毎朝、楽しみな名物コラム

『私の履歴書』は、日本経済新聞の朝刊最終ページに毎月1人の自伝を1か月間連載する名物コラムです。経済メディアということもあり、登場するのは経営者が多いですが、ノーベル賞受賞者、俳優、スポーツ選手など多種多彩の顔触れです。時には、朝から自慢話ばかりで辟易することもありますが、偉業を成し遂げた人物の回顧録からは、やはり学べることが多いと思います。

今月は、吉野家ホールディングス会長の安部修仁氏の自伝を連載中ですが、筆者は、飾らない安部氏の人柄に惹かれてしまい、毎朝、真っ先に読んでいます。吉野家にこんな苦労の歴史があったのかと驚かされたり、今度は「特盛」に挑戦してみようかと感じ入ったりする時もあります。

連載後に会計不祥事が発覚した東芝は例外か

さて、その『私の履歴書』ですが、“連載後の業績や株価は振るわない”という都市伝説のような言い伝えがあると株式市場関係者から聞いたことがあります。その最たる例は東芝です。東芝の岡村正相談役の連載は2014年3月でした。その1年後、会計不正問題が発覚し、同社の信頼が大きく失墜したことは記憶に新しいところです。

とはいえ、東芝の例だけを持ち出すのはアンフェアですし、毎朝、楽しみに読んでいる『私の履歴書』にそうした負のアノマリーがあるという都市伝説は、できれば妄言であって欲しいものです。そこで、今回は2005年からの12年間に取り上げられた上場企業関係者の連載(39社)について、連載最終日から1年後の株価がどうなっていたのかをチェックしてみました。

2005年から12年間の掲載企業の株価をチェック。その結果は?

結論としては、1年後の株価が上昇していたのは39社中19社、対TOPIXでアウトパフォームしたのが22社でした(連載から1年未満の銘柄については、直近までの期間でパフォーマンスを調べています)。

個別企業の株価は、当然ながら市場環境の影響を大きく受けますので、市場平均、つまりTOPIXに対してどうであったかという評価がより重要だと思われます。このため、サンプル数の半分以上がアウトパフォームしていたという結果からは、”連載後の株価は振るわない”という都市伝説は、根拠に乏しいという判断ができると思います。

ちなみに、相対パフォーマンス(個別企業の変化率からTOPIXの変化率を減じたもの)が良かったベスト3の連載は、立石義雄・オムロン名誉会長(2012年11月、相対パフォーマンスは+71%)、今井敬・新日本製鉄名誉会長(2012年9月、同+51%)、篠原欣子・テンプスタッフ創業者(2013年6月、同+36%)でした。

これからも、“いつかはこのような人になりたい”、と思わせるような刺激的な連載が続くことを期待したいと思います。

注:肩書きは全て連載当時のものです。

 

和泉 美治