協定を締結したと発表し記者会見を行いました。

会見では、普段はライバル同士である各社の経営トップが一堂に会して登壇するという非常に珍しい光景が見られました。今回は、この取り組みが株式市場でも注目され、投資テーマになるのかを考えてみました。

提携の目的は小型化・低コスト化とグローバル展開

まず、重粒子線治療装置とはどのようなものか、また今回の提携の目的を簡単に解説します。

粒子線がん治療は放射線治療の一種で、水素や炭素の原子核を加速してがんの患部に集中照射する治療装置です。ちなみに、水素の原子核を使うものを陽子線治療装置、炭素などを使うものを重粒子線治療装置と呼びますが、いずれも加速器でエネルギーを高めた粒子を照射してがん細胞を破壊するという仕組みになっています。

ただし、照射1回あたりのエネルギーの違いにより、重粒子線のほうが陽子線に比べて照射回数が少なくて済むという長所がある一方で、装置のサイズやコストは重粒子線型のほうが嵩みます。

このため、日本にある粒子線がん治療施設では、重粒子線型の5か所に対して陽子線型は11か所と、陽子線型のほうが導入が進んでいます。また、海外ではほとんどが陽子線型となっています。

今回の提携の目的は、重粒子線型の低コスト化や小型化を進めることにありますが、これが実現すれば、重粒子線型の長所に加え、日本は海外メーカーに比べて技術的に先行していることから、グローバルに普及が加速することが期待されます。

興味深い動きだが「投資テーマ」としてはやや力不足

このように、今回の提携は技術的な観点から非常に有意義であると認められるものです。では、投資テーマとしてはどうでしょうか。筆者は、投資テーマとして注目するには、以下の3つの理由から時期尚早であると考えています。

第1は、時間軸の長さです。今回の発表では装置を設置する建物のサイズを従来比で約10分の1とし、設備コストも現状の100億円以上から80億円以下に引き下げるという目標が掲げられました。ただし、実現は10年後の2026年とされ、かなり長い年月が必要であることも言及されています。

それだけ技術的なハードルが高いということでもあるわけですが、株式市場で評価されるには少しタイムスパンが長すぎるという印象です。

第2は、開発はオールジャパンで行われるものの、当面は各社がそれぞれ医療機器ビジネスを展開する状態が続くためです。医療分野は電機メーカーの数少ない成長分野(ラストリゾート)であるため、事業面での統合が議論される可能性は当面は低いと考えられます。しかし、グローバルで勝ち抜くためには、そうした動きも必要ではないかと思われます。

第3は、粒子線治療は、骨などの一部のがんを除き保険適用が行えない状態が続いており、約300万円と高額な治療費を必要とする「先進医療」の状態が続いているためです。

保険診療として認められるためには、他の治療方法と比較した上での有効性が示されるデータが必要となりますが、2016年1月に厚生労働省で行われた「先進医療会議」では、まだ十分な研究データが少ないという理由から、全面的な保険適用が見送られています。

こうした状態では、粒子線治療自体がまだ未確立な医療と見なされてしまい、世界へ打って出る時の障壁になることが懸念されます。もちろん、この点はメーカーというよりも官庁や医療機関の責任になりますが、オールジャパンとしてこの事業を育てるためには、これまで以上に官民一体での取り組みが必要と考えられます。

まとめ

コンピュータの世界では、大型メインフレームコンピュータが技術革新によりパソコンへと進化し、さらにスマホへと向かったように、医療機器分野でもダウンサイジングや低コスト化は自然な流れであると思います。

今回の提携も、そうしたトレンドに沿った動きでもあると捉えられるため、今後開発スピードや事業再編の動きが加速していくかを注視していきたいと思います。

 

和泉 美治