会社の中の人間関係で、

「彼とはもう何年も付き合って、だいたいのことはわかっているから」
「昼飯だって毎日のように一緒に食べているし」

などと言って「部下との関係がきちんとできあがっている」と勘違いしている上司があなたの会社にもいませんか? もしかしたら、本当は相手がイヤイヤついて行っているだけかもしれません。そこそこ長い付き合いだとしても、実は相手のことを全然知らなかったというケースは、よくあるものなのです。そうしたことが原因で、「彼なら大丈夫」という上司の一方的な認識で、適任とはいえない部下が仕事を振られていることも多々あります。

 私自身はこれまでプロ野球選手として、またメジャーリーグのスカウトとして、日米さまざまな現場を見てきた中で、また最近では少年世代のチーム改革や選手のコーチングなどを通じて、そうした「認識のズレ」を目の当たりにしてきました。この記事では、拙著『C3チームビルディング』をもとに、組織や会社で「相手を知ること」や「アドバイスや指示を出すこと」には、どんな視点が必要なのかをお伝えします。

たった数週間で部下を「わかったつもり」になっている上司

 たとえば、メンバーの個々の状態を見ることは、チームがいまどういう状態なのかについても観察することにつながります。しかし、数日でわかるほど人間というものは単純ではありません。「観察」や「分析」には相応の時間が必要です。判断されるほうとしても、それほど短い時間で判断をされたくないはずです。

 いまの時代は早く結果を求められるので、結果を急ぎすぎて、十分な時間をかけずに「彼はできない社員だ」「彼女は仕事が遅い」といった判断を下してしまい、結果的にメンバーの能力を活かせていない場合も多いと感じます。また、こうした判断が若者の離職や休職にも通じる部分があると私は考えています。

 物事はそう簡単には変わっていきませんから、かける時間として相応の期間を見ておく必要があります。中には、1年くらいは演技をして「ネコをかぶっている人」さえいるので、だからこそ、人を見極めるのに「ある程度の時間」は必要なのです。

 もちろん、「仕事=結果を出すこと」という考え方から、さすがに1年間などと悠長なことを言っていられない場合もあります。それでも最低でも数カ月は必要で、2〜3週間で「相手のことをわかる」ことはまったく不可能だと言ってもいいでしょう。

「観察」と「分析」を深めてアドバイスにつなげていくためには、「この人はこんな人かな」と分析するためのベースが必要です。当たり前の話ですが、そのために、まずは「話す」ことでメンバーとコミュニケーションを取る必要があります。相手の話し方や態度から汲み取れる情報は少なくありません。これらのことは当たり前と思いがちですか、この「当たり前」のことをしっかりできるかどうかは重要です。

コミュニケーションの次は「意見のすり合わせ」

 いまの20代が送っている生活は、40〜50代の人たちが送ってきた20代のときとは大きく異なります。ということは、同じものを見ても、「感じること」や「考えること」が大きく異なるのは当然です。ですから、私はまず、観察してから、

「これについては、君にはどういうふうに見えてる?」
「君はどう考えている?」

ということを尋ねます。「相手の視点に立つ」ための材料が初めに必要だからです。

 野球を例に挙げると「後半にストライクが入らなくなったのはどうしてだと思う?」というように、なるべく自己分析をさせたり、「うまくいっている部分とうまくいっていない部分がわかっているか?」という具合に聞いてみたりします。

 ビジネスの場面でも同じように、

「君はどう考えてこの資料をつくったの?」
「私は、こうしたほうが相手もわかりやすいと思うけど、君はどう思う?」

という言い方にするとよいでしょう。

 そうやってすり合わせしていくと、「この人はこういうものの捉え方をしているな」という点が見えてきます。こうした問いかけは、立場が上の人が下の人に向かって言うと、萎縮させてしまうこともあるので注意が必要ですが、まずは相手の捉え方を理解する上で、「視線の高さ」を合わせてみることが第一歩になります。

ベテランが「20代の悩み」を軽視する理由

 マネジメント層にあたるであろう40代・50代と、新人で会社に入りたての20代とでは、「経験の量」も違います。これも「感じること」や「考えること」に違いを生じさせます。たとえば、いま20代が悩んでいることも、40代・50代のベテランはすでに経験していたりするので、つい「ちっぽけなこと」のように感じてしまいます。それを、

「俺が若いときは……」
「いまの若いヤツは……」

などと「一方的な価値観の押し付け」をしてしまうのは、百害あって一利なしです。ベテランなら「あぁ、どうせこういうことだろ。たいしたことじゃない」と軽く見るようなことでも、20代の人は、人生でそのとき初めて経験していたりするので、「ちっぽけ」とは思えません。だから話が噛み合わないままなのです。

 これを防ぐには、指導者とメンバーの間にある「物事の認知の差異」を、コミュニケーションによって埋めていかなければなりません。ビジネスの世界においても、「指示待ち人間」や「自分がどうしたいかわからない人」はいます。このような「自発的」な行動を取れない人に対しても、本来であればコミュニケーションで埋めていくべきです。これらをきちんと行ってからでないと、指導や助言が的外れな結果を招いてしまうのです。

2つの意味の「過保護」

 日本には未だに根強く「子どもがどう育つのかは親の責任」という風潮があります。これももちろん一理はあることは確かです。ただ、私が特にリトルリーグや中学・高校世代の野球チームを見てきた経験からいえば、いまの日本は、「超過保護大国」といっても過言ではありません。

 一般的に「過保護」というと、自分の子どもが可愛くてしかたがないゆえに、「親バカ」の延長として「親があれもこれもやってしまう、すべて決めてしまう」ことをイメージする方も多いと思います。

 一方で、親の上から目線で「子どもは、教え込んでいかなければいけない未熟な存在である」と軽く見て、子ども自身の「個」を尊重しない姿勢も、ある意味で「過保護」なのです。

 親が子どもを自分の所有物のようにして育てるので、何でも教え込んでいき、子どもを一個人として扱わず、子どもに「自ら考えさせる」ということをしません。このような構図で育ってしまうことで、会社や仕事においても「上司と部下」の関係に大きく影響している部分があるのではないでしょうか。

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強い組織にするために大切な「目的意識」を持つこと

 もちろん、指示したことをしっかりとやってくれる人も必要です。みんなが「それはやりたくない」と言ったら、チームも会社も回りません。誰もがやりたがらないことをできる人や、嫌だと思いながらもできる人がいるのが強いチームです。

 ただ、「言われたままを何も考えずにやる」のと「言われたことの意味を考えて自分なりに咀嚼し、納得した上でやる」のとでは、結果はまったく違ったものになるでしょう。それに、そもそもかつてのように「黙ってこれをやっておけばいいんだ」と言っても人は動きません。「何のためにやるのか」がないと、人は行動しない時代になってきています。

 人生にとっては無駄なことはひとつもありませんが、そのときそのときの人生の局面において、無駄と思ってしまうことはあります。それを防ぐために、「これは何のためにやるのか」を明確化してあげることが、上司や指導者の務めです。

 目的が明確になると、個人がしっかりしていれば勝手に「自分の役割はこれだ」と決めて勝手に動きます。もちろん最初は指示されないと動けないでしょうから、そのときには「この目的のために、これをやろう」と方向性を示してあげる必要がリーダーにはあるのです。

 

■小島 圭市(こじま・けいいち)
 C3.Japan合同会社 代表。1968年神奈川県川崎市生まれ。東海大学付属高輪台高等学校卒業後、読売巨人軍に入団。1996年MLBテキサスレンジャーズとマイナー契約。1997年傘下チームのフロリダとオクラホマでプレー。その後、中日ドラゴンズ、台湾プロ野球の興農ブルズでプレー。2000年に現役引退を決意。ロサンジェルス・ドジャースからスカウトの打診を受け、同年からMLBロサンジェルス・ドジャースのアジア担当スカウトを13年間務め、アマチュア選手の獲得にも積極的に活動。プロでは、斎藤隆投手や黒田博樹投手の獲得に関わる。その後、ビジネス業界に転身し、現在はC3.Japan合同会社の代表を務める。

 

小島氏の著書:
C3チームビルディング

小島 圭市